第11話
課題が提示された翌週の月曜日、今日から本格的に球技大会の準備期間へと移っていく。
各学年の各クラスで実行委員が選出され、学年ごとに種目が決定される。
種目が決まり次第、体育館や校庭、テニスコートの使用順や使用時間を詰めていくといった流れだ。
とはいえ生徒会の役割はあくまで全体的な取りまとめ、サポートである。当日の運営や進行は基本的に実行委員に任せることになっており、これは会長が仕切っていた去年から変わらない。
始まる前から気が重いが、表立って動くことがないだけマシだと思おう。
そんなことを考えながら教室に入ると、いつもは挨拶を交わす程度のクラスメイトが話しかけてきた。それも集団で。
「おお立野、お前生徒会入ったって本当か?」
クラス替えをしてからまだ二週間程度しか経っていないが、湊と知佳といっしょにいることが多いからかこうして普通に話しかけられることが多くなってきた。
なんか変なことしているみたいだけどあの二人が仲良くしているからいいか……みたいな空気がクラス中に蔓延している。失礼だぞ。わかるんだぞそういうの。
それはそれとして、俺はその問いかけに思わず顔を引き攣らせた。
情報が回るのが早いな……。
湊と知佳にしか言っていないし、旭丘が言うとも思えないので、考えられるのは会長か。
確かに、この学校の生徒会の体制を考えれば、生徒会に入る生徒が現れたという事実は多かれ少なかれ衝撃があるだろう。クラスメイトが興味を持つのも頷ける。
これが嫌だったから黙っておきたかったのにと思いつつ、会長に先手を打たれてしまったらもはや抵抗することはできない。というか、そこまで想像できなかった俺が悪い。
今更否定もできないので、俺は雑談をするように受け答えをすることにした。
「本当だな」
「まじか! え、どうやって入ったん?」
どうやって、と問われると弱い。先生がしくじった結果会長に脅されて、なんてことは口が避けても言えないからな。
「それは俺にもわかんないけど気づいたら入ってた」
「なんだよそれー!」
真面目な顔して答えをはぐらかすと、今度は女子が会話に参加してきた。
「ね、旭丘さんも入ったって本当?」
俺が生徒会に入ったという噂が流れるのであれば、当然そちらも流れるはず。旭丘はまだクラスに馴染めていないし、その質問が俺に飛んでくるのも必然だった。
「それも本当だな」
「本当なんだー! え、なんでとかって知ってる?」
「それはさすがにわかんないかな」
俺が勧誘しました、なんて言えるわけもなく。
「だよねー。でもちょっと旭丘さんには話しかけづらいからなあ……」
確かにクラス内の旭丘唯は、どこか話しかけづらい雰囲気を持っている。そもそも自己紹介の一言が強烈だったし、クラスにいないことも多い。
だが、意外にも旭丘に興味をまだ持っている人間がいた。
旭丘も旭丘で人間関係の構築は苦手そうだが、好意を持って接してくる人間を邪険に扱うような真似はしないだろう。
「まあ確かにあいつは変なやつだけど」
「それ、立野くんが言う?」
「いやいや俺は普通だから」
「あー……そうだね」
……なにその反応。え? そういう感じなの、俺って。
いたたまれない気持ちになりつつ、俺は彼女に言った。
「とにかくあいつは悪いやつではないから。昼とか誘ってやってくれよ」
本人に聞かれたら怒られそうなお節介を焼いていると、タイミングよくその本人、旭丘が教室にやってきた。
すると先程まで話していた女子たちが一目散に旭丘のところへと向かう。
女子の行動力怖い……。
急に囲まれてびっくりしている旭丘を横目に、俺はようやく自席へと辿り着いた。
前の席には朝練後だというのにいつもどおり爽やかな湊が座っている。
「おはよう彩人。朝から大変だったね」
「全くだ。手回すのが早すぎるんだよ会長は」
「サッカー部もみんな知ってたよ」
「だよな……」
となるともう全校生徒の耳に入っていると思っていていいだろうな……。
「女バスもみんな知ってたわよ」
同じく朝練終わりの知佳からも同じ報告が上がる。
「俺にもう平穏な日々は来ないんだな……」
真面目に凹んでいると、知佳から声をかけられた。
「そうだ、立野。一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「この前の旭丘さんのあれ、生徒会の調査って聞いたけど、ほんと?」
「……!」
その情報には素直に驚くしかなかった。
どうやら会長は俺と旭丘が生徒会に入ったことと同時に、旭丘が行ったことの『改変』をしたらしい。例えば、旭丘唯の部活動殴り込みは生徒会の調査の一環である、とか。
というかそもそもこれが狙いだったのでは……?
旭丘が起こしたことは会長にとってはあまり都合のいいことではない。だから旭丘を正式に生徒会に引き入れ、旭丘の行動を半ば無理矢理にでも正当化する。
そうだとするならば、会長が旭丘を是が非でも生徒会に加入させたかったのにも頷ける。騒ぎを沈静化し、今後の旭丘の手綱を握るという、まさに一石二鳥だ。
そしてあまりにも早い噂の広がり方。きっと前もって準備していたのだろう。
旭丘とともに生徒会室を訪れたのが先週の金曜日。
今日は月曜日なのでこの土日の間に会長は『そういうこと』にしたということになる。それも会長とは全く関わりのない知佳に届くくらいに広く、だ。
どういうからくりがあるのかは全くわからないが、『そういうこと』になっているのであれば、俺はそれに合わせるしかない。
「まあそんなとこだな」
「ふうん……」
知佳はこれが会長の手が回ったものだと気づいているはずだ。ただ同時に、生徒会の一員としてそう言うしかない俺の立場もわかってくれるはず。
「はあ……。わかった、そういうことにしといてあげる」
「助かる」
呆れながらも、知佳は俺の我儘を許してくれた。
我儘ついでに、例の件をお願いしてみようか。
「なあ二人とも、お願いがあるんだけど」
「また?」
そう口に出したのは知佳。当然の反応だ。
「なに?」
優しく聞いてくれるのは湊。優しすぎるよ、お前。
「球技大会と体育祭の実行委員、やってくれないか?」
「別にいいけど」
そう不機嫌ながらも承諾する知佳と、
「いいよ」
ただただ承諾する湊。即答すぎる。
さすがにこのままお願いしますというわけにはいかないため、思わず引き止めてしまう。
「いや、俺から頼んどいてあれなんだけど、もうちょっと考えたりとか疑問に思ったりとかしないわけ? 怖いよ?」
しかも結構めんどくさい役職なはずなのに。普通そんな簡単に引き受けないって。
「なにようるさいわね。やるわよそのくらい。ねえ早宮」
当たり前のように知佳はそう言った。それを受けた湊も、
「そうだね、彩人のお願いだしね」
こいつら、俺に対する信用がバグってないか?
なに? お願いしたら壺でも買ってくれんの? マルチやり放題?
「まあでも一応、どうしてかはだけは聞いておこうかな」
そう言ってくれた湊に俺は一安心する。
ぜひ聞いて下さい……。




