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いつから俺の青春が『普通』だと思っていた?  作者: 結城 ユウキ
第2章 行事に波乱はつきもの

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第13話

 昼休み。俺はクラスメイトに連行される旭丘を見送ってから生徒会準備室へ向かっていた。


 生徒会準備室は生徒会室の中に入口があり、基本的には生徒会役員のみ利用できる部屋になっている。


 先週の金曜日、正式に旭丘とともに生徒会に入会した日に中を見せてもらったが、備品で溢れかえっているということはなく整理整頓されていて、なんなら冷蔵庫に電子レンジ、ベッドまである始末。泊まり込みで業務をするのも問題ない、社畜部屋と化していた。


 できれば二度と入りたくないと思っていた部屋に向かっているのには理由がある。


 どうやら小竹先生がセーラー服を着てくれる『約束』を果たしてくれるそうなのだ。


 お披露目場所に関して最初は立野家という案があったのだが、それは俺が必死に止めた。あまりにもいかがわしい匂いがしたからである。生徒の家に来て制服に着替え始める教師の絵面、やばすぎる。


 そうなると学校内だが、こんなアホなこと誰かに見られでもしたら先生の首が飛びかねないのでより安全な場所を求めて生徒会準備室になった。


 会長も今日のお昼は用事があって生徒会室には来ないそうなので、まさにうってつけの日というわけだ。


 とは言いつつも、俺は一体どんな感情で先生を見ればいいのだろうか。


 確かに先生の制服姿は見たい。


 一応先生の名誉のために改めて説明するが、先生は会長や旭丘と並んでも引けをとらないくらい綺麗なのだ。婚期を逃しそうで焦りすぎているもうすぐ三十路の化け物になっているせいで霞んで見えるが、本来は恋人が何人いてもおかしくないくらいの容姿を持っている。


 そんな人物が制服を、しかもセーラー服を着ようものならもう卒倒ものである。現役からでは得られない、コスプレだからこそ得られる栄養素というものがあるのだ。


 しかし、だ。


 先生はあくまで先生。しかもそれなりにお世話になっているし、仲も悪くはない。まあ、先生のせいで生徒会に入る羽目にはなったのだが。とはいえ、嫌いになるとか恨んでいるとか、そういったマイナスな感情は向けてはいない。


 そんな先生のコスプレを見て俺はどんな反応をすればいいのか。


 喜べばいいのか?


 それともドン引きすればいいのか?


 そんなことを考えているうちに俺は生徒会室へと辿り着いていた。


「まあ、なんとかなるか」


 そう一言呟いてから入室し、奥にある生徒会準備室のドアへ向かう。


「先生、いますか?」


 そう呼びかけると、中から微妙にテンションの高い先生の声が聞こえてきた。


「おお、来たか! 入っていいぞ」

「じゃあ、失礼します……」


 恐る恐るドアを開け目に飛び込んできたのは――白色のセーラー服に身を包んだ小竹先生だった。


「……っ!?」


 思わず息を飲む。


「どうだ? 似合ってるか?」


 その純白のセーラー服は、まるで光を反射するみたいに眩しい。生地は厚手の綿だろうか、コスプレで使われるような安っぽいものではなく、かなり上等なもののように見える。胸元には深い紺色のタイがぴしっと結ばれていて、白とのコントラストが映えて美しい。


 袖口と襟元には、同じく紺のラインが三本、きっちりと並んでいる。どこか懐かしさすらあるクラシカルなデザイン。スカート丈は膝より上で、その下には黒いタイツに包まれた無駄のない綺麗な脚がすらりと伸びている。


 丁寧に折られたプリーツが動くたびにふわっと揺れて隠れていた脚が見え隠れする度に、なんだかいけないものを見ているような、そんな気分になってくる。


「お、おい……なんか言ってくれよ……」


 放置プレイをくらっていた先生が不安そうな瞳で俺を見つめる。


「あ、すみません……めちゃめちゃ綺麗で見惚れてました……」

「ほんとか!? そうかそうかまだ現役でいけちゃうか」


 そこまでは言ってない。


 だが正直通用しそうなくらいには似合っていて綺麗だった。


 もっとコスプレ感が強くなってキツさがあるものだと思っていたが、容姿が整った人間が着ればそんなことはなくなることを俺は今日始めて知った。


「見た感じ結構いいものっぽいですけど、どうやって用意したんです?」

「ああ、これは私物だよ。中学校の時の制服」


 それにしては、やけに綺麗な状態だ。それこそ、新品同様に。


 クローゼットなどに閉まっていたのだろうが、三年間着たものがここまでの状態を保ち続けられるだろうか。


 そう疑問に思ったが、口には出さなかった。きっとまだ、触れるべき領域ではない。


「なるほど、道理でサイズがぴったりなわけですね」

「中学生の頃にはもう今と同じ身長――おいお前、どこを見て言っている?」


 先生の胸元は中学生の頃着ていた制服にすっぽり収まっている。ということはつまり、そういうことである。


「――先生、俺は小さいほうが好きですよ」

「教え子の性癖なんて聞きたくないんだが……」

「いいからいいから。先生、もっとよく見せてください」

「お、いいぞ。ポーズも指定してくれ」


 先生も見せ足りなかったのか、俺の要求にすんなりと答えた。


 こちらがポーズを指定すると、先生はノリノリでそのポーズをとってくれた。それこそ写真で撮りたかったが、それはしない約束になっている。だから俺は全力で目に焼き付けようとしていた。


「このスカートな、プリーツの入り方が秀逸ですごい綺麗に靡くんだ、見てくれ」


 テンションが上がってきた先生はそう言って、その場でくるっと一回転した。


 スカートがふわりと円を描いて広がり、プリーツの一枚一枚がまるで踊るように空気を含み、柔らかく揺れた。


 ああ、綺麗だ。


 そう思った次の瞬間、脚がもつれた先生がバランスを崩した。


「……っ!」


 俺は無我夢中で飛び出し、自分が下になるようにして倒れる先生と地面の間に入る。そして咄嗟に体の向きを変え、ベッドがある方へと倒れ込んだ。


 倒れ込んだ拍子に何かが足に当たり、大きな音を立てて倒れた。その音で我に返る。


「――先生! 大丈夫ですか」

「ああ、私は大丈夫。慣れないことはするものじゃないな。立野は大丈夫か?」

「俺は全然問題なしです。先生、羽みたいに軽かったんで」

「嬉しいこと言ってくれるな。でも、この体勢は、ちょっとあれだな」

「え?」


 俺は改めて、今自分がどういう状況になっているかを確認した。


 俺に覆いかぶさる先生を、両手で受け止めるような形。しかもその先生はなぜか制服を着ていて、我々はベッドに横になっている。


「これは確かに、まずいですね」


 俺は苦笑いで答える。


 こんなの誰かに見られたら、そう口に出そうとした瞬間だった。


 生徒会準備室のドアが勢いよく開く。


「何事ですか?」


 そこに立っていたのは氷姫こと、氷川雪華。


 ばっちり目が合う。先生と会長も、目が合っている。


 なにか言わなければ。


 そんな焦燥に駆られた俺は慌てて、


「これは、違うんです」


 という訳のわからない弁明をした。なにが違うんだ。


 そんな必死の弁明も虚しく、彼女は俺と先生を一瞥するなりゴミを見るような目に変わり、


「ごゆっくり」


 そう、氷のように冷たく笑い、ものすごい勢いでドアを閉め生徒会準備室を後にした。


「……」

「……」


 終わった……。


 写真を撮られなかっただけましだろうが、とにかくあの会長に見られてしまった。これから一生強請られ続けることになってしまうのだろうか。俺の高校生活はここまでになってしまうのだろうか。


 そんな不安に駆られつつも。過ぎてしまったものは仕方ないと思う自分もいる。


 もうすぐ昼休みも終わり。切り替えて午後の授業に臨もう。


 そう思い、俺は先生に声を掛ける。


「……先生、昼休み終わりますよ。そろそろ着替えたほうがいいんじゃないですか?」

「……」


 先生の反応がない。


 もう一度声をかけようと思った時、先生が上体を起こした。


 よかった、起きるんだ。


 そう思ったのも束の間、先生は俺の顔を挟むように両手をついた。いわゆる「床ドン」の体勢だ。


 起き上がった先生と、目が合う。


 潤んだ瞳、上気した頬。いつもとは違った表情をしている先生に、俺は動揺を隠せなかった。そしてそのあまりの美しさに、声も出せなかった。


 先生は右手で垂れた髪を耳にかけ、そのままその手を俺の頬に添えて、


「ゆっくり――していくか?」


 そう、蠱惑的に微笑んだ。


 俺は当然、こう答えた。


「……できるか!!」


 その声は、まだ廊下にいた会長にも届いたという。


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