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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第1章 『普通』じゃない彼女

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第2話

 ホームルームはつつがなく終わった。席替えもクラス委員や係等の分担も終わり、今日はこれで終了だ。明日は入学式だが、俺は何も仕事がないのでもう帰ることができるというわけだ。新学期万歳。一生これでいい。


 そう思っていた時だった。


「あ、そうだ。立野、あとで職員室来てくれ」


 小竹先生がそう言い残し、教室を後にした。せめて用件を言ってくれないかな……。


「今度は何したの、彩人」


 そう呆れながら話しかけてきたのは、この都立井荻高校きってのイケメンこと、早宮湊はやみやみなとだ。こいつは今日も顔が良い。そして性格までいいのだから、非の打ち所がない。


「いや、なにもしてないって。というかお前、助けないどころか笑ってただろさっき」


 さっき、というのは俺と転校生で一悶着あったときだ。真後ろにいたにも関わらず、笑うだけで助け舟を出してくれなかった。


「ごめんごめん。思った以上に面白いことになってさ、ここ水差すのは違うかなって」

「そうよ、あんなに面白い状況自ら潰してたまるもんですか」


 横から茶々を入れてきたのは三原知佳みはらちか。俺に対してはかなりはっきり物申してくるが、なんだかんだ良いやつだ。ただそれを言うと気味悪がられるので、心のうちにしまっておく。こいつも湊と同様、横で俺を笑っていた大罪人だ。


 この二人とは一年生の時に知り合った。気づけば三人で行動することが多くなり、二年生でも同じクラスに。三年生になるタイミングではクラス替えはないため、これで三年間クラスが一緒ということになる。


自分を知っている人間が同じクラスにいるというのはやはり心強いが、この二人と話すと嫌でも目立ってしまう。まあだからといって、離れる気はないのだが。


「お前な……」

「まあまあ。でも一番悪いのは美咲ちゃんでしょ」

「あれは見事に彩人を売ってたよね……」


 それは俺も同感だ。確かに俺と旭丘は正反対だろう。だが、わざわざあそこで俺の名前を出す必要はなかったはずだ。何かしらの意図を感じる。ただの私怨の可能性もあるが。


「まあちょうど呼ばれたし、文句の一つでも言ってくるよ」


 湊と知佳に見送られながら、俺は職員室へと向かった。


 

入学式の準備で忙しいのか職員室は閑散としていて、目的の人物はすぐに見つかった。


「おー、立野。来たか」

「来たか、じゃないですよ先生。さっきのはなんなんですか」


 着いて早々、俺は先程の出来事について抗議をした。


「ああ、そのことか。本題はこの呼び出しだったんだけどな、お前、ただ呼んでも来ないことあるだろ。だからだよ」

「俺を抗議に来させるよう仕向けたってことですか?」

「そうだ。後は八つ当たり」


 小竹先生はニッコリ笑う。この教師ぬけぬけと……。

 意地が悪くなった俺は、思うがまま言葉を紡いだ。


「……そんなんだから結婚できないんじゃないんですかね」


瞬間、小竹先生の笑みが凍りつくのがわかった。

まずい、さすがに言い過ぎたか。そう身構えた俺の耳に飛び込んできたのは、予想外の話だった。


「……なあ立野。お前は六人で合コンしたのに自分以外の五人が遊びに行っている――なんてことを経験したことがあるか?」


 何を言い出すんだこの人は。


「いえ……。そもそも合コンすら……」

「そうだよな。先生は経験したんだ、一週間前に」


 結構最近だな。

 先生は頬杖をつき、哀愁を漂わせながら話し始めた。


「大学の同期にな、誘われたんだよ。あと一人足りないから来てーって。私は喜んで行ったさ。合コン自体も結構盛り上がってな、みんなで連絡先を交換して今度みんなで出かけようって話にまでなったんだ」


 ここまでは順調、と。


「でもな、ある日を境にグループチャットが動かなくなった。みんな社会人だし忙しいんだろうなって思ってた。――そう思ってたのは先生だけだったんだ」


 風向き変わったな。


「その週末だった。SNSに私以外の五人が遊んでいる投稿を見かけてしまったのは。少ししたら見れなくなったが、あれは私が見れることを忘れていたんだろうな。急いで消してたよ」


 話せば話すほどどんどん暗くなっていく。なんで話しているんだろうこの人……。


「はは……。結構いい感じだと思ってたんだけどな……」


 だが、さすがに見ていられないので、少しフォローすることにした。


「でも、多分それ先生は悪くないですよ」

「……!」

「俺が思うにですけど、先生の同期の方は先生で男どもを釣ったんじゃないですかね。先生の見た目だったら、いくらでも呼べると思うんで。でも本当にいい感じになられては困る。だから直前に適当な理由をでっち上げて先生が急に来られなくなったことを装って出かけた。そんな感じだと思いますよ。だからあまり気にせず……って先生?」


 先生は俺を見上げたまま固まっていた。確かに容姿は褒めたが……まずかったか?


 いかに先生をフォローするかにリソースを割きすぎて、そんな初歩的なことさえ忘れていた。


 けれど先生の反応は、これまた予想外のものだった。先生は勢いよく立ち上がり、俺の肩をがっと掴む。


「今、私のこと綺麗って言ったよな……?」

「それに近しいことは……」

「それはつまり、先生を嫁に貰ってくれるってことだよな……?」


 いや違えだろ。


「胸も小さいがいいのか……?」


 それはいいけど。


「立野来年十八だよな? ちょうど十歳差か……。いけるな」

「いけませんよ? 落ち着いてください」

「結婚してくれるって言ったのは――嘘……!?」

「あんた本当に捕まるぞ」


 あと求婚はしていない。

 その後も何度か押し問答をし、ようやく落ち着きを取り戻した小竹先生は椅子に腰掛けため息をついた。


「そうか……結婚できないか……」


 このままずっと引きずられそうなので、無理矢理話題を変える。呼び出したのは先生の方なのに。


「というか先生、どうして俺のこと呼び出したんですか?」


 その一言で、先生は先程の狼狽え具合が嘘かのように切り替えて話し始めた。大人って怖い……。


「ああ、私生徒会の顧問やってるだろ? 会長に頼まれてな。ちょっと生徒会室に行ってほしいんだ」

「嫌ですけど……」


 嫌な予感しかしないから。


「そう言うなって。今までお前が部活入らなくても庇ってきてやっただろ」


 ここぞとばかりに恩着せがましいが、こればっかりは事実なので仕方ない。


 俺の通う都立井荻高校は、部活動の入部自体は自由だが実際の入部率はほぼ百パーセントを謳っている。というか、俺が入学する前は百パーセントだったらしい。


 部活動に意欲的な高校、ということで売り出したいらしいが、俺がいるばっかりに百パーセントを達成できていない。同情の余地はあるが、部活動に入る気は毛頭ないので諦めていただきたいところである。


 去年から散々言われていたが、それを小竹先生が庇ってくれていたのだ。それ自体に感謝はしているが、それを交渉の材料にしてくるとは。


「人が悪いですね」

「大人ってのはこういうもんだよ」


 だが、俺も人の子。恩を仇で返すほど人間終わっていない。


「……わかりました、行きますよ」

「よし、じゃあ行くか」


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