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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第3章 君のいない教室

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第28話

 その後俺たちは、部活中の湊や知佳に謝罪して回った。


 湊は相変わらず爽やかな笑顔で迎え入れてくれたし、知佳は俺のことを無視して旭丘の心配ばかりしていた。今や二人はすっかり仲良しだ。


 学校を出る頃には、すっかり夕焼けが空を赤く染めていた。


 まだ夜ご飯には早いが、今日一日まともな食事を取れていないせいで空腹が限界を迎えつつある。


「お腹空いた……」


 駅に向かうバスの待ち時間、気付けばそんなことを口にしていた。


「あんまりご飯食べれてないもんね」

「帰りどっか寄ろうかな……」


 最寄りである練馬駅は栄えていると胸を張っては言えないが、夕食を選べるくらいにはお店がある。パスタかハンバーガーかラーメンか、それとも定食か……悩ましいところである。


「あの、さ」

「なんだ?」

「もしもう少し我慢できるならご飯作るけど……どう?」


 旭丘はそう、上目遣い気味に聞いてきた。


 きっと彼女はどこぞのあざと後輩と違って、狙ってやっていない。狙ってやっていないからこそ、たちが悪い。照れているのを、からかって誤魔化すことができないから。


「……いいのか? 旭丘だって疲れてるだろ」


 理性を振り絞って、なんとかそんな言葉を取り繕った。


「うん、結局自分の分も作らないといけないし。一人分作るなら二人分作るほうが楽なのよ」

「そういうものか……」


 作り手がそう言うのであれば、こちらが拒否する理由もない。


「じゃあ、お願いします。食材費はこっちで持つから」

「わかった。何食べたい?」

「……オムライス」


 なんとなく、ぱっと浮かんだのがそれだった。


「オムライス好きなの?」

「多分……?」

「なんで疑問形なのよ」


 旭丘は可笑しそうに笑ったところで、石神井公園駅行きのバスが到着した。


 この時間だからか乗客はまばらで、二人掛けの席が空いている。窓際に旭丘を座らせ、俺も腰を掛けた。


 なんか、激動の一日だったな……。


 朝から秋田に行き、人の家の前で叫び、そのまま東京にとんぼ返り。高校にも顔を出し、今こうしてようやく帰路につけている。あまりにもアグレッシブで、いつもの日常からは大きく逸脱した一日だった。


 それを自覚すると、急に身体が重くなる。座席に沈み込みそうだ。


 それに伴って眠気も急に襲ってきた。ずっと気を張っていたためか、行きの新幹線も帰りの新幹線も一睡もできていない。昨日からの疲れも相まって、今にも目を閉じそうだ。


 そんな時。


 俺の右肩に、小さな重みが触れた。


 最初は偶然かと思ったが、ふわりと甘いシャンプーの匂いが漂ってきたとき、それがもう偶然じゃないことに気づく。


 窓の外は、夕陽が都会の町並みをオレンジ色に染めている。彼女の横顔は、その光に溶けるみたいにやわらかくて、まるで夢の中の景色だった。


 声をかけようか迷ったが、規則正しい呼吸が耳に届き、やめた。


 彼女も俺のように疲れているはずだ。


 ずっとトラウマだった母親と対峙するのは、相当の体力を使っただろう。東京に戻る新幹線の中でも彼女はハイになっていて寝られていなかった。


 だから彼女も疲れがピークに達したわけだ。


 旭丘のことはそっとしておこう。そう決めたはいいが、今度は俺の眠気が吹き飛んでしまった。


 恋愛こそよくわからないが、一般的な美醜は判断できる。だから旭丘が大変優れた容姿であることもわかっている。


 そんな女の子が自分の肩に頭を乗せて寝ているのだ。男として、何も思わないわけではない。


 そして当の本人は爆睡をキメているときた。


「勘弁してくれ……」


 荻窪と石神井公園を結ぶバスは、眠りこける少女と、その少女のせいで悶々としている情けない男を乗せたまま、ガトゴトと忙しなく揺れていた。



 ◆



 一五分ほどで、バスは石神井公園駅へと着いた。


 気持ちよさそうに寝ている旭丘を起こすのは気が引けるが仕方がない。


「おい起きろ、着いたぞ」

「……ん」


 旭丘は俺の肩の上で目を覚まし、少し間を開けて勢いよく背筋を伸ばした。状況を理解したのだろう。頬が少し赤くなっていた。


「……ごめんなさい」

「……早く降りるぞ」


 お前が照れると、こっちまで恥ずかしくなってくるだろうが。


 急いでバスを降り、駅へと向かう。俺の後ろを旭丘が付いてくる。


 隣に並び、気まずそうに声をかけてきた。


「お、重くなかった……?」


 人の頭というものは案外重たいものだが、旭丘のそれは全く気にならなかった。というか、そんなことを気にしている余裕がなかった、というのが本音。


「全然。中身ちゃんと入ってるのか心配になるくらい」

「そ、そう……。って、ちゃんと入ってるわよ!」


 そんなやり取りでどうにかいつも通りを取り戻した俺と旭丘は、電車で練馬駅へと向かった。


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