68話 真夜中の外出
夜遅く帰宅した半裸の夫と、仲良く寝室で抱きしめ合った。
いつもの流れならこのまま二人でベッドへなだれ込み、熱い夜を過すのがパターンだけど。
今夜はいつもと違っていた。
「すまない、レオニー。もう行かないと……」
「……行く? こんな時間にどこかへ出かけるのですか?」
「うん………」
返事をしながらベルナール様は、気まずそうにベッドに視線を向ける。
私もベルナール様の視線を追ってベッドを見ると……着替えの服がそろえて出してあった。
それはどう見ても外出着で、立派な剣まである。
「君がまだ、起きていて良かった」
「少し前に帰って来たばかりなのに、どこへ行くのですか?」
(夜会で見たことをベルナール様から、じっくり聞きだそうと待っていたのに!)
答えたくないのか? それとも答えられないのか? 私の問いかけに答えるベルナール様の口が、急に重くなった。
「うん……」
「こんな夜中に、どこへ行くのですか⁉」
「……たぶん、一、二週間ぐらいは帰って来られないと思う」
ベルナール様はわざとなのか。私の質問をはぐらかして、出かける期間だけ答えた。
「一、二週間⁉ 訳がわからないわ!」
思わず私はかん高い声で叫んでしまった。
「私に言いたいことが、たくさんあるだろうけれど。今は黙って見送って欲しい」
「ベルナール様……?」
「……本当にすまない」
ベルナール様は私から視線をそらし、黙りこんでしまう。
──またベルナール様は、これ以上のことは私に話す気が無いのだとわかる。
「上手く行けば……帰って来たとき、君にすべて話せると思う」
「帰って来たときですか……?」
(一、二週間後⁉)
「本当にすまない。レオニー」
ベルナール様はベッドに並べた服を順番に身に着けて行く。
服を着終えて幅の広いベルトを腰に装着するのを見て、ベルナール様が着ているのが騎士服だとわかった。
それも……
「王立騎士団の騎士服ですか?」
「うん」
「どうしてまた、ベルナール様が……?」
(なぜ王立騎士団の騎士服⁉ んんん……???」
「私も一応、王立騎士団の所属だから……」
「所属ですって⁉ もしかして、騎士の仕事で行かれるのですか?」
(ええええ~⁉ ベルナール様は騎士職についていたの? 私は妻なのにベルナール様のことを、あまりにも知らなさすぎるわ!)
自分がお飾り妻だからと、夫に対して無関心すぎたのかもしれない。
どこまでベルナール様の事情に踏み込んで良いのかわからないけれど…… もっと話し合わなければ、いけないのは確かだ。
私と目を合わせようとしないベルナール様を、眉間にしわをよせて見つめた。
「こんな夜ふけに騎士団の仕事……? 危ない仕事ですか?」
(まともな騎士団の仕事ではないような気がするわ。大丈夫なのかしら)
「うん。それも帰って来たら話すよ」
ベルナール様は私と話をしながら鞘から剣を抜き、刃の部分を点検する。
私もベルナール様が持つ剣を一緒に見つめた。貴族が好みそうな華美な装飾はいっさい無く、どちらかというと無骨な印象の剣である。
だが卵サイズの青緑色の宝石が剣の柄に嵌めこんであり、大きな石の美しさが私の目を引いた。
ベルナール様が指先で石に触れると、フワリと刃が発光する。
「あっ……! もしかして、この剣は『魔剣』 ……ですか?」
「そうだよ」
「やっぱり。実際に見たのは初めて……」
(……いえ、違った。一度だけ見たことがあるわ。以前、王立図書館で泣いていた私にハンカチを貸してくれた、傷だらけの騎士様が持っていた……)
確かあの時も大きな宝石が目を引いて、『美しい剣ですね』と私が褒めたら。騎士様は嵌めこまれた石は魔石で、対魔獣戦用の『魔剣』だと教えてくれた。
「あら。……んんん?」
(ベルナール様の剣と、王立図書館で出会った騎士様の剣と同じ色の魔石が嵌め込まれていたような? 気のせいかしら。剣の柄の形もそっくりに見えるわ)
私がまじまじと剣を見つめていると、ベルナール様はカチンッ! と音を立てて剣を鞘におさめた。
腰に巻いた幅が広い剣帯に剣を装着する。
「レオニー、家のことは任せたよ」
「あっ、はい!」
「できれば……私が戻るまで、なるべく外出はひかえて欲しい」
「えっ⁉」
ベルナール様の穏やかで柔らかい印象の顔が、騎士服を来て剣を腰に下げた途端……キリッ! と凛々しく、厳しい表情へと変わった。
私を抱きしめ、ベルナール様は素早く唇にキスをした。
「行って来るよ」
「……あ、あの! 気を付けて、ベルナール様!」
「うん、ありがとう。もう、遅いから見送りはしなくて良いよ」
自分で用意したらしい、着替えを詰めたカバンを肩に掛け。まるで私の追及から逃げるように、ベルナール様は出かけてしまった。




