38話 初夜2
結婚初夜で花嫁のレオニーの話を聞き、いきなり横っ面を殴り飛ばされたような衝撃を受けた。
新妻となったレオニーが言うには、私たちの結婚は『白い結婚』で。私はレオニーをお飾り妻にするような、利己的なクズだと思われていたのだ。
これで衝撃を受けないわけがない。
「なるほど。それで君は初めて会った時から、私に淡白な態度だったのか……?」
「いいえ、初めてお会いした時は理解出来ずに悩みました。でも私の持参金は不要で、ベルナール様から支度金をいただけると聞いたので。それが私への報酬なのだと気づきました」
「報酬? 私が贈った支度金が⁉ あの程度の金額で私が君の一生を買うような男だと、本気で思っていたのか?」
(レオニー…… さすがにこれは傷ついたぞ)
たまらず私は隣に座るレオニーの手を取り、ギュッ… とにぎる。
「え?! もっとお金を下さるつもりでしたか?」
もちろん結婚したのだから、出来る限り私はキンレット男爵家を支援するつもりだが。
「……いやっ! 違うっ……じゃないっ! ……だからだね!」
(これはもう、何と言って誤解を解けば良いのやら? 怒った方が良いのか。それとも笑い飛ばした方が良いのだろうか?)
私が仕事で放蕩者を演じている間は、この誤解を解く術が無い。
解こうとすれば……社交界で私がなぜ放蕩者のように振る舞うのか、理由を説明しなくてはならないから。
「どうか侮辱だと受け取らないで下さい。支度金をいただけただけでも感謝しています。私はじゅうぶん満足しているので……」
「…っ …っ …っ …っ!」
もっと何か言いたいのに、私は何も言えなくて魚のように口をパクパクした。
私が所属する第四騎士団は、元々は王家に対して謀反を企てる貴族たちを秘密裏に捜査する組織だった。
現在は謀反よりも組織犯罪や、他国の間諜をあぶり出すのが、おもな役目になっているが。
情報漏洩を防ぐために厳格な規則で縛られていて、他の王立騎士団の中でも上層部の者にしか存在を明かされていない。
だから手柄を立てても日の目を見ることも無い。
(私が所属する騎士団の名を出すだけで、重罪になってしまうし。……クソッ! やっぱりレオニーに何も言えない!)
私がムスッと黙り込むと。レオニーは私が不機嫌になった理由を勘違いして弁解する。
「私が言いたいのはですね……ベルナール様の恋人に嫉妬心を持って、邪魔したりしないと誓います。ですから女性に対する活発な社交活動を楽しんで下さい」
つまりレオニーは自分の妻としての幸せは考えなくて良いから。
夫の私はいくらでも快楽を追及して、遊びまわっても良いと許可を出したのだ。
「……これは驚いたな」
「あなたのお飾り妻を立派につとめて、あなたを幸せにしてみせますわ!」
「本当に驚いたよ。君がここまで私のことを思ってくれていたとは………」
(こんなことをレオニーに言わせたくて、結婚したわけではないのに。自分が情けない)
ハァ───……と私は大きなため息をついた。




