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醜くいと捨てられた私は社交界一の放蕩者に求婚された  作者: みみぢあん


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64話 妻と恋人2


 綺麗に着飾って女の武器をしっかり身に着けていても。結局、私の苦手意識は簡単に克服することは出来なかった。

 フレデリック様に婚約解消されたあの時から、私は少しも成長していないらしい。



「……っ」

(女神のように美しく微笑むアンヌ様の前だと。私は戦う前から大きな敗北感を感じてしまうのは、なぜなの?)


 ベルナール様の背中に隠れ、怯(おび)える私は亀のように手も足も出ない。……そんな最低の気分だ。


「ベルナール? 私に隠れて他の女と浮(・)気(・)するなんて……ひどいわ!」


 甘い声でアンヌ様が、ベルナール様を責めた。


 私の婚約者を奪い。今度は私の夫まで奪おうとしているアンヌ様の、図々(ずうずう)しいのを通りこして『頭がおかしいのではないの?』と思える言動に驚き。ハッと息をのんだ。


(自分こそ夫のある身で、私の夫と浮気をしているくせに! 妻の私が夫といるのに……浮気ですって⁉ 何て女なの!)


「……この!」

(こんな人……っ! 今すぐ飛びかかって、綺麗な顔を殴ってやりたい!)

 

 カッ! と腹が立った。私の頭の中は野蛮な闘争心でいっぱいになる。


(苦手だからと怯(おび)えてばかりいられないわ!)


 アンヌ様と対決するために、私はベルナール様の前に飛び出そうとした。

 ……なのに、私の手をガッチリ掴んだベルナール様の手が、ものすごい力で押し戻してくる。


「…っや!」

(放してベルナール様! 私があの女の傲慢(ごうまん)な口を潰(つぶ)してやる!)


 私の手をガッチリ掴む大きな手は、押しても引いてもビクとも動かない。

 敵(アンヌ様)の前でベルナール様と無様に言い争いをしたくなくて。仕方なく途中で抵抗をあきらめたが。


 ベルナール様は私との攻防など、少しも感じさせないのんびりとした口調で、アンヌ様に言い返した。

 ……それがまるで、アンヌ様をバカするような言い方だったから、思わず聞き耳を立てた。


「こんなに誘惑が多い夜会で、君が私から目を離したりするから。私を一人にして、退屈させた君が悪いのさ」

 

 アンヌ様も負けじと、ベルナール様に触れそうなほど近くまで寄り言い返す。


「もう、ベルナール! 恋人の私を置いて急に消えたりして。この私に邸宅中を探させるなんて……そんな薄情な人は、お父様に言いつけてやるから!」


「困った女だな君は。ふふふっ……さぁアンヌ、瞳を閉じて……」


 ベルナール様は甘い声で囁(ささや)き、キスをする一歩手前まで身体を屈(かが)めた。


「ベルナール様、何てことを……! あなたは……」

(ベルナール様、本気なの⁉ 妻の前で、本気でアンヌ様とキスをする気なの⁉ 私がお飾り妻だから、わざとこんな仕打ちをするの? 私が反抗したから?)


 あまりの衝撃で、私はベルナール様に抵抗する気も失せて呆然とする。 


「ふふふっ……悪い人ね!」

 私のつぶやきが聞こえたらしく。アンヌ様は勝ち誇ったように笑い、うっとりと瞳を閉じた。


「アンヌ……君こそ、なんて悪い娘(こ)なんだ?」


 ベルナール様はなぜか上着のポケットに手を突っこみ、スルリとトランプのカードらしき物を取り出した。


「うふふっ……」

「君のような悪い娘(こ)には、お仕置きをしないと……」


 ベルナール様のキスを受けようと、アンヌ様は上を向き唇を突き出す。

 うっとりと瞳を閉じたアンヌ様の額に、ベルナール様はポケットから取り出したカードをペタリと貼った。


 ビクンッ! とアンヌ様は全身を震わせ動きが不自然に止まる。まるで石像のように固まった。


「んんっ⁉」

 ベルナール様が始めた意味不明の行動に、私は思わず間抜けな声を漏らしてしまう。


「さぁ、アンヌ……君好みの淫(みだ)らな夢を見せてやろう」


 ベルナール様は手のひらで青緑色の炎を生みだすと、アンヌ様の額に貼ったカードを炎で包む。


 金色に輝く魔法陣が、青緑色の炎の中からフワリと浮かび上がる。


「魔っ……魔法⁉」

(ベルナール様は魔法が使えるの⁉)


 金色に浮かびあがった魔法陣だけを残し。カードの紙の部分が、ベルナール様が生みだした、青緑色の魔法の炎で綺麗に燃えて灰になった。


「レオニー……静かに。魔法が解けてしまうから」


 そう言うとベルナール様は、つかんでいた私の手を解放した。


「……っ!」

(ああ、やっぱり魔法だわ! こんな間近で……魔法を使う人を初めて見た)


 ベルナール様がポケットから出したカードのような物は、魔道具だったのだ。


 ちなみに私のメガネのような魔道具は、魔法士が先に魔法を発動させた状態にしてから、使用者に渡される。

 そのおかげで私のような魔法が使えない一般人でも、魔道具を使うことが出来るのだ。 



 ベルナール様はアンヌ様の額に浮かぶ、金色の魔法陣を見つめながら一歩下がり、私の隣に立った。 


「……」

(いったい、これから何が起きようとしているの⁉)





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