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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第2章 行事に波乱はつきもの

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第19話

 試合は一時中断。実行委員だけでは手に負えないということで、生徒会――俺も招集された。正直役に立たないことは明確なのだが、最終判断が生徒会に一任されているので顔を見せないわけにはいかない。


 コートに降りると、件の先輩たちが言い争っているのが聞こえてくる。


「お前が先にぶつかってきたんだろうが!」


 そう叫んだのは、胸ぐらを掴んでいる先輩。頭に血が上っているようで、周りも見えていないようだ。


「は? お前のほうが先だろ。てか、離せよ。服が伸びるだろ」


 打って変わって冷静に対応していたのは、胸ぐらを掴まれている先輩。心底嫌そうな顔をしていた。


「ああ!?」


 まさに売り言葉に買い言葉。口調は違えど、互いに煽り合っている状況に変わりはなかった。

 球技大会はまだ始まったばかりで、スケジュールもかなりタイトだ。こんなしょうもない喧嘩で遅延が発生するのは解せない。


「二人とも、一回落ち着いてください」

「あ? 誰だお前は!」

「俺は落ち着いてるけどな。こいつが勝手に熱くなってるだけ」


 全く落ち着いていない。本当に三年生か? そんなんだと受験落ちるぞ。


「俺は生徒会の立野です。こういう時の対応は一任されてるので、自分の指示に従ってもらいます。お二人とも、一度コートから出てください。交代です」

「はあ!? なんで俺が! というか、出すならこいつだろ!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返す」

「まあまあ。でも、早く出たほうが身のためだと思いますよ。周りを見てください」


 彼らはそれぞれ周りを見渡した。そこで自覚しただろう、自分たちがどう見られているかを。

 勝手にヒートアップして試合の進行を止めている。当然それをよく思うクラスメイトなんていない。


「……っ、わかったよ」

「……」


 いくらか落ち着いたのか、彼らは取っ組み合いをやめて素直にコートから出た。これで一応は試合を再開できる。実行委員に再開するように伝えて、俺は先輩たちの後を追った。



「それで、なにがあったんですか」


 体育館を出てすぐにある階段で、先輩二人は別々の場所に腰を下ろしていた。俺はそれを見上げる形で、階段の一番下に立っている。

 本当は無視したいところだったが、問題の種を摘んでおくに越したことはないし、この二人ならすぐに再燃しそうだ。未来の俺が楽できるように、今やっておくしかない。


「こいつが先に押してきたんだよ」


 先に口を開いたのは胸ぐらを掴んでいた先輩だった。先程から一貫して口が悪いので、便宜上口が悪い先輩としておこう。


「違う、お前がわざとぶつかってきたんだろ」


 口が悪い先輩のほうを一切見ずに答えたのは胸ぐらを掴まれていた先輩。なんとなく鼻につく態度なので、鼻につく先輩と呼ぼう。

 ここに来る前にこの試合を担当していた審判に状況を聞いたが、最初はよくある接触プレーだったらしい。そこから少しずつヒートアップして、最終的にああなったらしい。

 とても先輩とは思えない幼さだったが、本当に些細な接触プレーだけでここまで発展するのだろうか。なにか他に理由があるとしか思えない。


「まあそれはどっちでもいいんですけど。本当にそれだけが理由ですか?」

「……」

「……」


 俺がそう問いかけるも、二人は黙ってしまった。いや、これ絶対なんかあるだろ。


「……痴情のもつれ、とかですか?」


 これであってほしくはないが……。

 そんな思いも虚しく、二人はこの言葉に思いっきり反応した。

 口の悪い先輩は驚いた顔をこちらに向け、鼻につく先輩は髪の毛を触り始める。


「まじか……」


 俺は思わず天井を仰いだ。なにが悲しくて初対面の先輩の恋愛沙汰を聞かなければいけないのか。

 いや、ダメだ。未来の俺のために今頑張るんだ。頑張れ立野。負けるな立野。


「まあ第三者がいたほうが話しやすいかもしれないですし、何があったか聞いても?」

「……」

「……」


 当然の無言。突然現れた後輩に話すほうがおかしいか。そう納得した時だった。


「……こいつに彼女取られたんだよ」


 そうぼそっと呟いたのは口が悪い先輩だった。

 え、そういう展開? というかNTR? 勘弁してください……。


「は? 取ってねえよ。お前らが別れてから付き合い始めただろちゃんと」


 果たしてなにが「ちゃんと」なのかは全くわからなかったが、二人の間になにか誤解が生じていることは間違いなさそうだった。


「じゃあなんであの日わざわざ見せつけるようにして一緒に帰ってたんだよ!」

「知らねえよ俺は誘われただけだ」

「あ?」

「は?」

「ちょ、ストップストップ」


 また取っ組み合いが始まりそうだったので俺は急いで間に入る。本気で喧嘩を始められたらさすがに止められない。


「一旦整理しましょう。まずそちらの、口が悪い先輩。あなたが寝取られ現場を見たのはいつですか?」

「お前な……! まあいい。先週の金曜日だよ。それがどうした」


 口の悪い先輩は不服そうに答えた。


「じゃあ次。そちらのなんか鼻につく先輩。あなたがその彼女と付き合い始めたのはいつですか?」

「鼻につくって……。……こいつに見られる二週間前とかには付き合ってたんじゃないか?」

「お前やっぱり……!」

「はいそこすぐ熱くならないで。そちらの口が悪い先輩は、それを見るまで付き合ってると思ってたんですよね?」

「え? ああ、そうだけど」

「鼻につく先輩は、いつこの人が別れたって聞きました?」

「……一ヶ月以上前だな。振られたって本人から」

「は、はあ? なんでそんな話に……」


 口が悪い先輩が困惑するのも無理はない。というか一番かわいそうだ。明らかに被害者である。鼻につく先輩だって別に悪いことはしていない。別れてから一ヶ月近く経っていれば別に付き合ってもいいと思うだろう。しかもそれが「振られた」という理由であるならなおさらだ。


「単純な話です。その彼女さんは、口の悪い先輩をキープしつつ、鼻につく先輩にアタックしてたんですよ」

「なっ……!? 二股ってことかよ!?」

「……!」

「時期がしっかり被っているので、おそらくそうかと」


 その言葉を聞いて、口の悪い先輩が勢いよく立ち上がった。


「あいつのこと問い詰めねえと気が済まねえ。おい、お前も行くよな?」

「当たり前だ。早く行くぞ」


 鼻につく先輩もそれに追随し、二人は体育館に戻っていった。

 俺は一人、階段に残される。


「これでよかったのか……?」


 二人の間の誤解は解けたということは、二人が衝突する理由もなくなったのだから一応は解決だろうか。彼らの問題は彼らに任せるとして、生徒会としての仕事はこれでよしとしよう。

 持ち場に戻らなければ。そう思い階段を登ろうとした時、一人の女子生徒の声が聞こえた。


「いやー見事でしたね、先輩」


 声が聞こえた方向に振り返ると、そこには見覚えのある後輩が立っていた。


「お前は……」

「春日莉桜ですよ、いい加減覚えてください」

「あーそうだ、そんな感じの名前だった。で、お前がなんでこんなところに? 覗き見か?」

「こんな目に付くところで話してるほうが悪いと思います! というか、ちゃんと理由もありますから」

「というと?」


 一年生は今男子が校庭でサッカーをやっているはずだ。その間女子はどこにいても構わないが、基本的に男子の応援をすることが通例となっている。


「同級生のサッカーなんて見てもしょうがないじゃないですか。せっかくの球技大会なら先輩たちを見ないとって思ったんです!」


 彼女はそうにこやかに言ってのけた。どうやら同級生の男子は眼中にないらしい。


「湊はもういいのか?」


 彼女は先日の実行委員会が終わった後、湊に彼女がいるかどうか聞いてきたという過去がある。よくいる湊の追っかけかと思ったのだが、俺が適当にあしらうとあっさりと諦めたのだ。どうも単純な女子には見えない。


「湊先輩は無理ってわかったのでもういいんですよ~。あの先輩方もいいなと思ってたんですが、顔が良くても中身が伴ってないのでダメですねー。あ、ちなみに先輩もないですよ? 死んだ魚みたいな目してるので!」


 よく喋るな……。その上に余計なことも言うな……。というか俺、そんなに顔に覇気ないんだ。今度湊と知佳に聞いてみよ。


「……そうか。それで今日は三年生の視察か?」

「そうです!」

「良い人いるといいな」

「……先輩って変な人ですね」

「何を言う。俺は普通だぞ」

「そういうところだと思いますけど……。それに、普通は私のこんな話聞いたら引くか怒りますから」

「そうなのか? みんな意外と暇なんだな。それがお前の『普通』なら、俺がとやかく言う筋合いはないよ」

「……先輩、やっぱり変」

「うるせえよ。さっさと行け」


 春日はまるで子供がいたずらをするように、俺に向かって舌を突き出した。その顔には、無邪気な表情が浮かんでいて、春日のあざとさを全面に押し出している。

 そして彼女は足音を響かせながら階段を駆け登った。登り切ると軽やかに一回転して方向を変え、


「でも、嫌いじゃないです!」


 そう言って、軽く口角を上げながら指を俺に向かって突き出した。


「……どーも」


 投げやりな返事をするとそれに満足したのか、春日は華麗にターンを決めて体育館へと入っていった。


「なんだったんだあいつは……」


 もう関わりたくないなと思う反面、どうせまた関わることになるんだろうなと思わずにはいられなかった。


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