第10話
その日の放課後、俺と旭丘は生徒会室の前にいた。
小竹先生にも伝え、会長と一緒に待ってもらっている。
いざ入ろうとした時、隣にいる旭丘が小声で聞いてきた。
「ね、ねえ。生徒会長ってどんな人?」
「なんだ? 緊張してんのか」
「そりゃするでしょ。いいから、どんな人なの」
「氷姫ってあだ名がついてる」
「え?」
「よし入るぞ」
「え、ちょ、待って――」
旭丘の制止を待たず、俺は生徒会室の扉をノックした。
「どうぞ」
中から帰ってきたのは会長の声。相変わらず感情が乗っていない。
俺は静かに戸を開け、
「失礼します」
そう言いながら入室した。旭丘もその後に続く。
会長は最初に会った時と同じように、この部屋唯一の席に座っている。先生も定位置で、腕を組んで立っていた。
「話は聞いているわ。ようこそ旭丘さん。これからよろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします……」
ガチガチの旭丘もなかなか面白いが、もう一人様子のおかしい人がいた。
「うう……立野……よくやったな……」
泣いてる?
それただ自分の黒歴史が拡散しなくて喜んでるだけだろ。
情緒がおかしい先生を横目に、会長が口を開く。
「改めて、まずは生徒会にようこそ、二人とも。歓迎するわ」
とても歓迎しているとは思えないトーンで会長が言う。いつも通り感情が乗ってなさすぎる。
「歓迎はするのだけれど、自覚があるにしろないにしろあなたたちは問題児なの。だから生徒会に入っておしまい、というわけにはいかないのよ。わかる?」
わかりたくはないが、会長基準では残念ながら俺と旭丘は問題児だ。
なんだか嫌な予感がしてきたが、ここは黙って聞くことにする。
「なのでこれから、あなたたちに課題を出します。クリアすれば、あなたたちの自由は生徒会によって保障される。何をしても、生徒会の名のもとに許されるわ」
「クリアできなければ……?」
今まで黙っていた旭丘が口を開く。自分の今後に関わることだ。いつまでも会長に怯えているわけにはいかないのだろう。
「今後の自由はないと思って。生徒会で馬車馬のごとく働いてもらうわ」
嫌な予感は当たった。
会長からしてみれば、俺等がその課題をクリアしようがしまいが関係ない、入れてしまえばこっちのものだったのだ。
だが、わざわざチャンスを与えるような真似をする必要があるだろうか。
ここは生徒会で、一番偉いのは生徒会長である氷川雪華だ。彼女が命令すれば俺等は従わざるを得ないし、そもそも逆らえないだろう。
「なんでわざわざ回りくどいことを……?」
気づいたときには口に出していた。チャンスがもらえるなら黙っていればいいものを。
そんな俺を会長は一瞥して、
「あまりに一方的なのはフェアじゃないから、かしら」
と平然と言いのけた。
「そう、ですか……」
「それで、課題だけれど」
そう、重要なのは課題である。もうこの際会長の意図なんてものはどうだっていい。というか諦めよう。会長がやると言ったならやるんだから、そちらに目を向けなければ。
「まずは予行として今月行われる球技大会の運営を成功させること。そして本番として来月行われる体育祭の運営を成功させることよ」
「……それってだいぶ大変なのでは」
「私は別に大変じゃなかったわ」
「……」
それはあんただからだろ、というツッコミは置いといて。
球技大会にしろ体育祭にしろ、参加者は全校生徒だ。もちろんそれぞれ実行委員という名で協力者はいるだろうが、それらをまとめ上げ運営を成功させるのはなかなか骨が折れる作業なのは間違いない。
そこで、静観していた旭丘が口を開いた。
「ちなみに去年はどういった運営を?」
確かにそれは気になるところだ。生徒会手動であるところは変わりないだろうが、昨年のものが参考になることもある。
「昨年は私が一人で回したわ」
参考にならなかった。
旭丘も思わずこめかみを押さえる。
「まあまあ、いざとなったら私も協力するし、氷川にだって相談していいからな」
今まで黙って話を聞いていた小竹先生が、絶望する俺と旭丘に向かって声をかけてきた。
こうなってるの、ほとんどあんたのせいなんだけどな。
「そうね、まああまり深く考えずに。気楽にやってくれればいいわ」
会長もこれが全く難しいことだと思ってなさそうだ。
気がつけば、『普通』とはかけ離れたところまで来てしまった。突然生徒会に入らされ、転校生をスカウトし、次はイベントの運営だ。もはや俺の中の『普通』はここにない。
もしかして俺の青春って、もう『普通』じゃないのか?




