77話 騎士の夫
仲良く朝食を終えると私たちは玄関ホールへ行く。
ベルナール様は執事が用意した魔剣と剣帯を受け取り、その場で腰に装着する。
そんな姿を眺めながら、何気なく私は素人らしい感想を言った。
「見ればみるほど、立派な剣ですね。それに重そうだわ」
「ああ、うん。対人戦用の通常の剣よりも、この対魔獣戦用の魔剣は一回り大きく、刃も幅広で分厚いからね」
「まぁ、そうなのですか?」
(そんなに大きな違いがあるとは知らなかった!)
「私ぐらいの体格で腕力が無ければ、とても振り回せない大きさの剣なんだ」
魔法が使えれば誰でも魔剣を使えると言う訳ではないようだ。
「……確かに。数日前に見た騎士様の剣に比べると、とても大きいわ」
(私の旦那様は、もしかして……スゴイ人なのかしら?)
私は思わず腰に下げた魔剣を、誇らしげに触れるベルナール様に尊敬の眼差しを向けた。
「だから王都でこれほどの豪剣を下げていると。同じ騎士の中でも、目立ってしまうのが難点なんだ」
「まぁ! そういう悩みが出てくるのですね」
「うん。でも実家のウォンボーン公爵家が所有する家宝というだけあって。嫡流の血を持つ私の魔法と相性が良いんだ。例えば攻撃魔法を放つときも、発動からほとんど時間差が無くて。一連の動作がスムーズに進むから……」
ベルナール様は騎士らしく、嬉々とした表情で剣についてペラペラと語り始めた。
「ふふふっ……素敵だわ」
(こんなに生き生きとした姿を見せてくれるなんて。きっとベルナール様は騎士という職業が、とても好きなのね)
以前、ベルナール様に自分は騎士だと言われたときも、あまりピンッと来なかったけれど。
今の顔を見ていると、放蕩者のベルナール様よりも。騎士のベルナール様の方がずっとしっくりくる。
──騎士と言えば。
「留守中にあまりにも心配で……お母様と一緒にベルナール様の行方を知りたくて、王立騎士団へ聞きに行ったのですが」
「んん? 騎士団へ行ったの?」
「ええ、二週間の予定だと聞いたのに。一ヶ月経っても帰って来ないから……第一から第三まである王立騎士団の本部へ行き、ベルナール様の安否をたずね回ったのです」
でもベルナール・カザートンが騎士団に在籍していると確認できず。
それどころか心無い言葉で『どうせ愛人の家に入り浸っているのだろう』と。
ベルナール様の妻だというだけで、私は侮辱されまともに相手をされなかった。
ベルナール様の実家のウォンボーン公爵家にも、助力を求めて訪問したのだが。王立騎士団ほど無礼ではなかったけれど。
義両親と義兄から似たような反応が返って来たことは、ベルナール様には伝えず、私の胸に秘めておくことにした。
「ああ……昨夜も話したけど。私の所属する場所は相手に気づかれないよう、秘密裏に捜査する手法を取っているから。騎士団の中でも上層部の者にしか、存在を明かされていないんだ」
「だから他の騎士団に所属する一般の騎士様たちは、知らなかったのですね?」
「うん、すまない。君が心配するとわかっていたけど……そんな苦労までかけていたとは、思わなかった」
「いいえ。今は無事に帰って来てくれただけで良かったわ」
犯罪者たちを捕縛するのが忙しくて、ベルナール様は手紙の一つさえ書くヒマが無かったそうだ。
「嫌な思いをさせてすまなかった、レオニー」
「理由がわかれば、それで良いわ」
私は手をのばし……後悔で暗く陰ってしまった、ベルナール様の目に掛かる前髪を指先で払ってやる。愛情を込めて頬を手のひらで包んだ。
「レオニー、本当に怒ってない?」
「ええ。ベルナール様が悪いわけではないのでしょう?」
ベルナール様は自分の頬に触れる私の手に、大きな手を重ねた。
「愛しているよ、レオニー。寛容で理解のある良い妻を持って幸せだよ」
「私も幸せです。ベルナール様、愛してます……」
胸の奥から愛情が込みあげて来て、私は背伸びをしてベルナール様の顎にキスをした。
私をギュッと抱きしめて、ベルナール様は熱烈なキスを唇に返してくれる。
「ところでレオニー。君を侮辱した第一、第二騎士団のゲス野郎は誰だかわかるかな?」
ベルナール様の深い紺色の瞳がギラギラと光る。




