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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第4章 青春の分水嶺

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第34話

 その後も旭丘は八面六臂の大活躍で、個人競技は当たり前のように一位、クラス対抗競技でもその能力を全面に発揮。クラスを一位に導いていた。


 旭丘が競技に出る度に観客が集まりその結果に盛り上がるという異様な光景が眼前に広がっている。まあ、全校生徒が体育祭に全力で取り組んでいるという点においては、悪いことではないが……。


 そんなこんなで、残る種目は三年生のクラス対抗種目と目玉である二人三脚リレーを残すのみになった。


 これまで目立ったトラブルはなく、生徒会が表に出ることもなかった。かなり安定した体育祭と言えよう。


「順調ね」


 本部で隣に座る旭丘が、校庭を見ながら呟いた。


「そうだな」


 今行われているのは、三年生のクラス対抗種目、棒引きだ。


 なぜ綱ではなく棒を引くのかの理由は定かではないが、ルールは綱引きと一緒。男女入り混じって一斉に棒を引き合い、相手のクラスより引けていれば勝ちといった、シンプルなルールだ。


 三年生の種目とあり、この競技はそれなりに盛り上がる。だが旭丘が出ていた競技ほど盛り上がらないのは、なんとも皮肉な話である。


 そんなことを全く気にしていなさそうな旭丘は、素知らぬ顔で三年生の棒引きを眺めていた。


「結構盛り上がってるわね」

「……ソッスネ」


 棒引きはトーナメント制になっており、負けた時点で退場となる。


 三年生は八クラス。ちょうど一回戦目が終わり、四クラスが戦いの場から降りた。

 続く準決勝。勝ったほうが決勝へ上がれるため、先程よりも気合が入っている様子だ。


 開始の合図がなり、どのクラスも掛け声とともに全力で棒を引き合い始める。その掛け声もクラスごとにオリジナルのものが設定されており、その違いも面白い。


 結果、決勝に進んだのはA組とG組。ちなみに我らがE組は、初戦敗退を喫していた。


 残るは決勝。一位と二位では得られる点数にかなり差があるため、ここは是が非でも勝ちたいところだ。もう終盤ということもあって、全クラスの点数は既に隠されており、実行委員にしかわからない状態になっている。


「このままなにも起きないといいけれど……」

「お前今、盛大にフラグ立てたぞ」


 俺が言い終えると同時に、スタートの合図が鳴った。


 決勝ということもあり、先程よりもギャラリーが集まっている。下級生もA組とG組の生徒は声を出して応援しており、そこには一体感が生まれていた。


 一進一退の攻防。どちらも譲らなかったが、これは勝負。


 棒が土に落ち、歓声と同時に審判の笛が鳴る。


「勝者、A組!」


 一瞬で沸き立つA組の応援席。


 誰もがA組の勝利だと思った時。


 その隣にいたG組の応援席にいた生徒たちが口々に叫んだ。


「いや、絶対こっちが引いてたって!」

「どこ見てんだよ審判!」


 それぞれの担任の先生が両手を広げて制止しようとするが、叫び声は止まらない。

 見れば競技を行っていた三年生も、審判に詰め寄っていた。


「これは……」

「よくないわね」


 すると、審判に当たっていた実行委員の生徒が、本部に急いで走ってきた。


「すみません、お願いします!」


 いっそ潔いほどの丸投げ。俺と旭丘は目を合わせ、同時に立ち上がる。


「見事なフラグ回収ね」

「自分で言うな、自分で」


 そんなことをぼやきながら、問題の地点へと走って向かった。



 俺と旭丘が現場に着くと、詰め寄られていた審判が露骨に安心したような顔をした。上級生に詰められるのはあまりにも可哀想なので、早く開放してあげたい。


「旭丘」


 いけるか、そう意味を込めて、名を呼んだ。


 その意を汲んだ旭丘は笑顔で、


「任せて」


 そう返事をして、その審判とバトンタッチをした。


 あとは見守るだけ。もう心配も、していないが。


 三年生たちの前へ出た旭丘は、よく通る声で話し始めた。


「生徒会です。まずは詳しい状況を教えてもらっていいですか?」


 すると、A組の先頭にいたリーダー格の男子生徒が手を挙げ、まだ息を切らせたまま口を開いた。


「うちの意見からいいか? 最後の合図の直前に、俺たちが一気に引き戻したんだ。それでロープが線を越えて……。G組はそのときもう力抜けてたし、手離してたやつもいた。だから勝ちはA組だと思う」


 彼は冷静に努めて意見を言った。勝者である判定を受けた余裕もあるだろうが、事を荒立てたくない意思も感じた。


 旭丘はうなずき、今度はG組側を振り返る。


「では、G組の先頭だった方はどうですか?」


 G組の先頭にいたであろう女子が悔しそうにロープ跡を指しながら口を開く。


「最後はこっちが押してた! ロープもちゃんとこっちまで来てたし、笛が鳴ったから離しただけで、力抜いてたんじゃない。ほら、砂の跡もこっちに深くえぐれてるでしょ?」


 少し感情的になりながらも彼女は必死に伝えた。


 それぞれのクラスが再びざわめき始め、A組からは「言い訳だろ!」、G組からは「誤審じゃん!」と声が飛ぶ。


 この場合、どう判断するか。


 A組もG組も、絶対に譲らないことは明確だ。それぞれが自分たちの主張を信じて疑わない。


 そして審判に誤審がなかったとも言い切れない。高校生の体育祭のビデオ判定なんてものはないし、所詮は人の目。間違えることだってある。


 時間が許せば再戦がいいだろうが、生憎時間は押している。


 どちらの意見も聞き入れつつ、折衷案を探すのがベターか。


 思考を巡らせていると、旭丘が口を開いた。


「なるほど、両者の意見はわかりました」


 その一言で喧騒は収まり、次の一言が注目される。


 旭丘は少し間を置き全員の顔を見渡して、


「審判の判定はA組の勝ちでした。しかし、G組も最後まで粘って引き返していたのはみなさんが見ていたはずです。なので――この試合は『公式にはA組の勝利』とします。ただし『両組の健闘を称える特別ポイント』を加える、という形にするのはいかがでしょうか?」


 そう、堂々と言ってのけた。


 だが当然、疑問も出てくる。


「特別ポイントって?」


 G組の先頭の女子が声をあげた。


 その質問にも、旭丘は冷静に答える。


「はい。特別ポイントは、通常の得点に加え両者の得点差を縮めるためのものです。通常一位は百ポイント、二位は七〇ポイントですが、今回の勝者であるA組にはそこにプラス三〇ポイント、G組にはプラス四十五ポイントを加え、両者の得点差を一五ポイントとします。

 勝敗をつける以上差はついてしまいますが、一五ポイントならまだ巻き返し可能な範疇だと思います。さらに既に敗退してしまったクラスにはプラス三〇ポイントを与え、差が開きすぎてしまうことも防ぎます。いかがでしょうか?」


 理路整然と話し、最後には確認を取る。この二つのクラスだけ有利にならないように、他のクラスにも気を配る。


 どの対応も、球技大会のときの旭丘には見られなかったものだ。先生や会長に学んだものが、確実にこの場に活きている。


 旭丘の誠実な対応は、次第に三年生たちにも伝播していった。


「両方にポイント……悪くないんじゃない?」

「点差は気になるけど……しょうがないか」

「両方に点が入るならありかな」

「いいんじゃない?」


 次々に肯定的な反応が見られ、先生や実行委員の許可も取り、この案が通った。


「ではこの案で進めます。ご協力感謝します」


 今度は今の決定を全校生徒に伝えなければならない。


 旭丘は俺に小声で依頼してきた。


「立野くん、頼めるかしら」

「ああ、もちろん」


 俺は走って、放送席へと向かい簡単に原稿を作った。それを放送委員に渡して、その内容がスピーカーを通して全校生徒に伝わる。


『ただいまの協議の結果は――』


 説明が終わると同時に、その場に残っていた三年生たちの退場が始まる。それと同タイミングで、旭丘も本部に戻ってきた。


「お疲れ」

「うん。……上手くできてた?」


 旭丘は自信なさげだ。あれだけ上手くまとめたのだから、もっと自信もっていいのに。


「あの場で考えられる最適だった。よく頑張ったな」

「ほ、ほんと?」

「ああ」

「よかった……!」


 旭丘は顔をほころばせ、心から安堵したような表情を見せた。


「すごい緊張した……」

「そうだったのか? 全然そう見えなかったけど」

「足震えそうだったよ。……でも、立野くんが後ろにいてくれたから、なんとかなった」

「なんだそれ。ミスったら怒られるから頑張ろう的な?」

「違うわよ……」


 これで生徒会としての仕事はほとんど終わったと言っても過言ではない。


 次の種目である二人三脚リレーは、正直競技というよりはイベントとして盛り上がるものだ。


 一クラス三組の男女ペアを選出し、学年で縦に割って九組で行われるリレーだ。

 男女ペアということでクラス内のカップル、いい感じの二人、運動神経の良い二人など、選び方は多種多様だ。


 どういう選び方をしても結局は盛り上がるし、このリレーを機に付き合うカップルなどもいるので、この体育祭の目玉になっている。


 だがまあ、当然のごとく俺には関係のないことである。


 うちのクラスからは湊と知佳のペア、そしてカップル二組が出場する。特に湊と知佳のペアは既に注目されており、先程彼らのうちわを作ってきている生徒を見た。正気か?


 だが関係はない。俺は本部のテントで適当に応援するだけなのだ。


 そのはずだったのに。


「立野!」


 俺の名前を呼びながらテントに入ってきたのは、クラスメイトの男子だった。やけに慌てており、息も切らしている。


「どうした? そんなに慌てて」

「実行委員の二人が怪我して……! 補欠だから呼びに来たんだ……!」

「待て、誰が補欠だって?」

「立野と旭丘だよ」


 俺はその日一番の、間抜けな声を出したと思う。


「は?」


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