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常識を身につけてください

 マコトからの補修もとい説明は分かりやすくてひとまずは把握できた。しかし、彼女が出来なかった僕にあんな可愛い子がパートナーになってくれるなんて今だに信じられないよ!


 異世界最高っ!


 ちょっと残念なのは異世界に来ても授業があることと僕が好きな声優Aliceちゃんにもう会えないことかな?


「あ、あの風桐君?」


「あれ? どうかしたの? 神楽坂さん」


 長かった補習を終えて部屋で待っていてくれているであろうドロシーの元へ帰ろうとした時、神楽坂さんが僕を呼び止めた。


「あ、あの〜ドロシーさんってどんな人なんですか?」


「え? とっても可愛いよ?」


「ぐふっ!」


「え!? どうかしたの!? なんか今、血を吐いたような気はするけど!?」


「大丈夫です、これはあれです。トマトジュースです」


「そっか! 神楽坂さんはトマトジュースが大好きなんだね!」


 僕とは違って健康志向なのはいい事だよ。僕なんて両親から送られてくるお金は全部必要なことに使っちゃって手元にないからね。


「声優追っかけるのは必要行為じゃないだろ」


「なんでさ! 人は趣味なしでは生きていけないんだよ! 理想の偶像を追いかけて何が悪いんだ!」


「それで食べ物が調味料のさしすせそだけになってる奴には言われたくないわ!」


「ち、調味料が主食なんですか?」


「………あー、俺の事は分かるかな? 神楽坂さん?」


「………一応、見かけたことはあります」


 あれ? なんで2人とも見つめあってるの? は! もしかして神楽坂さんをマコトのハーレムに加える気!? なんてうらやまけしから………いいな!


 神楽坂さんも中々にスタイルはいいからね! いや待て、ということはマコトはまさか神楽坂さんの体目当て!?


 魔王になったから世継ぎを産ませる気だな!? だけど子供を育てるのは大変なんだ! それにまず、名前をおかしなものにしたら子供が迷惑する!


「子供にDQNネームなんてつけちゃダメだからね! マコト!」


「どっからどこにワープした!?」


「き、きっと魔王の鴉間さんが私と話したことで側室狙いとか思われたのではないでしょうか?」


「なんだ、あいつのことよく分かってるじゃないか」


「ふえっ!? い、いえ、風桐君はお馬鹿なので思考が読み取りやすいというか………ごにょごにょ」


「あれ? 神楽坂さん、顔が真っ赤だよ? 風でもひいた? 熱はない?」


 僕が自分の額に手を当てて、彼女の額に手を当てる。触った感じだと熱はなさそうだけど………


「あ、あ、ご、ごめんなさぁぁぁい!」


「うわっ!」


 しかし、茹でタコ並みに真っ赤になってしまった彼女は僕の手を払って一目散に走って行ってしまった。残されたのは呆れた目を向けるマコトだけ。


「この鈍感野郎が………」


「え? なんか言った?」


「難聴属性まで発動したのか!? これじゃあ彼女の思いが届くのは遥か先になりそうだな………」


「? よくわからないけど、用とか特にないなら僕、帰るけどいい?」


「あ、そうだった。ドロシーさんに合わせてくれるか? 話だけは聞いてるがまだ会ったことがないからな」


 僕は頷き、彼を自分の部屋に連れていくのだった。




 *




「申し訳ありません! 申し訳はありません!」


「いいさ、これくらい………待て、申し訳は!? 謝罪じゃないだろ!」


「えぇ〜だってぇ、魔王さんはいつもジゼルさんから紅茶を被ってるじゃないですか? もしかしたらそういう残念な性癖持ちの人かなって?」


「なんで俺は初対面から喧嘩を売られているんだ?」


 扉を開けて中に入った瞬間、熱々の紅茶が降り注ぎ、それを顔面から浴びて地面を転がったレオの上を越して回避したのだがそこへポットごと飛来したので結局、避けられなかったのだ。


「で? 君がドロシーさんでいいのか?」


「えぇ、いつも可憐で可愛いドロシーちゃんでーす。お初にお目にかかりますね、魔王様?」


 なるほど確かに美少女ではある。蜂蜜を固めたような甘ったるい声の中に若干の悪意が見え隠れしているが。


「それで〜? 女を食い物にしてる魔王様が何のようですか〜? ドロシーちゃんも暇じゃないんですよ?」


「いや単に様子見というか、どんな子かなぁって」


「見ただけでわかったでしょう? こーんなに可愛いドロシーちゃんでーす。魔王様の足りない頭にしっかり叩き込んでくださいね〜」


 キャピッとばかりのウィンクピースをかますドロシーさんの読み込んだ資料を思い返しながら周りを見渡す。


「どうかしましたか? そんなに見回してもえっちな下着とかないですよ? 変態魔王さん?」


「いちいち人を煽らなきゃ話が出来ないのか、お前は? レオ、ちょっと2人で話したいから少し出てくれ」


「え!? ダメだよ! 肉食獣の前にこんな草食獣を置いたら危ないよ!」


「本当ですよ〜ドロシーちゃん、魔王様に犯されちゃいます!」


「わかった、五分だ。扉の前にいていいからそれで済ませる」


「何を!? 五分でも済ませることはいくらでもあるよ!? さっき人のパートナーを奪うのはダメだって言ったばかりじゃないか!」


 えーい! しつこい! 不安なのはわかるが単に話をするだけだ! 日頃の行いでも悪いのか、俺は!


「もう我儘ですね、仕方ありません。下らない話でドロシーちゃんの大事な時間を消費することに感謝してくださいね? 具体的には毎日、金貨1枚とか」


「ドロシーさんも何かあったらすぐに大声出すんだよ。すぐに助けに来るから」


「え、えぇ! 期待してます!」


 俺に向ける顔とは違って驚くべき真っさらな笑顔でレオを見送ると再びぶすっとした顔になる。


「露骨すぎないか? 『S級』冒険者 『境界消失(ノーボーダー)』のドロシー・フォーアラード。世界で6人しかいないS級冒険者の1人」


「………クレアからでも聞きました?」


 名前から分かると思うが冒険者ギルドに名前が書かれているトップクラスの奴らのことだ。尚、クレアさんもその1人である。


「『人の到達点』のジンもそうだった。クレアさんもそうだった。残り3人は知らないがそのうちの1人のお前に聞きたい」


「………何をでしょう?」


 一拍の間に気づけば彼女の手には杖が握られていた。先端には色鮮やかな宝玉がつけられている。


「召喚士で間違いないな?」


「ええ、そうですが? とびっきり可愛くて優秀なドロシーちゃんですから」


「なら何故あいつらを返さない」


 手にした銃口を向ければ彼女はすでに俺の後ろに回り込んでいた。神出鬼没、境界消失したかのように自分の体までも召喚できるのか。


「それだけの実力者が何で1人だけじゃなく、他多数まで呼び出した? 応えろ、これは俺の過去に関わってる」


「何を考えてるか、ドロシーちゃんには分かりませんが………少なくとも私は被害者ですよ? 私は確かに異世界から呼び出そうとしました。けど、その時私の陣が乗っ取られたんですよ! 割り込んだ魔力から異世界から来た相手だったと分かりましたが………」


「その男の名前は?」


 銃を下ろして促せば嫌な顔をされる。しかし、彼女も早く済ませたいのだろう、すぐに口を開いてくれた。




「確か名前はーーシン カラスマ?」




 *




 2人とも遅い。よし! 突入! と扉に手をかけた瞬間、鼻先にドアがぶち当たり、扉が開かれる。


「悪い、レオって………どうしたそんなアホなかっこして?」


 当たった拍子に転がった僕は尻だけあげた奇妙な格好で股下からマコトを見上げていた。


「謝罪を要求する」


「わたし、日本語わかりませーん」


「生粋の日本人だよね!?」


「残念、異世界人のハーフだ!」


 いつものやり取りを終えた後、マコトはさっさとその場を後にしようとする。その姿はどこか爽やかなマコトには似合わない雰囲気を醸し出していた。



 *



「あー終わった、終わった。おつかれでーす」


 学園の食堂でぐてーっとしているとエルデが真っ正面に座り、同じく突っぷす。そして俺たちを中心に皆が集まる。


「テメェの親父から伝言だ。転移者たちの面倒は俺たち転生者が責任見ろってよ」


「厄介ごと押し付けてくれたぜ、全く」


 転生者たちの移送にはまだまだ時間がかかる。ひとまず、ルナールさんが今回の件のアホどもを大監獄に連れていったがどうなることやら。


「まーくんはあの子達と知り合いなのかしらぁ?」


「昔、一時期通ってた高校のクラスメイト達ですよ。すぐに辞めたから親交があるのはレオだけだけど」


「そういえばさっきレオ先輩、ドロシー先輩の胸に突っ込んでたぞ」


「何、ラッキースケベやってんだあの野郎」


「あのお方は大丈夫なんですの?」


「単なるバカで直情型だけど友達思いのいい奴だよ」


 雑談をしていればざわざわと食堂が騒ぎ出した。てっきり俺たちがまとまっているからかと思ったがどうやら違うようだ。


「何だ、何かやらかしたか?」


「行くぞ、エルデ」


「マコト、私も行く」


「私もですわ」


 リリムさんを連れて立てば目の前にいたのはどこかで見た顔だ。多分、元クラスメイトか何かだろう。


「鴉間真だね? かつて俺たちと同じクラスだった高校生でいいんだね?」


「そうだけど、名前教えてくれないか?」


「君は人の名前も知らないのか? 全く、それで魔王とかたかが知れてる」


「だから次期な? 悪いけど身内の不幸で高校ほとんど行けてないんだ。失礼を承知で名前を聞きたいんだが」


「見てくれ、君たち。君たちのパートナーは人の顔も覚えない最低な奴だ。それに君たちは気付くべきだ。君たちは騙されていると! 俺は君たちを救いに来た。魔王に囚われた哀れな君たちを!」


「なんかイグニスみてぇな奴だな、おい」


 男の余りに突飛な物言いに、皆が唖然とする。しかし、ヒートアップしている彼はもう止まらない。そのまま何を思ったのか俺の傍らのリリムさん達に転じられる。


「君たちは自由になるべきだ! 安心してくれ、魔王は今ここで俺が! 白銀 焔が倒す! 信じてくれ!」


 爽やかな笑顔で差し伸べられた手に困惑するパートナー達。優しいクレアさんとロゼさんですら困り顔だ。


 というか君がサボりの白銀か。サラサラの長髪に高身長に引き締まった肉体。地球ではさぞモテていそうな青年だ。


 そんな中、ふと誰かの視線を感じてそちらを見てみれば顔面真っ青でふるふると震えている女生徒と目が合った。あちらも俺に気づくと涙目で必死に頭を下げる。


 それらからあの子がこいつのパートナーなんだろうなと推測はつく。というかすごく可哀想。


「くっ、洗脳しているのか! やはり魔王というだけあって悪たる魔族の親玉なだけあるな!」


「………は?」


 リリムさんの目から光が消える。魔族全てを馬鹿にされたリリムさんだ、このままだと殺しかねない。


「はあ………なら決闘で決着をつけるか? 一応、神聖な形式だ。条件もつければお前も気が気済むだろ?」


「いいだろう! 俺と決闘しろ!武器を捨てて素手で勝負だ!俺が勝ったら、二度とこの子達には近寄らないでもらう! もちろん全員解放してもらうぞ!」


 無謀にも俺を睨みながら彼は、もう止まらないと言わんばかりにビシッと指を差し宣言した。そこで素手だけと指定しているのが妙に小物くさい。


「くれぐれも怖気付いて逃げるなよ!」


 彼は言いたいことだけ言うと食堂の外へ出て行き、代わりに彼女のパートナーであろう平民の女の子がいる周りから押し出される。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 彼女は俺たちを見るとすぐに頭を下げた。俺たちも彼女を攻めることなく、ドン引きした感情を抱えて外へ歩き出す。


「ほんと、変わらないな。この学園は」


 俺のぼやきに皆が頷くのだった。



 *



「よく逃げずに来たな!」


 彼は食堂前のひらけた場所に立っていた。彼からすれば俺は逃げられないように囲まれているように見えるのだろうが………


「なんなんだよ、あいつら」


「偉そうな面しやがって」


「そもそも世界を救った男に挑むとか馬鹿かよ」


 残念、君の周りは敵だらけだ!

 いやもうほんとにやめよう? 君のパートナー、もう半分意識失ってるよ?


「ルールはさっきのでいいな? 心武器なしの決闘だ」


「構わないよ、俺はこう見えて空手初段だ。君みたいな喧嘩の素人に負けることなどない!」


「ねえジゼルちゃん。空手って?」


「クレア先輩の龍闘流法みたいなものだ。もっとも初段程度じゃ話にならない。剛田先輩並の武術の達人じゃないと今の先輩は倒せないぞ?」


「君たち、おかしな事を言うじゃないか。僕の目は誤魔化せないよ。石田を倒した時の心武器がなければ彼の動きは素人だ」


 群衆を見回せば全員が可哀想な奴を見る目で彼を眺めている。一応、学園ではクレアさんと組み手やフェルムと殴り合う俺の姿を見ているからだろう。


 あまりにも実力差が離れていると他者の実力を把握できないのはよく分かるよ、うん。


「じゃあ始めるぞ、『魔弾のーー」


「ちょっと待て!」


 何だよ、名乗りを止めるんじゃないよ。俺がそんな感情を込めて睨むと彼は後ろのリリムさん達を指差した。


「誰を選ぶんだ?」


「え?」


「まさか君は4人で1人を殴るつもりだったのかい? はは、やはり君は人の風上には置けないな。そうでもしないと勝てないのかい?」


 俺は黙って、審判役のエルデを見た。エルデはそのまま群衆に目を向けた。群衆は全員が今にも射殺すほどの目で奴を見ている。


「………もう、お前が選べよ」


 誰を選んでも間違いなく負けることはないだろう。この中で一番弱い霞ですらも普通よりかは強いのだから。


「ならそこの君にしよう。俺に助けを求めた目をしていた君を」


「あら、お姉さんを選ぶのね?」


 選ばれたのはクレアさんでした。あ、パートナーの女の子が遺書を書き出し始めた。クレアさんもそれを見てちょっと複雑そうである。


「よしもうフラグは回収しきったと思うんで始め」


「魔弾のーー」


「うおおおぉ!」


 おざなりなエルデの開始合図に決闘の礼儀を出し、名乗りをあげようとすれば猛然と駆け出す奴。俺は、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。


「ふっ、怖気付いたか!」


 拳が前に突き出される。それは俺の顔を直撃し


「ぐほあっ!?」


 カウンターで奴の鼻っ柱をへし折りながら殴り飛ばす。魔族の頑強な体にその程度の腰抜けパンチが効くかよ。


「私は降参します、命だけは助けて」


「いやお姉さんも無闇に殺したりしないから。大人しくしてくれたなら痛いことはしないわよ」


 子鹿のように震える可哀想なパートナーを宥めつつ、隣に立つクレアさんを放っておいて、俺は吹き飛んだ奴が帰ってくるのを待つ。


「よしじゃあ本格的にやろうか? 準備体操はもう終わっただろ?」


 返事はない。というか帰って来ない。

 黙ってエルデをみればやむを得ないとばかりに首を振った。


「勝者ーマコトー」


「いぇーい」


 エルデの稀に見る棒読みに俺も棒読みで答えるが周りからはあまり納得がいかないようだ。


 主に彼らへの処遇について。


「まーくん、ちょっとこの調子だと不味いわよぉ」


「ですよねー神聖な形式の決闘から逃亡、それだけじゃなくても事件のせいで溜め込まれた不満が大きいはずですもん」


 校長が言ったことだから渋々従っているだけでいつかは生徒たちの胸中に溜め込まれた不満が炸裂する

 それはいつ爆発するか知れないというリスクを常に孕んだ状態ということであり、


「闇討ちでぶっ殺されるのも時間の問題だな」


「エルデもそう思うか? 暗殺者筆頭?」


「バーカ、俺がやるなら完全犯罪成り立たせるわ」


 しかし、どうするべきか。このままだと互いが互いに対立して平和的な解決にはならねえからな。


「あるだろ、平和的に争う方法が」


「そうですわね、もうそんな時期ですもの」


「え、何あるの? なんかそんな都合の良いもの」


 エルデとガルディさん2人が訝しむ俺に指を突きつけて述べた。


「星覇祭だ!」

次回は月曜18時過ぎから。

書溜めが尽きるまでこのペースを維持します

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