46話 贈り物
目覚めた時、私は一人で眠っていた。
「明け方まではベルナール様が隣にいたのに?」
一瞬、昨夜のアレは夢か? ……と思ったけれど。でもベッドの上で身体を起こすと腰や背中がギシギシと痛む。
間違いなく昨夜の情交は、やっぱり夢ではなかったのだと知りポッと頬を染めた。
「ベルナール様……どこにいるのかしら?」
ノロノロとベッドから出て椅子の背にかけてあったローブを羽織る。ベッドのサイドチェストに置いておいた、分厚いメガネをかけた。
メガネをかけてみると窓際のテーブルの上に、青いリボンをかけた小箱と手紙があることに気が付く。
小箱を開ける前に手紙を開いて読むと……
“昨夜、友人の手伝いをすると約束をしたから行ってくるよ。君が贈り物を気に入ってくれると良いけれど。――君を溺愛する夫より”
「……贈り物?」
(何かしら? 婚約してからベルナール様に素敵な物をもらってばかりだわ。私も何か返せれば良いけど)
贈り物をするために買い物に行っても。結局は代金をベルナール様のお金で支払うことになるから、贈り物とは言えない気がするのだ。
ベルナール様の手紙をテーブルに置いて小箱を手に取る。丁寧にリボンを解いてフタを開けた。
「あら、コレは!」
(視力を補助する魔法が組み込まれた、薄いレンズ(無色透明の魔石を研磨したレンズ)のメガネだわ!)
ベルナール様と婚約したとき、たくさん支度金をいただいたけれど。
コレだけはすごく高額で手が出なかったのだ。
今、かけている分厚いレンズのメガネを外して、小箱の中のメガネをかける。
「ずいぶんと、軽いのね?」
眼鏡をかけた直後は、レンズが曇っていて表面に浮かんだ魔法陣が淡く光っていた。
けれど、しばらくすると……ふわりとレンズの魔法陣が消えてピントが合い、急に視界がクリアになった。
「……これは! こんなに見え方が違うなんて」
驚くほどハッキリと見える視界に驚嘆した。
部屋中をふらふらと歩き回り、近くにある物をキョロキョロと見た。次は窓際へ行き、屋敷から見える王都の街並みをじっくりと眺める。
「うわぁぁ~……本当に何もかも世界が変わって見えるわ! 全部が新鮮で新しい世界へ引っ越して来たような気分だわ!」
(私が生きる世界は……こんなにも美しかったのね)
視界はメガネのおかげでクリアになったのに。私の瞳からジワリと涙が滲み、目の前が曇ってしまう。
私は一度メガネを外して目に浮かんだ涙を指先でぬぐい、すぐにメガネをかけ直した。
しばらくの間、窓の外の風景を堪能したあと。
ベルナール様の手紙をもう一度手に取り、読んでからギュッと胸に抱き締めた。
「ありがとうございます。ベルナール様……こんなに素敵な贈り物をありがとうございます! とても嬉しいわ。気に入りました。最高の贈り物です!」
新しいメガネをかけて一人で食事を終えると、昼過ぎになっていた。
ベルナール様の執務室で、カザートン家の維持費に関する帳簿に何冊か目を通したあと。
時間に余裕ができた。
「久しぶりに王立図書館へ行ってみようかしら? ベルナール様の書斎の蔵書を漁るのも魅力的だけど……」
せっかくだから贈られたメガネで、もっといろいろな本を見てみたい。
「本当は……新しいメガネで一番見たいのは、ベルナール様の美しい姿だけど。ふふふっ……」
そう思っていても、当のベルナール様が家にいないのだから仕方がない。
結婚をして以来、大好きな王立図書館には一度も行っていないから、ちょうど良い。




