78話 白日の下に
“エフティヒア”と呼ばれる麻薬の原料を隣国から密輸し、精製した麻薬を王国中に流していた者たちが捕縛され。
貴族階級だけでなく、平民たちの間でも注目され大きな話題となっていた。
そんな中でベルナール様は朝早くから夜遅くまで休みなく、毎日忙しそうに働いている。
「ベルナール様、だいぶお疲れね……」
いきなりお昼に帰って来たと思ったら、私と昼食をとったあと。
ベルナール様はそのまま仮眠すると言ってゴロリと転がり、私の膝枕で眠ってしまったから。
まじまじと疲労が滲む端整な寝顔を眺めた。
(まぁ! 目の下にクマが出来ているわ。それに頬がゲッソリと痩せこけてしまって……かわいそうに)
体力があり剣技も優れているベルナール様は、対人戦でも有能さを発揮しているらしく。
王都中を駆けまわりエフティヒアに関係した者たちを、片っ端から捕縛しているのだそうだ。
「短時間でもベッドで眠ったほうが……良いと思うけど?」
切るヒマがなく伸びてしまったベルナール様の青みをおびた黒髪を。クニャクニャと指先に絡めて弄んでみる。
とても柔らかくて指触りも良く、クセになりそうな感触だ。
一緒に食事をとりながら。
ベルナール様はウォルコート子爵家がエフティヒアに、どう関わって来たのかを教えてくれた。
……たぶんその話をするために、忙しくても私に会いに帰って来てくれたのだろう。
私はベルナール様の寝顔を見下ろしながら、ボンヤリとその時の会話を思い出す。
『フレデリックの父親。ウォルコート子爵が麻薬の精製所を、子爵領に作るさい。その資金がどこから出て来たのかを私が調査したんだ』
『精製所?』
『うん。……それで資金の出所を調べてゆくうちに……キンレット男爵家が、大きな借金を抱える原因となった。使用人に持ち逃げされた事業資金にたどり付いた』
男爵家から事業資金を盗み出した使用人は、ウォルコート子爵に匿われ。精製所の責任者をしていたらしい。
『……っそんな!』
『本当にすまなかった、レオニー。そのことでウォルコート子爵を罪に問えば、黒幕の ラプリー伯爵の尻尾をつかめなくなると。だから今まで私はこの真実を、君たちにも話せなかった』
『つまり私たちの……いえ、リュシアンお兄様の苦労は全部、ウォルコート子爵家のせいだったの⁉』
『そうだ』
『私は君たちを……キンレット男爵家を見守ることしか出来なかった』
『ああ、何てことなの……』
『黙っていてすまなかった。私は君に責められても、おかしくないことをした』
『……いいえ、ベルナール様は必要なことをしただけです。悪いのはウォルコート子爵だわ! 昔、お父様に助けてもらった恩を仇で返すなんて。本当の恥知らずよ!』
思い出しただけでもイライラする。ウォルコート子爵家に腹が立ってきた。
──でも、悪い話ばかりでは無かった。
『ウォルコート子爵の罪が裁判で確定したら。間違いなく爵位は剥奪され、財産はすべて没収されるからね』
『ええ』
『子爵家から没収される財産から、キンレット男爵家が奪われた事業資金の返還請求を、出来るかもしれないんだ』
『返還請求? お金を返してもらえるのですか⁉』
『うん。ご丁寧にウォルコート子爵は裏帳簿に、キンレット男爵家が持ち逃げされた金と同額の精製所の建築資金を記載していたんだ』
『それが証拠になるのですか?』
『うん。それに持ち逃げした男も私が捕縛して、そいつの自白も取ったから。間違いないよ』
──とベルナール様が教えてくれた。
私の膝で眠るベルナール様に、ヒソヒソと小さな声で感謝の言葉を伝えた。
「ありがとうございます、私の愛する旦那様。本当にありがとう……」




