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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第2章 行事に波乱はつきもの

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第20話

 体育館に戻った後も、結局忙しかった。

 試合が止まるほどのトラブルはあれっきりだが、やれファールの基準だのやれブザービートがどうだの、細かい部分の判断を求められた。

 そもそもバスケに関して知識がないのだから判断を下しようがないのだが、その場の状況を鑑みてできるだけ公平になるような指示を出すしかなかった。

 体育館でこれなのだから、校庭とテニスコートでも同じくらいトラブルが起きていてもおかしくはない。会長のことは一ミリも心配していないが、やはり旭丘のことが心配だ。

 そもそも人と話すこと自体あまり得意ではないのにこんな折衝役は酷だ。

 けれど俺もこの場を離れるわけにはいかない。

 だが気になる。


「そんなに気になるならいったらどうだ」

「おわ!?」


 突然聞こえた声に俺は全力で驚いてしまった。

 声の主はまたしても小竹先生。

 いつもいいところに現れるが、いつも突然だ。心臓が持たない。


「どうやって気配消してるんですか……」

「教員免許は絶使えないと取れないんだよ」


 そんなわけないだろ。そんな簡単に念使えてたまるか。


「まあそんなことはいいんだ。気になるんだろ、旭丘のこと」

「……気にならないと言ったら嘘になりますけど」

「素直じゃないなあ。というかちょっとイライラしてきたな。早く行け」

「ええ……わかりましたよ……」


 先生がこの場を見てくれるというので、俺は大人しくテニスコートへと向かった。何事もなければそれが一番良いのだが。



 テニスコートでは二年生女子のドッジボールが行われており、旭丘は選手として出場しながら生徒会の仕事も頑張っている。女子のドッジボールということでそんなにトラブルは起きないだろうという判断の元での人選だ。

 俺がテニスコートに着くと、なにやら体育館側のコートが騒がしかった。

 近づくと、一人の女子が足を抑えて蹲っているのがわかった。


「なにがあったんだ?」


 俺は近くにいた男子生徒に声をかけた。確かD組だった気がする。


「え? ああ、うちのクラスの女子が投げたボールがC組の子に当たったんだけど、その時に足挫いちゃったみたいなんだよ」

「そうなのか……」


 故意でないことが唯一の救いか。当ててしまったD組の女子もおろおろしている。


「大丈夫!?」


 その子のクラスメイトが数人駆け寄る。


「だ、大丈夫……」


 そう言ってはいるが、まだ立ち上がれない様子。ボールに当たっているため当然コートから出なければならないが、今はまだそれも難しいようだ。

 とはいえ、あまりにその時間が長いと試合進行に影響してくる。ドッジボールは一つの時計で二つの試合を見ているため、時計を止めることはできない。

 うまくコートから出てもらうしかないが……。

 旭丘もその様子をコートの外から見ていたが、下した判断は無慈悲なものだった。


「試合進行に影響があるため早く外野に向かってください」

「なっ……!」


 その言葉にクラスメイトは当然反発した。


「ちょっとその言い方はなくない!? 痛がってんの見えないわけ!?」

「わ、私は大丈夫だから……」

「でも……!」


 その子はなんとか立ち上がろうとする。しかし挫いた足を庇いながらだったので上手くバランスが取れずまた倒れてしまう。


「すごい痛そう……」

「大丈夫かな?」

「保健室連れてったほうがいいんじゃない?」

「てか、そんな子に外野に行けって正気?」

「あの言い方はないよねー」


 ギャラリーが次々とそんなことを口にする。

 旭丘はあくまで仕事を遂行しようとしているに過ぎないが、クラスメイトやギャラリーからしてみれば怪我人を無理矢理動かそうとしている人にしか見えない。心無いことを言われてしまうのも、無理はなかった。

 これ以上は見るに耐えない。気付けば、体が動いていた。


「すみません生徒会です! ちょっと語弊があったので俺から改めて案内します!」

「立野くん……」


 いろんな視線から遮るように、俺は旭丘の前に立った。


「怪我した子に関してはこのまま保健室に行ってもらいます。実行委員も付き添わせるので、クラスからも一人付き添いお願いできますか?」


 俺の問いかけに、「じゃ、じゃあ私が」と手を上げてくれた女子がいた。ありがたいと思いつつ、俺は再度口を開いた。


「外野に関しては本来補充できないんですけど、今回は事情が事情なのでこれもクラスから一人出せますか?」


 若干押し問答があったようだが、すぐに代役が決まった。


「すみませんご協力感謝します! 試合も再開でお願いします!」


 怪我した子は実行委員とクラスメイトに肩を預け、なんとか立ち上がり保健室へと向かった。幸い俺の判断に対して非難は出ず、なんとかその場も収まり試合も無事再開。一件落着だ。

 とはいえ、旭丘の対応に難があったのも事実。


「旭丘、ちょっといいか?」

「……ええ」



 俺は旭丘を体育館裏に連れ出した。球技大会中にわざわざこんなところに来る生徒もおらず、今は二人きり。喧騒が遠くから聞こえる。


「今日はずっとあんな調子だったのか?」


 俺は開口一番、そう切り出した。

 俺と旭丘は、今日の球技大会と来月行われる体育祭を生徒会として成功に導かれなければならない。失敗すれば、それなりのペナルティも課されることになっている。

 もし旭丘が先程のような態度と口調で今後も仕事を行うのであれば、至るところで軋轢が生まれてしまうだろう。そうなれば、会長からの使令を達成することは難しくなってくる。


「……そう、ね」


 俺の問いかけに、旭丘は俯き気味に答える。

 彼女の煮えきらない態度に、俺も語気が強くなっていく。


「わかってるのか? 球技大会と体育祭、成功させないと俺等の自由がなくなるんだぞ?」

「……わかってる」

「わかってるならどうしてあんな言い方になる? あれじゃ言ってることは正しくても誰も従ってくれないだろ」

「…………るわよ」

「え?」

「それもわかってるわよ! でも仕方ないじゃない! それ以外の言い方を知らないんだから!」

「旭丘……」


 彼女のその声と表情は、どちらも初めて耳にし、目にしたものだった。これほど感情的になった旭丘を、俺は見たことがない。


「わからないのよ、どう言ったら納得させられるかなんて! みんながみんなあなたみたいに立ち回れると思わないで!」

「……!」

「……私が悪かったのはわかる。それで迷惑をかけたのもわかる。でも、できないことを責められるのは、ちょっと辛い」

「……」

「……さっきは助かったわ、ありがとう」


 旭丘はそう呟き、その場に立ち尽くすことしかできない俺を置いてその場を去った。

 俺はほとんど倒れ込むように、近くの段差に腰掛けた。


「何やってんだ、俺は……」


 いつから人に講釈垂れるほど偉くなったのだろう。いつから自分にできることを相手に押し付けるようになったのだろう。

 旭丘がそういったことが苦手なのはわかっていたはずなのに。だから俺はここに来たはずなのに。あの状況で正しさを振りかざすことになんの意味があるのか。


「馬鹿だな、ほんと」


 俺はしばらく、その場から動けなかった。



 体育館に戻る頃には、もう昼休憩を迎えようという時間になっていた。

 小竹先生の元に駆け寄り、謝罪する。


「長い事すみません」

「別に構わんが……お前、すごい顔してるぞ?」

「え、まじですか」

「ああ。旭丘となんかあったか?」

「まあ……そうですね……」

「はは、どうせいっときの感情に任せて偉そうに説教でもしたんだろ」

「っ、なんで」

「顔にそう書いてある。でも反省も済んでるって顔だな」

「……先生には一生敵わないですね」

「先生は先生だからな。ま、あんま落ち込むな。お前らはまだ若い。どうとでもなるよ」


 先生はそう言って、俺の頭を軽く二度叩いた。


「……子供扱いしないでください」

「わかった。じゃあ恋愛対象として見るからな」

「やっぱり子供として見てください」

「最初からそう言え」


 今度は軽くチョップして、先生は微笑んだ。

 結局俺は、この先生のことを尊敬しているのだろう。そしてきっと、恩師は誰かと聞かれたらこの人の名前を真っ先にあげるのだ。


「さあ昼飯だ。しっかり食べて午後に備えろよ」

「はい」


 俺は敬意と好意を込めて、そう返事をした。


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