14話 運命の恋人たち
ウォルコート子爵家がキンレット男爵家に違約金を支払い、強引に私とフレデリック様の婚約を破棄してから一ヶ月ほどしか経っていないのに。
元婚約者フレデリック様とラプリー伯爵家の令嬢、アンヌ様が婚約したと学園中で話題となった。
「ねぇ、聞きましたか? フレデリック様とアンヌ様がようやく婚約されたそうですわ」
「まぁ! それは嬉しい驚きだわ! ずっと運命の愛で結ばれていたお二人を、応援していましたの」
「私もですわ!」
「これで運命の恋人たちを邪魔していた、カマキリ令嬢にも罰が下ったのね」
「ふふふっ……当然の報いだわ」
噂話をしていた令嬢たちが意地悪な笑みを浮かべて、同じ講義室の片すみにいた私をチラリと見る。
私との婚約破棄からフレデリック様のあまりにも早過ぎる新たな婚約に対して、噂に花を咲かせる人たちが少しも疑問を持たないことが不思議だった。
誰にも聞こえない小さな声で、思わず私はつぶやいた。
「本当にみんなどうかしているわ……」
(ウォルコート子爵家が限度を超えたマナー違反をしているのに)
自分たちの都合で婚約破棄をした貴族家は、普通は相手の貴族に配慮してすぐに次の行動へ移さないのが常識なのだ。
だから今回のフレデリック様とアンヌ様の婚約は、キンレット男爵家への配慮がまるっきり欠けている。
それほどウォルコート子爵家が、キンレット男爵家のことを軽く見ているという証拠だ。
「本当にあきれた話だわ」
(どうやら噂話を楽しむような人たちは、頭の中にも花が咲いているみたいね)
あきれすぎて思わず笑ってしまいそうだ。
「なぜ噂をする人たちはそのことを無視して、私を一方的に悪者にできるのかしら?」
(普通に考えてもウォルコート子爵家とラプリー伯爵家は、あきらかに私と婚約を破棄する前から、フレデリック様とアンヌ様の婚約契約書を用意していたのだとわかるのに)
家ぐるみで堂々と、不誠実な浮気をしていたと公言したも同然だった。
確かに私は愛し合う恋人たちの間に居座って、邪魔をしていたけれど。
アンヌ様とフレデリック様が恋人同士になる前から、私とフレデリック様は婚約していた。
(ウォルコート子爵家が事業に失敗して、没落の危機にあったとき。キンレット男爵家が援助して救ったことを知らないから。私を悪者にして噂をする人たちは、ウォルコート子爵家が恩を仇で返すような、不義理をしていると思わないのだわ)
「でもまぁ……頭に花が咲いている人たちなら、そんな真実を知っても噂話に都合よく捻じ曲げてしまいそうだけど」
(きっと、何が何でも私を悪者にしたがるわ)
何か月もこの状況に身を置いているから、無責任に噂をする人たちのことはわかっている。
「ああ、もう嫌だわ」
(これ以上、こんなことばかり考えるのはやめよう)
私の頭の中だけの反論だとしても。まるで負け犬の遠吠えのように思えて来た。
どれだけ私が真実と正論を主張しても、圧倒的多数の人たちが私を批判している今は。
批判する声があまりにも大き過ぎて、私の声は搔き消えて誰の耳にも届かない。
噂をする人たちを横目で見ながらハァ───……とため息をつき。
私はやれやれと首を横に振った。
「レオニー、大丈夫?」
フレデリック様とアンヌ様の婚約で私が心を痛めているだろうと、読書クラブの友人たちは心配そうな表情を浮かべている。
「ありがとう。大丈夫よ」
「本当に? 無理しないでね?」
イネスとセリーヌとナタリーが壁のように私の前に立つ。
自分たちが盾となり卑劣な噂話をする学園生の目から、私を護ろうとしてくれる。
「うん、わかった。甘えさせてもらうわ……本当は少しだけ嫌な気分だったの」
「そうよね。私も堂々と浮気をした卑劣な人たちを、運命の恋人だと応援する人たちの気が知れないわ」
セリーヌが嫌悪感をいっぱいに顔をしかめて言うと、ナタリーも同調する。
「自分の婚約者に同じことをされても。あの人たちは相手が運命の恋人にめぐり会えたと、応援することができるのかしら?」
「きっと無理よね。あの人たちはきっと、相手を見苦しく罵るでしょうね」
「私たちのレオニーのように強い人とは、大違いの行動に出るはずだわ」
「ふふふっ……私のために怒ってくれてありがとう」
(私は幸運だわ。あなたたちは私の宝物よ)
相変わらず私を侮辱する人たちがたくさんいるけれど。以前のように泣くほど傷つくことはなくなった。
一方的な婚約破棄の被害者となり、私は一皮剥けて以前よりも強くなったのだ。
侮辱の言葉に負けてばかりいないで。
“私もフレデリック様やアンヌ様のように、もっと図太く生きて行こう”
……と。
容姿が醜いと言われても、自分の殻に閉じこもって生きるのはやめることにした。




