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醜くいと捨てられた私は社交界一の放蕩者に求婚された  作者: みみぢあん


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47/80

47話 暗い影


 結婚前はベルナール様に『何も期待する気は無いから』とひどく冷めた気持ちでいた。

 なのに今ではベルナール様の優しさに溺れ、自分の気持ちが熱くなってゆくのを止められない。


 王立図書館にある読書用の椅子に腰をおろすと、書棚から選んできた本を見下ろす。頬を熱くしながらゴクリと(つば)を飲み込んだ。


 本を読むのに、これほど緊張したことが今まであっただろうか? ……もちろん一度も無い。なぜなら目の前に置いた本は、大人の女性向けの本だから。


 以前の私は自主的に規制して、あえて読もうとは思わなかった類の本なのだ。


「このジャンルの本は初めて手に取ったわ。さてと……どの本から読もうかしら?」


 一冊ずつ本を手に取り、じっくりと表紙を(なが)める。


“午後のお茶と一緒に伯爵夫人の情熱を”

“騎士様の欲望は剣よりもかたい”

“乙女の花を散らす公爵閣下のくちづけ” 


 黙って本のタイトルを眺めるだけで、私の頬はジワリと熱くなる。


「人間って……変われば、変わるものよね? まさかこのジャンルの本を私が読みたくなるなんて。一生、縁が無いと思っていたのに」


 私が選んだ三冊の本は……いわゆる官能(かんのう)小説である。


 ベルナール様と初夜を迎え、毎晩のように情交(じょうこう)を重ねていると。

 今まで何も知らなかった私は、正しくベルナール様の相手を出来ているのかと不安になって来たのだ。

 

「彼は優しい人だから何も言ってくれないし。自分で学ぶしかない」

(やっぱり少しでも上手くなって、ベルナール様を喜ばせて好かれたい。我ながら単純ね? 初夜であんな話を豪語しておいて……私ったらコレだもの)


『あなたを愛したり、見苦しく愛を求めて泣いたりしません』



「結局、私は……ベルナール様を好きになってしまったみたい」


 ぽそぽそと独り言をつぶやきながら本をめくり、自分の心境(しんきょう)の変化に苦笑した。



「まぁ、レオニー! あなたなの⁉」


「……っ⁉」


 若い女性の少しだけ舌足(したた)らずな声で名前を呼ばれ、本から視線をあげる。

 そこには学園生時代の読書仲間、友人のイネスが立っていた。


「驚いたわ……あなた、メガネを変えたのね? 最初は誰だかわからなったけれど。とても似合っているわ」


 イネスはニッコリと笑い、私の隣の席へ腰をおろした。


「ありがとうイネス、お久しぶりね。ああ! 違った。私の婚姻の儀に来てくれたわね」

「ふふふっ……ええ、私も出席したけれど。あなたはメガネをかけていなかったから、私がどこにいるかわからなかったでしょうね?」


「ええ、うふふっ……実はそうなの。ごめんなさい、イネス」


 親しい友人の顔を見ると学園生の頃のように、無邪気(むじゃき)な笑い声があふれた。


「でも分厚(ぶあつ)いあのメガネをかけなくて正解だったわ。だって婚姻の儀式の時のあなたは、本当に綺麗だったもの。読書クラブのみんなも、ため息をつきながらレオニーを見ていたのよ」


「みんながため息をついて見ていたのは、夫のベルナール様の方ではないの? 私に気をつかってくれて、ありがとうイネス」


 容姿のことを褒められ慣れていないから。ついついイネスに皮肉っぽい言い方をしてしまった。


「ふふふっ……確かにベルナール様は怖いぐらい美しかったわ。本当にあの方はいつも、夜会で女性に囲まれてい……っ」


 イネスは唐突(とうとつ)に話の途中で言葉を切って、黙り込む。『マズイことを言ってしまった』とイネスの顔に書いてある。


「イネス、大丈夫よ。ベルナール様が放蕩者だと、私が知っていて結婚したのを忘れたの?」

「レオニー、それは……」


「私は社交が苦手だから、ベルナール様と夜会には同行しないけど。前にも彼が女性たちに囲まれている場面を見たことがあるわ」

(こんなことは結婚前から知っていたことだから……怒ったり泣いたりしない)


 胸がヂクヂクと疼くけれど。





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