17話 社交デビュー3
アンリ卿の次に紹介されたお兄様の友人モーリス卿は、アンリ卿のようにソワソワ、オロオロとはしなかったけれど。
私からさっさと逃げ出すためにモーリス卿は新たな生贄を用意した。
「ああ、そうだ。僕よりも従弟のアランのほうが、レオニー嬢とちょうど年齢が同じで釣り合うはずです」
モーリス卿が私に差し出した生贄のアラン卿は、私の顔を見るなり怯えた表情を浮かべる。
同じ年の相手なら見覚えがある人かと。私はもっとよく相手の顔を見るために、ずり下がった分厚いメガネを鼻の上に押し上げた。
「レ、レオニー嬢……お会い出来て嬉しいです」
「私もです。アラン卿」
(あなたの顔は、私に会っても嬉しそうには見えないけど)
「……あのっ」
「はい」
(ほらね! アラン卿は私を紹介されて迷惑そうだわ。ごめんなさい)
年齢が同じだというなら、アラン卿も学園に通っているはず。
私が学園で“カマキリ令嬢”と呼ばれ嘲笑されているのも、たぶん知っているのだろう。
学園は同じでも男女で受ける講義の内容が異なるため、講義室が違い男子生徒とはあまり接点がないから。
私もアラン卿のことを知ったのは、モーリス卿に紹介されたこの時が初めてだった。
「あの……僕は友人と約束をしていて、申し訳ありません。レ……レオニー嬢、失礼します!」
「はい、お気になさらず。アラン卿もご友人と夜会を楽しんでください」
(私もあなたのことは気にしないから、あなたも気にしないで)
アラン卿は私の言葉で、ホッとほほ笑んだ。皮肉にも私の前で初めてアラン卿が笑顔を見せた。
無礼ギリギリの挨拶を残して、アラン卿は逃げるように去って行く。
ヘタに私と関われば“カマキリ令嬢の新たな獲物”だと学園でひどい噂になると、思っているのだろう。
「失礼したね、レオニー嬢。アランの無礼を許して下さい」
「どうかモーリス卿も、私のことはお気になさらず。兄が私のために無理を言ったのを知っていますから」
一瞬モーリス卿は驚いた顔をする。
「そうですか?」
「はい」
私はニッコリと笑って見せた。陰口をたたいて嘲笑うよりはずっとマシな態度だから。
「……」
(お母様、お兄様、私の社交デビューはすでに大失敗で終わっているわ。……そうよ。始める前から、失敗で終わる運命だと決められているの)
最初からあきらめていた私は殿方の態度に屈辱も感じないし。相手の素っ気ない態度が悪いとも思わない。
元婚約者のフレデリック様にすてられ、私は嫌と言うほど思い知っている。
適齢期の女性として私を尊重してもらうことを相手に期待できないほど。私には女性の魅力が欠けているのだ。
だから私にとって、この無意味な時間が早く過ぎ去って欲しいと祈るのみ。
モーリス卿が軽くお辞儀をして私の前から去ってゆくのを見送ってから。
ハァ───……と今夜、何度めかのため息をついた。
「お願いだから、お母様もお兄様もコレぐらいで満足して欲しいわ。女神様……どうかあの二人を説得して下さい」
この社交デビューは私のためと言うよりも。私を大切に思うお母様とお兄様を、納得させるためなのだ。
私は蝋燭の灯かりが反射してキラキラと輝くシャンデリアを仰ぎ見て、女神様に囁き声でお願いした。
「どうかお願いします……」




