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醜くて吐きそうだと捨てられた私は社交界一のモテ男に求婚された  作者: みみぢあん


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42話 新婚生活2


 妻らしく夜会へ出かける夫を見送るために、こじんまりとした玄関ホールまで来ると。

 ベルナール様は立ち止まり、機嫌良く私の唇にキスをした。


 そんな夫の行動に合わせて、私はベルナール様の広い胸に手を置き、少し長めのキスを受け入れる。


 お母様はキスの時に分厚いメガネをしていると邪魔になると。婚姻の儀の時は私からメガネを取り上げてしまったけれど。


「……んっ」

(たくさんベルナール様とキスをしたのに。一度も私のメガネが邪魔になったことなんてないわ。今もメガネをかけているけど、何の問題も無い)


 夫のキスを受けとめながら、ふと……そんなことを思い出して、考え込んだ。


(もしかするとベルナール様が、キスをするのが上手だからかしら? これが放蕩者のテクニックなの?)


 ベルナール様の温かい唇が私から離れた時に、好奇心に負けてたずねてみた。


「私のメガネ……キスの時、邪魔ではありませんか?」

「……んん?」

「お母様に婚姻の儀式の前に、言われたことを思い出して……」


「ああ、そう言えば……あの時の君はメガネが無くて、生まれたての小鹿のように足元がおぼつかず不安そうに歩いていたね。あれは可愛かった」


 キスをしたばかりの私の唇を、ベルナール様は少しカサついた親指でスルリと撫でて笑った。


「ええ」

(小鹿……? 可愛かった?)


「私の腕に君が可愛らしくしがみついて来たから。普段は堂々としている君にしては珍しいと、私は楽しかったけれど。……アレは母上の粋な計らいだったのか」


「粋な計らい? お母様が?」

「ふふふっ……メガネがあると、あまり情熱的な深いキスが出来ないのは確かかな。今のように軽いキスなら、ちょっとしたコツを覚えれば上手く出来るけどね」


「……えっ?」

(つまり情熱的なキスを婚姻の儀式でベルナール様とさせようと、お母様は私からメガネを奪ったと言いたいの? んんん~?)


 ベルナール様は私からメガネを取り上げ、腰をグイッ! と引き寄せると再びキスをした。

 

 ──それもベッドの上でするような情熱的な深いキス。私はベルナール様の広い背中に手を回して受け入れた。


 不意打ちをくらい、思わず私はうめき声を漏らしてしまう。

「……んんんぅ……っ」


(ああ……ベルナール様に愛されていると勘違いしそうになるから……こんなにうっとりとしたらダメよ)


 ベルナール様と結婚をして分かったことだけど。

 相手が美しいベルナール様だからか、意外にも自分がキスをするのが好きだと知った。


「んん……」

(ああ……ベルナール様とキスをしていると、心が蕩けてしまう……)


 これが元婚約者のフレデリック様でなくて良かったと、心からそう思う。


 一度だけフレデリック様とのキスを想像して、私はゾッ! と寒気がして鳥肌が立った。

 フレデリック様も私とのキスに、嫌悪感を感じていると暴言を吐いたけど。私のほうこそ生理的に彼とは絶対にできない。


 こうしてベルナール様とキスするようになってから、皮肉にもフレデリック様の気持ちを、初めて理解できた気がする。



 情熱的なキスを終えると、ベルナール様は私の顔にメガネを戻しながら言った。


「レオニー……今夜は遅くなるから私の帰りを待たずに、先に休んで良いからね」

「……はい。ベルナール様もゆっくり夜会を楽しんで来て下さい」


 私はうっとりとベルナー様を見上げながら答えた。


「行って来るよ」

「行ってらっしゃい……」


 玄関扉へ向かうベルナール様の後ろ姿を、分厚(ぶあつ)いメガネを通して(なが)めた。


 パタンッ! と扉が閉まり、夫の広い背中が見えなくなると。……思わずつぶやいてしまう。


「ベルナール様……なんて恐ろしい人かしら。これが放蕩(ほうとう)者の魔性なのね。私の考えが甘かったわ!」

(日を追うごとに私の心が、ベルナール様の魅力に惹かれてしまう……)

 

 ハァ───……と、半分諦めのため息をつく。


「気が付けば、いつもベルナール様のことばかり考えてしまって……」

(ベルナール様は私が嫌がることをしないし。側にいると、とても心地(ここち)良いのがいけないわ)


 こんなにいっぱい、キスをされるとは思わなかったし。自分の唇に指先で触れて微笑んだ。 


「求婚をされた時に感じた天使や悪魔でさえ誘惑できそうな、魅力的な夫の美しさがいけないのよ」


 学園で男の子たちに『カマキリ令嬢』と呼ばれ、私は恋愛への(あこが)れを捨てた。

 だから、こんな私は『自分は同年代の令嬢たちとは違うのだ』と思っていたけれど。


 ──ここ数日。

 ベルナール様に心を乱されてばかりの私は、普通の女の子と少しも変わらないと思い知った。


(……嫌だわ、私ったら!)


 夫が出て行った扉を(にら)んだ。


「今夜は遅くなると言っていたわね……」

(それは、つまり……親しくしている女性に会いに行ったのかしら? それともベルナール様には恋人が何人もいるのかしら?) 


 あのベルナール様なら、恋人が複数人いてもおかしくない。

 実際にベルナール様がどんなふうに社交活動をするのか。私は初めてワルツを踊った夜に見たから知っている。


 だから一度、想像を始めると胸の中で気持ちの悪いモヤモヤと際限なく(ふく)らんで行きそうだ。


「……っう」

(いけない! 嫉妬をしてはダメよ。ベルナール様を縛ってはいけない!) 


 頭を振って、くだらない想像を追い払う。


「……そうだわ。久しぶりに読書をしましょう」

(結婚の準備と新婚生活と忙しくて、何か月も本を開いていないわ)



 こんな時こそ本の世界に没頭(ぼっとう)して、現実から逃げ込むのが良い。

 今までそうやって辛く厳しい現実の世界を、耐えて来たのだから。





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