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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第1章 『普通』じゃない彼女

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第1話

よろしくお願いします!

――座右の銘は『普通でいるくらいなら死んでやる』です。

 そう言い放った彼女との出会いは、俺の運命を劇的に変えてしまった。


 つまるところ、これは『普通』を目指している俺と、『普通』じゃない彼女たちの青春ラブコメ、だと思いたい。


     ◆


「お前らはいいよな……。こうやってほぼ毎年新しい出会いがあるんだから……」


 開口一番、我らが二年E組の担任、小竹美咲こたけみさきがそうぼやく。今日は一応新学期初日のはずなのだが、そんな空気を担任からは一切感じなかった。


我がクラスの担任こと小竹美咲は、絶賛婚活中の二十八歳。本人は『三〇までに結婚できなかったら死ぬ』と豪語している。昨年度も担任だったが、進捗はなし。誰か結婚してあげてくれ。


「社会人になると本当に出会いの場がないんだ。職場の人間は職場の人間としか見れないし、合コンもあるが先生の歳になってくるとそもそもセッティングされる回数自体減ってくるんだよ……。やっぱりあれか? マッチングアプリか?」


 三十路の婚活事情、生々しすぎる……。誰も聞きたくないと思います……。


「でも知らない人と会うのってやっぱり怖いよなあ……。その点お前らは恵まれてるよ。だって身分が保証されてるんだから。クラス替えもあって、今年なんて珍しく転校生だっているんだぞ」


 え、転校生? 今の流れで?

 そう思ったのはきっと俺だけじゃない。

 クラス全員からの「正気か?」という目線を気に止めず、小竹先生は進行を続けた。


「旭丘、入ってきてくれ」


 小竹先生がそう呼びかけると、教室のドアがゆっくり開けられた。


 転校生が教室に入るやいなや、クラスの雰囲気が一変する。そのあまりの容姿端麗さにクラスメイトが息を呑むのが分かる。かくいう俺も、いつの間にか視線を奪われていた。


 透き通るような白い肌、手入れが行き届いた艶のある黒髪、一般的なサイズから一回りも二回りも小さい顔、華奢で目を引くほどのスタイルの良さ。どれをとっても芸能人かそれ以上の素質を持ち合わせていた。


「では自己紹介を頼む」


 ここまで視線を集め、なにを話すのか。先程の喧騒が嘘のように静まり返る。ここまで静かになれば動揺や緊張をしてもおかしくはないはずだが、彼女はそんな様子を一切見せず、堂々としていた。


「はい」


 彼女はそう言って、一歩前に出た。そして、こう言い放った。


旭丘唯あさひがおかゆいです。座右の銘は『普通でいるくらいなら死んでやる』です。よろしくお願いします」


 あまりに好戦的な言葉に、誰もが呆気に取られている。それが絶世の美女から発せられれば尚更だ。忘れたくても忘れられない。そんなインパクト。


 教室は依然静まり返ったまま。当然だ。自己紹介は、当たり障りなく適量の自己開示をして様子を見る儀式だと俺は思っている。去年から学校にいる俺達でさえ、新しいクラスで初っ端から飛ばすやつは少ない。


 それをこの女はやってのけたのだ。それも転校生という身で。とても真似できない。というか、したくない。


 そんな沈黙を破ったのは小竹先生だった。


「結構結構。ちょうど正反対の奴もクラスにいるしどうなるか見ものだな」


 面白そうに手をたたきながらそんな言葉を口にする。余計なことを。


「正反対……?」


 ほら興味持っちゃった。しかも絶対悪い方の。


「あそこに座ってるだろ? 眠そうな顔の凡人みたいなやつ。あれだ」


 クラスメイトの視線が一斉に俺に向かう。そんな紹介のされ方をしたら誰でも見るだろう。大変に居心地が悪い。


 生徒を『あれ』呼ばわりした教師は続ける。


立野彩人たてのあやとって言うんだが、『普通』になりたくて『普通』を目指してる変な奴なんだ。旭丘と正反対だろ?」


 旭丘唯と目が合う。深い漆黒の双眸が、俺の目を掴んで離さなかった。目を逸らしたくても逸らせない。そんな迫力を身を以て体感した。


「……私には関係ないです」


 何秒にも思えた時間は、旭丘のその一言で終わった。思わず息を吐き出す。蛇に睨まれた蛙とは、まさにあんな状態を言うのだろう。


 それと同時に教室の空気が弛緩したこともわかった。随分と張り詰めていたので一気に緩む感じがある。


 ふと目を見やると、俺と旭丘のやり取りを黙ってみているだけだった小竹先生が満足そうににやにやしているのがわかった。なんで教師できてるんだこの人は……。


 ただ腐っても教師。緩んだ空気を一瞬で察知し、ぱんと手を叩く。


「さて、立野が振られて気味がいいことだし」


 やっぱり最低だこの教師。


「ホームルームでも始めるか。旭丘はそこの席に座ってくれ」

「はい」


 旭丘は静かに返事をして、教室の一番前の右端の席に座った。たったそれだけの動作なのに、どうしたって目を引く。そんな華が彼女にはあった。


 先生が今後の流れを説明し始めると、体の力が抜けていくのがわかった。よっぽど力んでいたらしい。手汗も出ている。たかが転校生の紹介で、こんなにも疲弊するとは思っていなかった。


 それに、新学期早々目立ちすぎている。全く目立たないのも問題だが、今日のあれはあまりに目立ち過ぎた。明日からはしばらく大人しく過ごそう。新しいクラスにも友達は何人か欲しい。


 けれどどうしてか、明日以降慎ましく学校生活を送るというイメージができなかった。そしてこういうときの俺の勘は、どうしようなく当たってしまうのだ。


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