24話 救い主の正体2
舞踏室のまん中でカドリールを踊るベルナール卿とアンヌ様を見つめながら、叔父様と私は話し続けた。
「お前はあの男……ベルナール卿に好感を持っているだろう?」
「……はい。とても素晴らしい紳士だと思いました」
叔父様は顔をしかめた。
「レオニー、それが放蕩者がモテる理由なんだよ」
「叔父様……?」
「たった一度のダンスで普段は慎重なお前の心を溶かしてしまった。そうやって簡単に手に入れるだけの手練手管をベルナール卿は使えるのだよ」
「……放蕩者の手練手管」
(ベルナール卿が? 彼はそんなに危険な遊び人なの? 確かに私は少しもベルナール卿を疑いもしなかったけれど。……それが放蕩者のテクニックなの⁉)
「まぁ、彼は未婚の若い娘は相手にしないという噂だが」
「ベルナール卿が………」
(信じられない。でも私がこんな気持ちになるのは、すでにベルナール卿の術中に嵌っているからかしら?)
思わず唸ってしまいそうなほど感心した。
「ああ、そうだ。レオニーはデビューしたばかりだから知らなかったのだな」
「……はい」
(本当ならすごいわ、ベルナール卿は)
「だから、いくら美男子で親切な紳士でも。あの男は未婚の娘に本気になることはないんだよ」
確かに私は結婚相手を求めて社交デビューをしたことになっているから。
ベルナール卿に結婚するつもりが無く遊びたいだけなら。
そんな人に夢中になれば、私はとんでもなく危険な火遊びをすることになる。
容姿が醜いうえに放蕩者に夢中になった、軽い娘という醜聞が追加されるかも知れない。そんなことになったら、結婚どころか職業婦人への道まで閉ざされてしまう。
「ああ……なるほど」
(だから叔父様は、ベルナール卿に私が傷つけられないよう、彼を好きになるなと言いたいのね)
「いいか、レオニー。今後一切、あの男には関わらないようにしなさい」
叔父様は私に強く言う。
「……」
(ベルナール卿が『またダンスに誘っても良いですか?』と私にたずねたのは、私が叔父様からこんな話を聞くと見越していたのだわ)
ベルナール卿がそんなに悪い人には見えなかったけれど。でも叔父様が言うのならそうなのだろう。
(叔父様には悪いけど。またベルナール卿からダンスに誘われたら、私は断れないかもしれない)
それほどベルナール卿の魅力を拒絶するのは難しい。
『私が優しい? ダメですよ。そんなふうに男を簡単に信じては。もしも私が邪悪な理由でアナタに近づいたとしたら、どうするのですか?』
──と冗談でも私に警告した人が、本当に悪い人だとは思えないけど。
ひょっとするとソレさえも女性を夢中にさせるための、ベルナール卿が持つ口説きのテクニックだとしたら? なんて恐ろしいのだろう。
「アレを見れば……ベルナール卿はダメだとわかるだろう?」
「……はい。叔父様」
叔父様と私の視線の先でアンヌ様と踊っていたベルナール卿は、ダンスが終わるとすぐに他の女性のもとへ向かった。
ベルナール卿が選んだ次のダンスパートナーは、社交界でも遊び上手だと有名なロスベック伯爵夫人だ。
私の胸がチクリと痛んだけれど無視した。
「私がベルナール卿に思いを寄せることはありませんから」
「そうあって欲しいよ」
私はベルナール卿の姿を目で追いながら、叔父様を安心させるためにもう一度言った。
「叔父様、私はベルナール卿に夢中になったりしませんから……」
「うん」




