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醜くいと捨てられた私は社交界一の放蕩者に求婚された  作者: みみぢあん


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66話 夫の秘密


 魔法の影響で意識を失ったアンヌ様を、ベルナール様がウォルコート子爵家の馬車を呼んで返したあと。

 私たちはお兄様がいる舞踏室の前まで戻るが……



「レオニー……フレデリックのような害虫に悪さをされないよう、早めに帰るんだよ?」

「え……⁉」

「私はこのあと、知(・)人(・)に会いに行かなければいけないから」


「……っ」

(ベルナール様は、このまま私と一緒にいてくれないの?)


 想像をはるかに超えた刺激的な夜になってしまったため、私は変に甘えたい気分になっていた。だからベルナール様に置いて行かれると知りガッカリする。


「ごめん。さっきのことを、すぐに報告したいんだ」

「ああ……」


 ベルナール様の目から見ても、私はひどく落ちこんで見えたのだろう。ヒソヒソと耳もとで囁き、ベルナール様は私をなだめようとする。


「ベルナール様……」

(今までアンヌ様と仲よくしていたのは、欲望や快楽のためではないのだと。理解出来たけど……)


 アンヌ様はベルナール様の『情報源』だったのだ。

 さすがに魔法まで使って話を聞きだす姿を見れば、ベルナール様の言葉に嘘はないとわかる。


 ──でも、なぜそんな情報が必要なのかと。新たな疑問を持ってしまい、それを解明したい。


「それと……さっき見たことは誰にも言わず、秘密にして欲しい。君の兄上にもだ」

「ベルナール様が魔法を使ったことをですか?」

「それも含めて、全部だよ。約束してくれるかい?」


 私の顔色をうかがいながら、ベルナール様は慎重に念押しする。


「理由を教えてくれますか?」

(こんなふうに頼まれれば嫌とは言えないわ。……でも、理由を聞かずに即答はしたくない)


 さっき見た光景はそれぐらい衝撃的だったし。訳がわからないのは気持ち悪い。


「今夜はだめだけど、近いうちに必ず話すよ。この話は私一人の判断で、話しても良いことでは無いんだ」


 このあと私を置いて知人に会いに行くと言っていたし。

 今は自分一人で判断できないと言うのなら……ベルナール様にはこの件に関わる仲間が、他にもいるらしい。


「ベルナール様がさっき『今夜は都合が悪い』と言っていたのは、今見たことに関係しているのですか?」

「うん」


「ずっと……アンヌ様と浮気をしていると思っていました」

(ベルナール様は単なる、浮気をくり返す放蕩者ではないの?)


「知ってるよ」

 ベルナール様は苦笑すると、私に懇願する。


「この件については、絶対に秘密を守って欲しい。大切なことなんだ、頼むよレオニー……」 


 思わず私はフゥ───……と大きなため息をつき、返事をした。


(これ以上は何を問いただしても、ベルナール様は私に話す気は無さそうね。やれやれ……)


「……わかりました」

「ありがとう」


 ベルナール様は私の耳にすばやくキスをして、ホッと安堵の表情を浮かべる。


「それとレオニー。今夜の君は誰よりも綺麗だね」


 女の武器をフル装備した私を、ベルナール様は今夜初めて褒めてくれた。


「ようやく気付いてくれましたね?」

(他の人たちと比べてベルナール様の反応が無かったから。嫌味っぽく聞こえるかしら?)


「いや、さすがに気付くよ。あまりにも驚いて、君を他人の目にさらすのが嫌で。人の気配の無い暗がりに慌てて連れ込んだぐらいだからね」


「……あら」

(本当に?)


 美しい女性を見慣れているベルナール様から見たら。着飾った私ぐらいでは、大して驚かせることも無かったと思っていた。


「私が贈った宝石を身に付けてくれて、嬉しいよ」

「……え? ああ……」


 私は自分の胸元を飾るインペリアル・トパーズのネックレスに触れた。


「大粒のインペリアル・トパーズ(これ)を見たとき……絶対、君に似合うと思っていたんだ。今夜の君は本当に美しいしね」


「お……お母様にも言われました」

(そうだったわ。私に綺麗な宝石は似合わないと思っていたから……贈ってくれたベルナール様の前で、一度も身に着けたことがなかった)


 ……それも結婚前に贈られたときは、『醜い私に宝石を贈るなんて、適当に選んだに違いない』と無礼な思い込みをしていたぐらいだ。


 本当は一つずつ吟味してベルナール様は、私に似合う宝石を選んでくれたのだろう。


(ううっ……今、考えると。私はベルナール様にとても失礼なことを繰り返していたわ。なんて傲慢だったのかしら)


 嬉しそうに満面の笑みを浮かべるベルナール様の顔を見ていると。罪悪感で胸がチクチクと痛み恥かしくなる。


 婚約をしたときから大切にされていると感じていたけれど。それは結婚する相手への義務と責任から来る行動だと思っていた。

 でも……


(私が思っているよりも、ベルナール様は私を愛しているのかも知れないわ)


 罪滅ぼしではないけれど。私を置いて知人に会いに行くベルナール様に、これ以上ガッカリするのはやめた。


 私は少しだけアンヌ様のあざとさを見習うことにした。

 ベルナール様の肩につかまり、背伸びをして頬にキスをしてから……耳元でそっと囁いた。


「先に帰って待っています。だから早く帰って来て下さいね」


 ……とベルナール様に伝え、気持ち良く送り出すことにした。



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