67話 夜会から帰ると
ベルナール様の言いつけどおり、私はブリンクロウ侯爵家の夜会から早めに帰宅した。
寝支度を済ませ自室のベッドに落ちつくと、王立図書館から借りて来た小説を読みながら、ベルナール様の帰りを待つことにした。
パタンッ……!
どこかで扉が閉まる音がして、私はふいに目覚めた。
「あ……? いつのまにか、眠っていたのね……」
時間はすでに深夜となっている。
なれない夜会の準備と苦手な社交活動。そのうえ過去に経験したことのない、刺激的な場面を目撃してしまい。しばらく頭の中は興奮状態だったけど。
そんな波乱に満ちた一日を過したから。帰宅してドレスを脱ぐと……ドッと疲労感に襲われた。
それでもベルナール様と話をしたくて、起きて待っていたけど。どうやら居眠りをしていたらしい。
「ふああぁぁ~」
淑女らしからぬ、大きなあくびをしていると。コトッ! カタタッ……隣のベルナール様の部屋から物音が聞こえた。
「ベルナール様が帰ってきたのね!」
開いたまま膝にのせていた、読みかけの本にしおりを挟んで閉じた。
ベッドから出て椅子にかけてあったローブを羽織ると、隣室へ向かう。
コン、コン、コンッ! とノックしてから扉を開くと、視界に半裸のベルナール様が飛び込んで来た。
「お帰りなさい。ベルナール様!」
「ただいま。何だ、起きていたのか……静かだから、もう眠っていると思っていたよ」
ベルナール様は私の顔を見るとニコリと笑い、着替えの手を止める。
「ベルナール様の顔が見たくて……」
私は綺麗な笑顔に引き寄せられて傍まで行き、ベルナール様を抱きしめ、背伸びをして顎にキスをする。
「レオニー……」
ベルナール様は私の背中に手を回し、ギュッと抱きしめ返してくれる。
「……ベルナール様」
「私がいなくて、そんなに寂しかった?」
「ええ、寂しかったわ」
「ああ、可愛いなぁ……レオニーはいつも可愛いけど。今夜は特別、可愛いなぁ……」
ベルナール様は私の耳にキスをして、次は頬。その次の唇には二回キスをした。
「うふふっ……ベルナール様、嬉しい。すごく嬉しいわ!」
「今夜はいったい、どうしたんだ?」
今までとは違い素直に甘えるようになった私を、ベルナール様は不思議そうに見おろした。
「……今までベルナール様が言って下さった、私を褒める言葉が、『お飾り妻への配慮』だと思っていたから」
(私は自分が傷つかないよう、そうやって予防線を張り。素直に喜んで期待しないようにしていた)
ベルナール様が自分の秘密を私に明かしたから、公平になるよう私も素直に自分の秘密を告白した。
「うん。そうだね」
ベルナール様の返事を聞き、私は苦笑した。
(やっぱりベルナール様は、臆病な私の気持ちに気づいていたのね)
「でも、そんな自分が嫌になったから。ベルナール様の言葉が本気でも、配慮からくる嘘でも…… 私は素直に受け入れて、喜んだ方が正しい気がしたのです」
私のためにインペリアル・トパーズを選んで贈ってくれた。ベルナール様の気持ちを、踏みにじっていたことに気付いた時。
自分の容姿よりも卑屈な心の方が、はるかに醜く問題があるのだと恥かしかった。
「それで今夜は、こんなに可愛いことをしてくれるのかい?」
「はい。こんな私をベルナール様が可愛いと思ってくれるなら、嬉しいわ」
「レオニー! 何だか私は、胸がいっぱいで死にそうだよ」
「ふふふっ……これからはもっと可愛いことを、頑張ってするつもりです」
「レオニー、君は頑張らなくても可愛いよ」
さすがは放蕩者のベルナール様である。
「……もう! ベルナール様こそ、そんな言葉が自然に出るから! 私の方こそ胸がいっぱいで死にそうです」
(卑屈になってベルナール様の好意を、踏みにじるぐらいなら。私自身が傷ついた方が、よっぽど良いわ!)
そう思えるほど、今の私はベルナール様を愛している。
私をギュウギュウと抱きしめるベルナール様の広い背中に、私も手を回しギュウギュウと抱きしめた。




