3話 灰色の学園生活
学園生活にも慣れて、ようやく平穏な日常を取り戻したと思えるようになったころ。
私を見てクスクスと笑う人たちの姿を度々見るようになった。
笑っている人たちには共通点がある。私よりも二歳年上で、婚約者のフレデリック様と同じ年の人たちばかりだ。
「ねぇ……! メガネをかけたあの娘じゃないかしら?」
「……ああ、たぶんそうだ」
「ふふふっ……本当に噂どおりね」
「ああ。ふふっ」
学園の図書室で次に読む本を選んでいると、私を見て笑う人たちにまた遭遇した。
「……っ⁉」
(嫌だ、まただわ! なぜ私を見て笑っているの⁉ 訳がわからない)
いつもなら屈辱を感じて逃げるようにその場を去るけど……今日は勇気を出して留まった。
私の噂をする人たちに背中を向けたまま、棚にあった本を取り内容を確認するフリをする。私は噂話をする人たちの会話に注意深く耳をかたむけた。
「あの娘がアンヌが言っていたカマキリ令嬢でしょう?」
「たぶん、そうだ。オレは一目でわかったよ」
ビクッ! と私の身体が強張った。
「……っ!」
(アンヌ? フレデリック様と一緒にいたあの綺麗な令嬢のこと……⁉)
緊張してブルブルと震える手に持つ本に目を向けながら、ギョッとした。
二歳年上のフレデリック様とアンヌ嬢が私につけた『カマキリ令嬢』という蔑称が、彼らの友人たちを中心に噂が広がったのだ。
「本当にあの容姿では、噂の人物だと間違いようがないわね?」
「かわいそうだな。あんなふうに、カマキリにそっくりな容姿で産まれるなんて……」
「ふふふっ……でもビックリするほど似ているわね」
「昆虫に似ているなんてな。せめて蝶とかなら良かったのに」
「あら、意地悪ね。うふふっ……」
「あんまり笑うなよ。かわいそうだろう?」
「あなただって顔がニヤニヤしているわよ」
噂話をする令嬢や令息たちは、自分たちの会話が私をどれだけ深く傷つけているかなど構わずに。憐れむ言葉を使いながらクスクスと笑う。
まるで憐れみや同情の言葉を使えば、誰かが傷ついてもそれが免罪符にでもなると思っているのだろう。
いつの間にか私に付けられた『カマキリ令嬢』の蔑称は学園全体に広まり、私を直接知らない人たち全員がそう呼ぶようになった。
◆ ◆ ◆ ◆
「本当にひどい人たちだわ! あんなに無礼な言葉を口にして、何が楽しいのかわからないわ。レオニーがどれだけ知的で心が綺麗な人か知らないクセに」
「レオニーは容姿だってすごく綺麗だわ! 人より少しメガネが分厚いだけよ」
「そうよ。レオニーはスラリと背が高くて、萌黄色の瞳を近くで見ると息をのむほど綺麗なんだから」
「何も知らないくせにあんな言葉で侮辱するなんて、礼儀知らずね」
「心が貧しいから、あの人たちの目には真実が映らないのよ」
友人たちは私への侮辱を、自分のことのように怒ってくれた。私を支えてくれる友人たちに感謝しきれない。
「レオニー、負けないでね。私たちが付いているから!」
「そうよ、レオニー! 私たちは味方だから」
「あ……ありがとう。みんな……私の味方になってくれて」
(本当に心強いわ。みんながいなかったら……私はきっと耐えられなかった)
友人たちは私を慰め守ろうとしてくれたけど、噂が消えることは無かった。




