19話 宿敵2
舞踏室で流れる音楽を聴きながら、せっかく心地良い気分でいたのに。
私が一番会いたくなかった人たちの、フレデリック様とアンヌ様が私の前にあらわれた。
私の幸せを邪魔するのが生きがいだと言いたげに、二人そろってクスクスと意地悪そうに笑っている。
フレデリック様が先に声をかけてきた。
「君は相変わらずだな?」
フレデリック様の言葉を訳すと……“君は相変わらず醜いな”と言いたいのだろう。
いくら性格が悪いフレデリック様でもさすがに人の目が多い夜会では、女性の私に堂々と侮辱の言葉を投げつけられないらしい。
フレデリック様は弱い者いじめを陰でする卑怯者だから。
「フレデリック様もおかわりないようですね」
(性格の悪さは成人して結婚したぐらいでは、良くはならないのね)
少しは大人の男性としての自覚が出て、落ち着くかと思っていたけど)
たぶん、フレデリック様のこの性格の悪さは一生治らないだろう。
「うふふっ……レオニー嬢がデビューするとは思わなかったわ」
アンヌ様は嘲笑う自分の口を、扇を開いて隠した。
淑女らしく唇を隠しながら、“そんな姿で恥ずかしくないの?”とアンヌ様は私のドレスを上から下までジロジロと見て、視線で私をバカにした。
アンヌ様は王都で一番人気のドレステーラーで作った、真珠をちりばめた華やかで高価なドレスを纏っていた。
確かに今夜のアンヌ様は美の女神のように美しい。
───確かに私のドレスは中古品を手に入れたものだけど。袖やすそを大胆に直し。
レースやリボンを新しく買って付けて、今年の流行に合わせている。
だから少しもおかしくないし、友人たちも素敵だと言ってくれた。
強いて言えば少しだけ布の質が悪いから、ざらざらと手触りも悪い。
「……っ」
(だから何だというの? 婚約を破棄したのだから。私とあなたたちは、今さら何の関係も無いでしょう?)
フレデリック様は私の容姿を侮辱し、アンヌ様はお母様とお兄様が苦労して用意してくれたドレスを侮辱したのだ。
私は珍しく怒りが抑えられなくなった。
以前の私なら二人の侮辱に耐えられず。恥ずかしさから背中を丸めて少しでも背が高い自分を小さく見せようとしたけれど。
二人を見つめたままアンヌ様をならい。
私も扇を開くと怒りでピクピクと痙攣する唇を隠した。
フレデリック様の隣でアンヌ様がクスクスと笑っている。アンヌ様もフレデリック様と同じく、私の前でだけ本性を見せる性悪な卑怯者。
この二人は似た者同士の性格でお似合いのカップルなのだ。
「ねぇ、レオニー嬢。さっきから見ていたけど、あなたずっと壁の花でいるわね? どなたか素敵な殿方を紹介してあげましょうか?」
「ふふふっ… アンヌは優しいな。友達でもないレオニーのために、そんなことまでしてやるなんて」
「だって、フレデリック。仮にもレオニー嬢はあなたの元婚約者よ? 私があなたを奪ったことで罪悪感があるから」
「ああ、君がそんなこと考える必要は無いよ。悪いのは綺麗になる努力をしなかった、レオニーだよ」
「もう、フレデリックったら意地悪ね。そんな残酷な言いかたをして……」
“いくら努力してもあなたが綺麗になることはないわ”と私を見る目がバカにしていて、アンヌ様の本音を語っていた。
アンヌ様の言葉はいつも噓だらけ。
こんなに欺瞞に満ちた邪悪な言葉を、たくさんの人たちが信じてしまうのが、私には理解できない。
「……っ」
(この人たちは何が楽しくて、私を侮辱するの? 私と婚約破棄できたのだから。目的は達成したはずなのに。他に何があるの?)
私はある考えに思い至りハッ! ……と息をのんだ。
(もしかして……⁉)
──理由はわからないけれど。学園で私が味わってきた悪夢を……この二人は社交界でも再現しようとしているのかもしれないと。
急激に落ちつきを失い、私は顔を強張らせた。
私はこの状況からどうやって抜け出そうか動揺し、パニックになりかけていると。
「私と踊っていただけませんか?」
「……っえ⁉」
すぐ近くで穏やかな男性の声がした。
不意に私たち以外の第三者に声をかけられ、驚いて振りむく。
私が振り向いた先には誰もが見惚れてしまいそうな、とんでもなく麗しい容姿の男性が立っていた。
「……⁉」
(誰……? 今まで見たことが無い人だわ)
私を侮辱するフレデリック様とアンヌ様に気をとられて、男性がすぐ近くまで来ていたことに気付かなかった。
それはフレデリック様とアンヌ様も同様で、男性の存在に気づいたとたん二人は驚いた表情を浮かべる。




