40話 初夜が明けて
ふと目覚めると……すぐ目の前にベルナール様の美しい寝顔があった。
初夜が明けたばかりの朝だから、ベルナール様の逞しい身体は私と同じく、一糸まとわぬ裸のままベッドに横たわっている。
ベルナール様を起こさないようにそろそろと手をのばし、静かにサイドチェストに置いてあった、私の分厚いメガネを取ってかける。
まだ夢の世界にいるベルナール様は目蓋を閉じているから、人の心を奥底まで見透かしてしまいそうな深い紺色の瞳は見えない。
そのせいなのか、ベルナール様の端正な顔の造りがさらに美しく際立って見える。
うっとりとベルナール様の寝顔を眺めていると、私の口からホゥ──ッ……とため息が漏れた。
「……っ」
(わぁ──っ! なんて睫毛が長いのかしら。鼻筋もスゥ─ッと通っていて、学園の美術講義室に展示してあった、彫刻のように高くて形が良いわ。唇はとても……とても……魅惑的で)
昨夜、何度も何度も繰り返し私にキスをした、ベルナール様の唇に私の目は吸い寄せられた。
数時間前の情熱的なキスの合間に、興奮して荒い息を吐くベルナール様の記憶が蘇り。魅惑的な唇から飛び出した言葉が、私の頭の中いっぱいに響く。
『オレは何千回でも、何万回でも……君を抱いてキスをするつもりだ』
たまらず私は掛けていた分厚いメガネをはずして、ジワジワと熱くなった顔を手のひらで隠し、心の中で叫び声を上げた。
(きゃああぁぁ───っ!)
「うううっ……」
(ベルナール様っ! 今、思い出しても恥ずかしいわ! なんだか別人のように、昨夜は口調も違っていたし)
昨夜の夫は何もかもが刺激的だった。そんな夫の二面性を知ったのに、私はどちらの顔も素敵だと感じている。
(荒っぽい口調だったから、まるで別人のように感じたけれど。昨夜のベルナール様は嫌いじゃないわ。私が知っている、いつも紳士的なベルナール様も好ましいけれど)
普通は人の裏の顔を見れば不快感を持つものだが。ベルナール様の場合は違っていた。
「……それにしても、驚いた」
(ベルナール様に私が自分のことを“お飾り妻”だと言ったことが、気に障ったのね。言うべきではなかったけど)
ベルナール様が私に触れた感覚を思い出して、身体の奥がポッと熱くなる。
しっかりと、それも情熱的にベルナール様は夫の義務を完璧に果たした。
私を単なるお飾り妻として扱わないつもりだと、行動で示した。
数えきれないほどキスをされた自分の唇に触れると、いつもよりも腫れている。
原因はもちろん………
(あんなにキスをしたから)
キスを思い出してうっとりと私は、ハァ───……とため息をつく。
(私にキスをしたベルナール様の唇も……私と同じように腫れているのかしら? すごく気になるわ)
顔を隠すのをやめて、確かめようとベルナール様に視線を向けると──
深い紺色の瞳がジッと私の顔を見ていた。
「きゃあっ!」
(目覚めていたの⁉)
メガネを外して視界はボヤけているけど、夫がジッと私を見ていたことはわかる。
「ふふふっ……おはよう、オレの奥さん」
「べ、ベルナール様⁉」
「そんなに赤い顔をして、何を考えていたのかな?」
「ううっ……」
「はははっ! レオニーは可愛いなぁ~」
ベルナール様は私の顔を見ながら、カラカラと声を上げて笑った。
私よりも先にベルナール様は目覚めていたけど。私がどういう反応をするのか気になって、眠ったフリをして観察していたらしい。




