28話 謎の求婚2
ベルナール卿は誰もが知る放蕩者で、有名な美男子だから。
私とワルツを踊った舞踏会でも、ベルナール卿は私の他にたくさんの女性たちと踊っていた。
……もしかするとその中の誰かと、求婚状を贈る相手の名前を間違えた可能性がある。
(私はベルナール卿のことをしっかり覚えているけれど。たくさんの女性たちと踊ったベルナール卿は、何らかの理由で私と誰かを、勘違いしているのではないかしら?)
どう考えても、この求婚は間違いとしか思えない。
「どちらにしても……ずっと格上のウォンボーン公爵家出身の殿方を、うちから簡単に断ることはできないのよ」
ここで断れば困るのは男爵家当主のリュシアンお兄様である。
「お会いして求める相手が間違いだと気づいたら、ベルナール卿は気まずい思いをするでしょうね……?」
「まだ、間違いだとは限らないわよ」
「いいえ、決まっているわ」
「とにかく一度会ってから、求婚状の返事を出した方が良いわね」
「はい。お母様……」
(ベルナール卿がどこの令嬢と間違えたかは知らないけれど。本当にそうなら迷惑な話だわ)
──でも、もし違ったら? 本当にベルナール卿が私との結婚を望んでいたら?
裕福なウォンボーン公爵家出身の男性なら……キンレット男爵家への援助も期待できる。
私はそんな楽観的な考えを、首を振って頭から追い出した。
天国から地獄へ突き落とされて、立ち直れないほど傷つきたくないから。
「この求婚には、絶対に何か裏の事情があるわ。そうとしか思えない」
(淡い夢は捨てて、もっと厳しい現実を見ないと……)
私はハァ――……とため息をつくと、お母様は悲しそうに表情を曇らせた。
「レオニー……そんなに卑屈になってはいけないわ」
「ごめんなさい、お母様。でも……」
舞踏会の夜の記憶があまりにも素晴らしかったから。何となくベルナール卿に、裏切られたような気分になった。
素敵な紳士だと思っていたベルナール卿に落胆し、きらきらと美しく輝いていた舞踏会の記憶が急激に色褪せて行く。
◆ ◆ ◆ ◆
夜になり寝る時間になると。
私はベッドに入る前にもう一度、ベルナール卿の求婚状を読んだ。
何度も読み返してみても変わらない文面にため息をつく。手紙から目を離し何気なく壁に掛けてある鏡をのぞいた。
「フレデリック様のいう通りだわ。本当に私はカマキリにそっくり……」
以前と変わらず、私の身体は枯れ枝のように痩せていて。長い髪は平凡な茶色。
分厚いメガネを掛けているから、レンズを通すと私の珍しい萌黄色の瞳は、奇妙に歪んで見える。まるで昆虫の目のように。
そんな自分の容姿が今は心底、嫌いになった。
気持ちが高ぶり涙がこぼれそうになる。私は指先で濡れた目をぬぐう。
手に持っていた求婚状を丁寧に折りたたんで、机の上に置くとベッドに入った。
「本当に私の予想通り、ベルナール卿が勘違いをしていたとしたら……」
(どれだけ覚悟していても、私が深く傷つくことは避けられそうにない)
美しい舞踏会の良い思い出だけで、とどめておけたら良かったのに。
「私は運が無いわ……」
(ああ……本が読みたい。傷だらけの騎士様にすすめられた本の続きが読みたいわ)
その夜はせっかく早くベッドに入ったのに、遅くまで眠ることが出来なかった。




