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醜くて吐きそうだと捨てられた私は社交界一のモテ男に求婚された  作者: みみぢあん


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18話 宿敵


 ブロムフィールド伯爵家が主催した舞踏会で。

 私は母方の叔父に二十歳年上で子持ちだけど。そこそこ裕福な子爵様を紹介してもらった。



「このは姉の娘のレオニーです。まだ学園に在学中ですがとても思慮深く、家族思いの自慢の姪なのですよ」


「初めまして、子爵様」

「ああ……お会い出来て光栄です、レオニー嬢」


 叔父様に紹介された子爵様も、私の顔を見るなり引きつり笑いを浮かべた。

 子爵様の顔を見ただけで『ああ、この人も見込みはない』とすぐにわかった。


「実はレオニーは相手側の一方的な都合で、先日婚約になりましてね……」

「それは気の毒に。相手はなんて不作法なんでしょうね」

「ええ、本当にその通りです」


「私があと十歳若かったら、レオニー嬢の婚約者に名乗り出たのですが。残念です」

「おや、十歳ならそんなに悪くはありませんよ」


 叔父様はさっそく子爵様を追いつめるが。当の子爵様は私よりも二十年分多く経験を積んでいるだけあり、スルリと上手に叔父様の追及をかわした。


「いえいえ……私は子持ちのうえに離婚を一度していますから。私にはレオニー嬢がとてもまぶし過ぎます。お若いレオニー嬢なら、私よりも相応しい紳士が似合うでしょう」


「そうおっしゃられるなら、残念ですわ」


 私は子爵様の拒絶を素直に受け入れた。

 でも子爵様は私から離れてすぐに、私と同じく今年デビューしたばかりの白いドレスを着た若い女性に声をかけた。

 見るからに私よりも若い女性だ。


「嘘つき。いやらしい人!」

(予想通りだわ。やっぱり私は職業婦人を目指すわ)



 キンレット男爵領で問題が起きて、大忙しのお兄様とお母様は今夜の夜会を欠席している。


 代わりに叔父が私のエスコートをしながら、独身の知人に次々と紹介してくれるけど。


 私に興味を持つ人は、今のところ一人もいない。



「叔父様、少し疲れてしまったので、休憩しても良いですか?」

「ああ、そうか。そうしなさい」

「でしたらあそこの壁際にいますから。叔父様はさっきお会いしたご友人とお話しされてはどうですか?」


 叔父様は仕事の関係で知り合った人に呼び止められていたけど。私を優先してその人との話を簡単に切り上げていた。


「一人で大丈夫か?」

「はい。大人しく良いにして、壁の花にまりますわ」

「はははっ……レオニーはいつでも大人しくて良いじゃないか」

「ふふふっ……ではいつも通りの良いで壁の花になります」

「うん、すまないな。なら、少しだけ行ってくるよ」


 私は叔父ニッコリと笑って見せた。


「はい、私のことはお気になさらず。行ってらっしゃい、叔父様」

(叔父様も優しい人だから。人気の無い私が断られ続けて、心を痛めさせてしまっているわ)


「すぐに戻るから」

 ……と言い残して知人のもとへ行く叔父の背中を見送った。


 左手の手首にひもを通してぶら下げたカードに右手で触れた。


 今夜は舞踏会だから。

 踊る予定の男性の順番を忘れないようにメモしておくための、ダンスカードを手首にぶら下げているけれど。


 私が社交界にデビューしてから一度もダンスカードを使ったことがない。だから今も用意した時と同じく、カードはまっさらの状態のまま。


「お母様にいらないと言ったのに……やっぱり邪魔だわ」


 プラプラと手首でゆれるダンスカードを、顔をしかめて見つめた。


 私もダンスに誘われたことはあるけれど。どれも社交辞令で義務のようなものだった。

 舞踏会を主催した側の人たちが、壁の花となっている未婚女性を順番に誘って踊っただけだ。

 

 私も社交辞令で踊ってもらった一人だから。家族以外の男性と辛うじて踊る経験ができた。



 楽し気に舞踏室のまん中で踊る男女を見ながら。私は壁の花となるために壁際へ向かう。


「いいわ、頑張ってセリーヌ。今夜のあなたは素敵よ」


 私の視線の先のダンスを踊る男女の中に、友人のセリーヌの姿がある。

 セリーヌも結婚相手を求めて来ているのだ。


「私も踊りたいわ……」

(今夜はお兄様がいないから、踊れない。叔父様は腰を痛めているし……残念)


 自発的に私をダンスに誘ってくれる男性はいないけれど。私はダンスが好きだし得意だ。


 それが意外だと友人たちに言われるけど。


 読書ばかりしている私の姿からは想像ができないらしい。でも小さなころからダンスが得意なお兄様に特訓されてきたから。


 だから学園で受けるダンスの講義で背が高い私はいつも男性パートを踊り、イネスやセリーヌ、ナタリーのパートナーを務めている。 


 壁際まで来ると私は手のひらを組み人差し指で、トンッ、トンッ、と指どうしを打ち合わせた。音楽隊が奏でる曲に合わせてリズムに乗る。


 私もダンスに参加していると気分だけ味わい、楽し気な音楽を聴きながら微笑んだ。


「あら、誰かと思ったら。カマキリ令嬢だわ」



 舞踏室の中央で踊るセリーヌに注目していると。

 私の蔑称を恥ずかしげもなく口に出す、ソプラノの声が耳に飛び込んで来た。


 ハッ! ……と息をのみ、声の主をさがすと。

 フレデリック様と豪華なドレスを纏ったアンヌ様が、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて立っていた。


「……」

(ああ、いつかは会うだろうと思っていたけど。いい気分が台無しだわ)

 


 二人の顔を見たら、音楽で浮かれていた気持ちが一瞬で萎んだ。




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