23話 救い主の正体
舞踏室のすみで叔父様がダンスを終えた私を待っている姿を見つけた。
「ああ、叔父様があそこにいるわ。知人とのお話は終ったようです」
「それは良かった。またケネスモント夫妻に絡まれては面倒ですから」
「ふふふっ……そうですね。特にアンヌ様はベルナール卿と踊りたがっていたのに、私が先に踊ってしまいましたから」
(ベルナール卿の言う通りだわ。アンヌ様は腹いせで、私に嫌がらせをするかもしれないわ。フレデリック様はどうかわからないけれど)
ベルナール卿のエスコートで叔父様の元へ送られる途中。
「またダンスに誘っても良いですか?」
──と尋ねられた。
でも私はベルナール卿の親切心や社交辞令に、ずうずうしく付け込むようなことをして内心でうんざりさせたくなかった。
そんなふうに思われるぐらいなら、今夜の良い思い出だけでとどめておきたい。
だから──
「ありがとうございます、ベルナール卿。あなたの時間を奪いたくありませんから、心配はしないで下さい」
私の返事にベルナール卿は一瞬、驚いた表情を浮かべる。
傍から見たらベルナール卿の配慮は無用だと返したのだから。未婚の若い娘の反応としては、ずいぶんと可愛げのない返事だ。
けれど今は本心を語りたい気分だった。
「私は無理などしていませんよ」
──とベルナール卿に言われたけど。
私はこれも社交辞令だと受け止め、軽くほほ笑んでこの話を終わりにした。
「一人にして悪かったね。レオニー」
「叔父様、お話は終りましたか?」
「ああ。それよりも……?」
叔父様は私とベルナール卿を交互に見て、驚きを隠せない様子だ。『どうやってベルナール卿と知り合ったんだ?』と叔父様の顔に書いてある。
「レオニー嬢、私はこれで失礼します」
叔父様に説明を始めるといろいろ面倒なことになりそうだったので、ベルナール卿はそのことを察知して素早く退散することにしたらしい。
「はい、ベルナール卿」
「良い夜を……」
「ベルナール卿も良い夜を」
ベルナール卿はニッコリとほほ笑み。
大柄な体格に良く似合うゆったりとした動作で、優雅にお辞儀をして去って行った。
予想通り。
叔父様にどういう経緯でベルナール卿と知り合い、ダンスをするまでに至ったのかをクドクドとしつこくたずねられた。
私は隠す必要がなかったので、フレデリック様とアンヌ様に意地悪をされてベルナール卿に救い出されたことを全部話した。
「なんて卑劣な奴らなんだ。自分たちが不貞をはたらき、婚約を破棄しただけでは飽き足らずそんな悪どいことをするなんて」
「でも、それを見ていたベルナール卿が助けて下さったから。私に大した被害はなかったの」
顔を赤くして私のために怒ってくれる叔父様をなだめようと、私は叔父様の腕に触れた。
「本当にそうか? お前はいつもそうやって我慢をして無理すると……お前の母親が嘆いていたぞ?」
叔父様は自分の腕に触れる私の顔を見つめた。カッと火が付いた怒りを抑えて、私へのいたわりの表情を浮かべる。
「ふふふっ……本当に私は大丈夫ですから。叔父様、どうかこのことはお母様に話さないで下さい。心配させたくありません」
「レオニー、お前は本当に家族思いの優しい娘だなぁ……」
「ありがとうございます。でもお母様もお兄様も私に甘すぎますから」
「お前ほど、美しくて優しい娘は滅多にいないのに。なぜそんなお前が婚約破棄なんてされるか、私には訳がわからないよ」
どういう訳か叔父様は本気で私のことを美しいと勘違いしているらしく、ハァ──……と大きなため息をつく。
「叔父様……」
(叔父様ったら、いくら何でも身内びいきが過ぎるわ。だって私は世間一般では、美しくないと言われる容姿なのよ?)
思わず苦笑してしまう。
でも家族や身内にまで容姿が醜いと言われたら、私の心は救われないだろう。
私の家族も親戚も私を美しいと褒めてくれるけど。
そんな家族や親戚たちの方がずっと、優しくて美しい人たちだと私はそう思っている。
叔父様の優しさにほんわかと胸を温めていると。
「だがなぁ……レオニー。あの男は放蕩者だからダメだ」
「……え?」
叔父様は次のダンスを踊り始めた男女の群れを見つめながら言った。
私も叔父様の視線の先に目を向けると、そこには輝くような笑顔を振りまくアンヌ様と、ベルナール卿がペアとなってカドリールを踊っていた。




