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醜くいと捨てられた私は社交界一の放蕩者に求婚された  作者: みみぢあん


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60/80

60話 夫


 酔ってお兄様に絡からみ、躾の悪い犬のように暴れていたフレデリック様を、ベルナール様が上着の襟(えり)をつかんで後ろに引き倒した。


 フレデリック様は無様に後頭部から倒れて、ゴツッ! と痛そうな鈍い音を立てて、舞踏室の床に頭を打ち付けた。

「ううっ…! 痛ってぇ…… うぅぅ… クソッ!」


 寝転がったまま頭を押さえて、フレデリック様はうめき声をあげる。


 ベルナール様は床に片膝をつき、フレデリック様の耳元でヒソヒソと囁(ささや)いた。


「伯爵は無能な娘婿(むすめむこ)を切りたがっていたが。麻薬(エフティヒア)に溺れて、こんな騒ぎをおこす奴では仕方ないな」


「なっ……⁉」

 痛む頭を抱えて絨毯(じゅうたん)の上でうめいていたフレデリック様は。

 ベルナール様の口から義父の名まえを聞き、ガバッ…! と身体を起こす。


 フレデリック様にとって、アンヌ様のお父様はよほど怖い存在なのだろう。

 耳元で囁(ささや)いたベルナール様を、恐怖の眼差しで見つめている。


「べ……ベルナール・カザートン。お前は!」

「この騒ぎについて、私からラプリー伯爵に報告しておこう」

「お前はいったい、何者なんだ……?」


 今まで見せたことのない冷ややかな表情で、ベルナール様は怯えるフレデリック様に追い打ちをかける。


「フレデリック。お前のような役立たずは速やかに処分すると、リプリー伯爵はおっしゃるだろうな。これでアンヌも喜ぶだろう」


「クソッ……」

 さっきまでの強気な態度を引っ込め。フレデリック様は青い顔で頭を押さえながら、あわてて舞踏室から出て行った。


 何事も無かったかのようにベルナール様は立ちあがり、少し離れて様子を見ていたリュシアンお兄様の肩を、トントンッ… と叩く。

 

 ベルナール様は私のもとへやって来て──


「大丈夫か、レオニー?」

「あ……べ、ベルナール様……」

「怖かっただろう?」


 ベルナール様は労わるように私の腕をなでた。


「ああ…… はい。ベルナール様」


 ベルナール様の言う通り、私の身体は今も見苦しくガタガタと震えている。そんな私を人の目も気にせず、ベルナール様は広い胸にギュッと抱き締めてくれた。


「もう、大丈夫だよレオニー」

「はい」


 私はベルナール様に抱き締められ。恐怖と緊張で強張こわばらせていた身体から、力が抜けてハァ───… と安堵(あんど)のため息をついた。


 急に目頭が熱くなり、安心したら涙が出そうになった。 



「リュシアン卿、私はレオニーを休ませてきます」

「ああ、はい。妹をお願いします、ベルナール卿」


 お兄様に舞踏室から退出することを伝えると。

 私と同じようにフレデリック様の暴挙(ぼうきょ)に怯(おび)えていた、友人たちにベルナール様は軽く頭を下げる。 



 私の腰に長い腕を回し身体を支えながら、ベルナール様は私を舞踏室から連れ出してくれた。




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