25話 災難
社交デビューしたばかりの私が結婚相手を見つけるどころか、ベルナール卿のような放蕩者に目を付けられたらと、叔父様にひどく心配されたけど。
そんな叔父様の心配は、ただの杞憂で終わった。
ベルナール卿とダンスを踊った舞踏会の夜を境に、私は社交活動を中止せざるおえなくなったからだ。
キンレット男爵家の死活問題につながるほどの、深刻な問題が領地で発生していた。
今年の農作物の元となる苗に病気が発生して、大損害を出していたのだ。
お兄様とお母様の尽力も虚しく被害は大きくなるばかりで、私の社交活動どころではなくなっていた。
「でもねレオニー……こんな時だからこそ、あなたは嫁ぎ先をもっと熱心に探すべきなのよ」
「いいえ、お母様。いくら探しても、私の結婚相手は見つかりません」
(いい加減、もっと現実を見て欲しい。私の将来を思ってのこととわかるけど……)
「レオニー……簡単にあきらめてはダメよ!」
「お母様、奇跡でも起きないかぎり、私が結婚できるとは思えないわ」
「ねぇ、そんなことは言わないで」
お母様が今にも泣きだしそうな悲し気な表情になり、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになったけれど。
私は首を横に振った。今回ばかりは私の考えを曲げて、社交活動を再開することを拒んだ。
「もともと私はフレデリック様の婚約者だった頃から、結婚に対して夢や希望は持っていなかったから平気よ」
(フレデリック様が相手では、希望を持ちようがなかった。……むしろ毎日の生活が地獄になると、覚悟していたぐらいだから)
だから婚約破棄されたときは、確かにショックだったけれど。
時間がたつにつれて少しずつ、私にとっては良かったのだと思うようになった。
「まぁ、レオニー……」
「だからお母様。私は結婚しなくても、別のことで幸せを見つければ良いのよ」
(私を妻として必要な人はいなくても。きっと家庭教師や付き添い役なら、どこかに私を必要としてくれる人がいるはずだわ)
何より私自身が、結婚して幸せになる自分の姿を想像できない。
結婚をあきらめた私を悲しそうな目で見るお母様の手を取って、力づけようと両手でギュッと握る。
「学園を卒業したら職業婦人となって、たくさん働いてお金をもらうつもりよ」
「本当にそれで良いの?」
「ええ。そうやって少しでも私は、キンレット男爵家の助けになりたいの」
(だからお母様、そんなに心配しないで)
「でもね、レオニー……」
「少なくとも、結婚の見込みもないのに社交活動を続けるよりも。私は自分の将来に希望を持てるわ」
お母様は少しも納得していないようすだったけれど。熱心な説得で私の社交活動は、時間の無駄だとようやく受け入れた。
そして職業婦人への道へ進むことを、渋々だけど許してくれる。
もう一人の家族。リュシアンお兄様のほうは、お母様よりもずっと現実的だった。
「すまないレオニー……」
「良いのよ、お兄様。私のほうこそごめんなさい。良い人を見つけられなくて」
(きっとお兄様は私が良い結婚をして、その相手からの支援金を期待していたのだと思う)
「いや……持参金を出してやれないのだから。こういう結果になったのはお前のせいではないよ。本当にすまない、レオニー」
何度も私に謝罪して、悔しそうに肩を落とすお兄様を見ていると……胸が張り裂けそうになる。
「お兄様はすごく頑張っているわ。だから私も役に立ちたいの」
キンレット男爵家はお父様が亡くなって以来、つねに没落の危機に瀕していたから。
お兄様自身も、愛し合っていた幼馴染の女性と婚約していたけど。借金が原因で将来の見通しに影を落とし結婚を断念した。
「僕にもっと魅力があれば良かったのに……」
そしてお兄様は男爵家のために、多額の持参金を持ってきてくれそうな、裕福な女性との結婚を望んでいた。
でも、私と同じく現実はすごく厳しい。
美男子のお兄様でさえこんな状況なのに。
醜いカマキリ令嬢と呼ばれる私の結婚が、上手くいくはずがない。




