62話 妻と夫2
私がアンヌ様との関係を問い詰めると。ベルナール様は厳しい表情で沈黙し、私をジッと見つめる。
ベルナール様を『本気で怒らせてしまった』と、背筋がヒヤリとした。それでも一度放ってしまった言葉を取り戻すことは出来ない。
「ベルナール様……」
ベルナール様が持つ大らかで柔和な雰囲気が、『絶対に意志を曲げないぞ』という強固な雰囲気へとガラリと変わった。
「ああ……」
(これがあなたの答えなのね? そうね。結婚する前からベルナール様の邪魔をしてはいけないと、理解していたし覚悟もしていたはずなのに)
ベルナール様に可愛がられて、気持ちがゆらゆらと揺らぎ。私自身がその覚悟を覆してしまった。
──だからベルナール様は悪く無い。覚悟していたのに心変わりをして、ベルナール様の私的な時間に関わり、干渉しようとした私の方が悪いのだ。
拒絶されて傷つき熱くなっていた頭から、いっきに血の気が引き。私の身体は自分でも制御できずに、ブルブルと震えだした。
「ベルナール様、私は……」
(嫌われてしまうかも知れない! 私は一時の感情で、取り返しのつかないことをしてしまった)
ベルナール様は掴んでいた私の肩を放し、視線をそらすとハァ──…… と大きなため息を吐き。低く小さな声でポソポソと私の問いかけに答えた。
「いいか、レオニー。私がアンヌと一緒にいなければいけないのは、彼女を愛しているからではないよ」
ベルナール様の態度は厳しかったが、言葉を慎重に選んで私に話しているように見える。
「……でも、アンヌ様はベルナール様の恋人なのでしょう?」
「それは違う! 彼女は単なる、情報源の一人というだけだ。この状況で私を信じられないのはわかるが。私は君を裏切ったことはない」
イライラと焦りながらベルナール様は前髪を掻き上げると、再び私を見つめた。
「情報源とは……? ベルナール様はいったい、何の話をしているの?」
「誓うよ、レオニー。近いうちに私はアンヌから解放されると」
「解放?」
「それまでは秘密を保たれなければいけないんだ。お願いだ、レオニー…… 今は許して欲しい」
急に話のピントがずれて、ベルナール様が懇願する。
「あの、ベルナール様。話がよくわからないのですが?」
(アンヌ様から解放? ベルナール様は自分から望んで、アンヌ様と一緒にいるわけではないの? んんん? 秘密???)
「もう少しだけ待っていて欲しい。あと一歩で……」
「まぁ、ベルナール! 私を置き去りにして、こんなところに隠れていたのね!」
ベルナール様の言葉を遮るように。耳障りなかん高い声が背後から響く。
大切な話の途中で、不作法に割って入ってきた人物の顔を見て。私はギョッと身体を強張らせた。
「……っ⁉」
(アンヌ様⁉)
アンヌ様が拗ねた子供のように唇を尖らせ、私たちの方へゆっくりと歩いて来る。
「忌々しい、女狐めっ……!」
ベルナール様は険悪な表情でチッ! と舌を鳴らし、小声で罵る。
オロオロと動揺する私に、ベルナール様は素早く唇にキスをして、耳元で囁いた。
「愛しているよ」
「……えっ⁉」
自分の広い背中でアンヌ様から私を隠すように、ベルナール様は私の前に立つ。
──そして『君だけだよ』 ……と私に伝えたいのか。ベルナール様はギュッと私の手を握りしめた。




