39話 初夜3
キンレット男爵家がウォルコート子爵家の共犯者ではないかという疑いを、確かめるために。
当時の私は現在の相棒オーギュストとともに、第四騎士団で初めての任務をこなした。
調査をするうちに──
『オーギュスト卿。気の毒なことにキンレット男爵家は先代当主が亡くなった時の混乱に乗じて、ウォルコート子爵に嵌められて事業資金を奪われたようです』
男爵家の事業関係者を裏で買収して、事業資金を持ち逃げさせた。
『学生のうえに未成年の後継者リュシアンは、父親を亡くした直後に。父親の親友ウォルコート子爵という間違った人間を、信じてしまったようだな』
亡きキンレット男爵は、ウォルコート子爵家が大きな借金で没落の危機にあったとき。資金援助をして窮地を救った恩人だった。
──それなのに。
『主人を失くしたばかりの女、子供に詐欺を働くなんて…… とんだゲス野郎ですよ!』
本来なら恩人たるキンレット男爵家を救っても良いはずなのに。ウォルコート子爵は逆に牙を剥き、キンレット男爵家を食い物にした。
『まったくだ、ベルナール。お前の言う通りだ』
そのことが原因でキンレット男爵家は大きな借金を背負ってしまった。
関係を強化するため、レオニーとフレデリックを婚約させた両家を疑っていたが。
第四騎士団が追っている組織犯罪に関わっているのは、ウォルコート子爵家だけで。
婚約破棄で切られたことから、キンレット男爵家は被害者だと判明した。
(私は本当にレオニーを守りたかっただけなのに。『お飾り妻になる』だなんて……こんな不幸な決断をさせていたなんて)
このキンレット男爵家の被害については、証拠はそろっているのに、大事の前の小事として扱われ。
私たちは見て見ぬフリをしなくてはならなかった。
(ウォルコート子爵家の罪を追及できないことが、私の心に重くのしかかり。私はそれ以来、罪の意識からキンレット男爵家を見守り続けて来た。それなのに……)
王立図書館の本棚の陰で泣き崩れていた、レオニーを見つけたのは偶然ではない。
ちょうど第四騎士団の試用期間を終えて、私が使える有能な人材だと認められた時だった。
それまで所属していた北方辺境騎士団を、正式に退団するために北方へ向かう前に。私はもう一度、自分の決意を固めるために犯罪被害者のレオニーに会いに行った。
調査をする段階で彼女の行動を把握していたから、居場所はすぐにわかった。
「これは困った……」
(私の意思がもっと強固なら、こんな罪悪感に振り回されることもなかったのになぁ……)
どうしてもあの時、目の前で泣き崩れるレオニーを無情に切り捨てることが出来なかった。
だから私は接触は禁止されていたけど、我慢できずレオニーにハンカチを差し出した。
その時はちょうど、北に戻る直前だったから北方辺境騎士団の騎士服を着ていたし。正式に第四騎士団に入団する前だったから。
(こうして私が結婚する気になったのは……あの時の接触でキンレット男爵家に、より大きな罪悪感持ったからだと。そう言ったらレオニーは傷つくだろうか?)
「レオニー……私が君を好きだから、結婚したとは思わなかったのか?」
(確かに始まりは罪悪感と罪滅ぼしからだったけど。今は気が合うレオニーと結婚出来て、良かったと思っているのだが)
「そんなふうに自惚れることはありません。私は自分の価値をわかっていますから」
「君の価値か……困ったな」
(本当に困ったぞ!)
何ごとにも飾らない性格のレオニーとなら、人生を共にするのに最良の女性だと今ならわかる。
──そう言っても、この調子だと……
私を紳士だと疑わないレオニーは『自分に気をつかっている』と間違った深読みをして、私の言葉を信じないだろう。
「ううぅ~ん……」
(どういえば、理解してくれるかな?)
思わず私が唸っていると、レオニーがあわてる。
「あ、あの! お飾り妻でもベルナール様が少しだけ尊重して下されば、私は何も文句はありませんから……」
「うん、君を尊重すると約束する。君の誠意に私も答えると誓うよ」
(口で何も言えないなら)
レオニーのメガネ取り上げ、唇にキスをした。
(口では何も言わず、行動でレオニーに伝えることにしよう。うん、それが良い!)
「ベ……ベルナール様⁉」
「気が変わった。君を尊重して、今夜は完璧な初夜の儀式を行おうか」
「いえ、ですから私は……!」
「オレの可愛い妻よ……」
「ええっ……⁉ あっ! んんっ……⁉」
ふたたび唇を奪いながらレオニーをベッドに押し倒した。
(今までのような遠慮は抜きだ!)
現在捜査中の案件が解決したら。オレは情報収集の担当から外れたいと上司に伝え、その許可をもらっている。
オレたちの夫婦関係が拗れるのが嫌だったから。レオニーと関係を深めるのは、放蕩者をやめたその後でも良いと思っていたけれど。
寝転がるレオニーの唇を解放して、オレは宣言した。
「オレの愛は君が思うよりもずっと重いから、覚悟すると良い」
「……愛っ? ベルナール様はお飾り妻の私に、愛を贈って下さるのですか?」
「君の勘違いを、今すぐ訂正しないといけないからね」
「勘違い? ベルナール様……あ、あの⁉」
レオニーの赤く染まった頬をなでながら、ニヤリと笑った。
「ふふふっ……今から素のオレを“体験”する、君の反応が楽しみだ」
「ええっ???」
「レオニー……」
(オレの本性はけして優しい紳士でないと。今夜、君は知るだろう)
今まで抑えていたありったけの情熱を込めて。
深く濃厚なキスでレオニーの心を奪い……オレ自身の心もレオニーに捧げる。




