56話 友人たちと空騒ぎ
毎年、豪華な舞踏会を開くことで有名なのだと友人たちに聞いた、ブリンクロウ侯爵家の夜会は、眩しいほど絢爛豪華で煌びやかだった。
「わぁ~ 良いシャンパンを出しているなぁ……」
お兄様は舞踏室へ入ってすぐに出された、淡い金色に輝くシャンパンを一口飲み。興奮気味に感嘆の声をあげる。
残念ながら私はいまだにお酒を飲み慣れていなくて。シャンパンの良さがわからず、お兄様に気の無い返事をした。
「そう……?」
(確かにシャンパンの色は綺麗だけど。私にはお酒の味なんてわからないわ)
もう一口飲んだけど。やっぱり良さがわからない。
お兄様とそんなやり取りをしていると、一足先に舞踏会に参加していた友人たちに声をかけられた。
「レオニー、やっと来たわね! ふふふっ……あまりにもあなたが綺麗すぎて、最初は誰だかわからなかったわ」
私は遅れた理由を話して友人たちに謝った。
「ごめんなさい、イネス。招待客たちの馬車で道が混んでしまって……なかなか前に進まないから。途中で馬車をおりて歩いて来たの」
(おかげで足の指が痛くなってしまったわ)
今夜は滅多にはかない、かかとが高い靴をはいているから。その足で石畳を歩くのには苦労した。
ベルナール様を見つけたら、一曲ダンスを踊ってもらうつもりだったけど。舞踏会が始まる前からダンスは断念したくなっていた。
「まぁ、それは大変だったわね。……それにしても見違えたわレオニー! どこにそんな美貌を隠していたの?」
「そうそう。本当にあなたが友だちでなければ嫉妬してしまいそう」
「もう、止めて。セリーヌもナタリーも……そんなに褒められたら恥ずかしいわ」
(ううっ…… お洒落が上手なイネスやセリーヌ、ナタリーの方が、私よりもずっと輝いていて綺麗なのに。こんなふうに褒められると……)
私はお母様から贈られた扇を開き、顔をパタパタとあおいだ。
「もしかしてレオニーは今夜になったら怖気づいて、来ないのではないかと心配していたけど…… これだけ綺麗なら、絶対に見せびらかしたくなるわよね」
友人たちから代わる代わる、褒めちぎられ、揶揄われたりと。三人三様に絶賛された。
私はたまらず隣に立つリュシアンお兄様に、助けを求めることにした。
「ああ、そうだわ! 私のお兄様のリュシアンを紹介するわ。セリーヌとナタリーは初めてよね?」
私が友人たちと話す姿をニコニコと微笑みながら見守っていた、お兄様の腕をグイッ! と引きよせた。
「あわてなくて良いよ、レオニー。婚姻の儀の時にイネス嬢から紹介されたから」
「……あら、そうだったの?」
「ええ、そうよ」
「ふふふっ……」
「レオニーはメガネをかけていなかったから、見えなかったのね」
花婿募集中の友人たちは。
獲物を狙う鷹のように、瞳をギラギラと光らせお兄様にほほ笑みかける。
「リュシアン様、お会い出来て光栄ですわ」
「こちらこそ、光栄です。引きこもり気味の妹を、引っ張り出して下さり感謝します」
「ふふふっ……リュシアン様もこんなに綺麗な妹さんを持つと、誇らしいでしょうね」
「もちろんリュシアン様も素敵ですけど。キンレット男爵家は美男美女の家系なのですね」
「本当に妹の美しい姿には、兄の僕でもドキッとしますよ」
お兄様まで友人たちと意気投合して、妹を褒め殺しにするつもりらしい。
私は助けを求めたお兄様にまで、簡単に裏切られてしまった。
「もう……お兄様まで、やめてください」
友人たちと少し騒がしくしてしまったせいか。舞踏会に招待された他の客たちから、チラチラと視線を集めていることに気が付いた。
私は恥ずかしさと緊張で顔を強張らせる。
周囲の注目を浴びて、私が動揺していることに気付いたイネスが、ニヤリ… と笑う。
「レオニーがあんまり綺麗だから。他の招待客はあなたがどこの令嬢か、知りたくて探っているのよ! ホホホホッ……!」
なぜか周囲の人たちに聞こえるよう、良く響く高い声でイネスは自慢げに語った。
「/////////……イ、イネス⁉」
(イネスったら、その笑い方は何⁉ いきなり何を言い出すの⁉)
私は恥ずかしくなり、扇で隠した。
すると調子にのったセリーヌとナタリーまで……
「レオニーは、あのベルナール・カザートン卿の奥様ですもの。綺麗に決まっているわ!」
「ふふふっ……だめよ、ナタリー。レオニーの美しさに嫉妬しては」
「何を言っているの? レオニーに嫉妬しているのは、セリーヌも同じでしょう?」
三人娘はきゃぴきゃぴと、にぎやかに騒ぐ。
「/////////……っう゛う゛ぅ~」
(信じられない、三人とも!)
友人たちの声が聞こえた人たちは、ヒソヒソとウワサ話に花を咲かせ始める。
「ベルナール卿が結婚されたのは、知っていたけれど。彼女が夫人かしら? 見たことが無い顔だわ……」
「あら、キンレット男爵家の令嬢だそうよ。それにしても美人ね…… 彼女がデビューした時は、不格好なメガネをしていて。あまり冴えない印象のお嬢さんだったのに」
「あんなに綺麗な妻と結婚したなら、放蕩者も心を入れ替えるかもしれないぞ?」
「家に美人の妻がいるなら、私だったら家から一歩も出なくなるだろうな」
お兄様は私の耳元でヒソヒソと囁き、楽し気にカラカラと笑った。
「レオニー、聞こえるか? みんなお前を褒め称えているぞ?」
「お兄様! もう、止めて! 恥ずかしくて死んじゃう」
「ははははっ!」
ヒソヒソ。ザワザワとしている。
ウワサ好きな招待客たちの中から学園生時代にレオニーを散々、侮辱して傷つけたあの言葉が聞こえた。
「何だと、レオニーだって⁉ 彼女があの、『カマキリ令嬢』なのか?」
思わず息をのみ、斜め後ろを振り向くと。
そこには元婚約者フレデリック様の姿があった。




