5話 婚約破棄
学園の卒業が目前にせまった二歳年上のフレデリック様に、珍しく呼び出された。
私に大切な話があるからと。
こうしてフレデリック様が、学園で私に接触するのは初めてのことだったから。
「……悪い予感しかしないわ。フレデリック様の大切な話とは何かしら?」
入学したばかりのころ。
フレデリック様に挨拶をしに行ったら、恥かしいから声をかけるなと言われたあげく『カマキリ令嬢』という屈辱的な蔑称で呼ばれるようになった。
私はあの時のことを思い出すと──
「何だか怖いわ……」
学園に入学してから私がフレデリック様に関わるたびに、ひどい経験しかしてこなかったから。
急な呼び出しだったから私はあわてて淑女に許された限界の早さで、フレデリック様が指定した待ち合わせ場所の学園の裏庭まで来ると。
意外にも先に来ていたフレデリック様に怒鳴られてしまう。
「遅いぞ、レオニー! いつまで僕を待たせる気だ?」
「ご、ごめんなさい! フレデリック様」
私はフレデリック様の伝言を聞いたその場から、ここまで速足で来たけど。そのことを説明しても、たぶん火に油を注ぐように怒らせるだけだから黙っていた。
「フンッ! 僕は君と違って忙しいのに……」
「本当にお待たせして、ごめんなさい」
(卒業目前でほとんどやることがないフレデリック様よりも。私の方がずっと忙しいのに。やれやれだわ……)
「まったく君はノロマだな!」
「ごめんさい……」 ここまで速足で来て乱れてしまった息を整えながら、私はずれ落ちてしまった分厚いメガネを指先で元の位置にもどす。
そして私と同じ目線の高さにある、イライラと不機嫌そうにしているフレデリック様の目を見た。
「そ、それでフレデリック様のお話とは……?」
ネチネチと嫌味を聞きたくなくて早く話題を変えようと、私から先に呼び出した理由をたずねた。
フレデリック様はわざとらしくハァ───……と大きなため息をつく。
私は黙ってフレデリック様が話し始めるのを待った。
「レオニー、君と僕の婚約を破棄するつもりだ」
「婚約を破棄⁉」
「ああ、そうだ。一応、君は僕の婚約者だから。僕の口から先に伝えたほうが良いと思ってね」
そういうと今まで不機嫌だったフレデリック様は、ガラリと態度を変えた。
目を細めてニヤニヤと笑ったのだ。
「待って下さい、フレデリック様! 婚約は亡くなった私のお父様と、ウォルコート子爵様が決めたことですよ⁉ そんなに軽々しく私たちだけで、決められることではありません」
「君の父上はすでに亡くなっているし。ウォルコート子爵家の借金も君の家に返済し終えたから。これ以上、婚約を続ける意味が無いだろう? 僕の父上もそう言っている」
「そんな……っ! ウォルコート子爵様が? で……でも、私たちには婚約契約があります!」
(今さら困るわ!)
「もちろんウォルコート子爵家から違約金は払うさ」
「でも、フレデリック様!」
「その方が君の家、キンレット男爵家は借金が減って助かるだろう?」
「……っ!」
(確かに少しは借金が減るけど。それでは結婚後にウォルコート子爵家からの援助を、期待できなくなるわ!)
腕組みをしたフレデリック様は私から視線をそらし、バカにするように笑った。私にこの話をすることを楽しんでいるのだ。
「そんな言いかたしないで下さい! ひどいわフレデリック様、いきなり婚約破棄だなんて……」
私が抗議すると、それまで私を嘲笑していたフレデリック様がキッ! と私を睨みつけた。




