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君に捧げる愛唄

「あーやってらんねえ。つか、戦争を回避したかったら俺をリリムの元に打ち込めばそれで終いだっつーの! 元殺し屋舐めんなよ」


「何を物騒な………本来、旦那様はリリム様を守るためにグラマソーサリーとヘクセレイに赴き、戦争不参加とウィチェリーの支援を頼んだのでしょう?」


「いやまあ、そうなんだけどさあ。まさか俺まで出るとは思わないじゃん? あのクソ親父め、何考えてんだか」


 マコトが悪魔の力を使用している一方でエルデは連合軍の練兵場で1人ぼやいていた。


 かつては各国の戦争を回避するために水面下で幾人も殺してきたが今世では大人しくしていようとした結果が大量に死人が生まれる戦争の幕開けである。


 それでも被害を抑えようとマコトに恩がある国を説得し、戦争への不参加を表明させた。


 しかし、最も戦力となるグラマソーサリー、後方支援のヘクセレイを欠いていながらも馬鹿国の2つは戦争をやめないらしい。


 上層部達は不意打ち、奇襲を仕掛ける気満々だが既にエルデがリリムに情報を渡している以上、その作戦は必ず失敗するだろう。


 そもそもウィチェリーは攻めるのには向いてない。陸路はなく、海路を通じてでしか攻められない上に魔族達は海での戦いに慣れているからだ。


 さらに所詮は人と獣、我が強い獣がまともに人の言うことを聞くはずもないだろう。連合軍ははなからガタガタでいつ空中分解してもおかしくない。


 それに比べて、リリムを絶対視する帝国は人、獣達への恨みもあり、士気は高いだろう。


「後は、なんか志願してきたあいつらだけど………まあ正体は転生者の一味だよなぁ」


 エルデが眺めるのは刀を扱い、男達を倒して行く仮面をつけた凛々しい女性。だがエルデはその女性の剣筋から、正体はメロだと当たりをつけている。


 そして修道女のような格好をしながら、手足に巻いた鉄の武具で大の男をワンパンする少女、確か名前はモルテ。


 更に魔法の指導を行う藍色の髪をボブカットにした妙齢の女性、名前はマリン。

 しなやかな子鹿のような体つきを伸ばしながら弟子へと笑いかける。


 そしてこれまたあからさまな暗器使いの女、体には無数の傷が残っており、傭兵まがいの戦士かと思えば立ち振る舞いから高貴な人物だと知れる。


 褐色の肌に動物の耳が見えているから恐らく、獣人。そして条件に当てはまりそうな人物に心当たりがあった。


 この4人は仲が良いのか、大体一緒にいる。こいつらが戦争で何をするかわからない以上、マコトに伝えておいた方が良さそうだとエルデは判断する。


 ここで殺しておいた方がいいかもしれないが無駄な疑いはできるだけ、避けておきたい。


 なぜなら守りたいものがあるから。

 この手にだってきっと守れるものがあるから。


「ジュエは? まだ寝てるのか?」


「ええ、ガルムが側にいますわ。お次は何処にいかれますか?」


「"人の到達点"に会いに行くぞ」




 *



 

「フウーッハッハッハッハ! よくぞ来たな! 我が同胞よ! 貴様を歓迎しよう!マコト・カラスマよ!」


 皆んな、見てみて。なんかすごい頭おかしそうな男性が高笑いしながら机の上で奇天烈なポーズを取っているよ。


 まさかこれが魔族の英雄 『ルシア』だと誰が思うのだろう。


 魔族の英雄、ルシア。彼は魔族の中で唯一、魔王に反抗した男である。ついた渾名は反逆者。何処かの世界では転生者をそう呼んでいそうだ。


 ともかく、ルシアは魔王を倒した後、国を追われた。それはそうだろう、だがルシアは魔王に言われたのだ。


『国を守れ』


 魔王は恨み言1つ述べずにそう言った。ルシアはそれを聞いて自らの過ちに気づき、皆から恨まれようとも国を守ると決め、国を出て極寒の世界で生活していた。


 そして長い年月をかけて国を守り、次第に人望も回復した事でようやく最近になって国へと戻る事が可能になったのだ。


「遂に闇の大罪達が揃った! 即ち終末の始まりだ! この戦争の勝利者こそが時代の夜明けとなりうるだろう!」


「マコト、座って。もうじきメーアも新たな虚飾を連れて来るから」


 案内された部屋は円卓、その上座にあたる部分に座るのはリリムさん。そして、その周りには動物が象られた椅子。


 恐らくは大罪達の象徴である動物達だと当たりをつけて、憤怒の象徴である狼の席へと座る。


 因みにロゼさん達は俺たちが造った空間へ戻った。どうやらクレアさんが到着したらしいが、本人は無駄な争いを控えるために戦争時まで顔を出すつもりはないらしい。


 他の大罪達も席に座り、扉を開けて入ってきたベルゼにも軽く手を上げて挨拶をする。ベルゼは驚いたようだがすぐに手に持っていたピザに食らいつく。


 今、空いているのは憂鬱と虚飾、憂鬱はメーアさんだと知っているが虚飾とは誰だろう? リリムさんも知らないようだし。


「みんな〜お待たせ〜! メーア、ただ今推参しました〜! およよよ………やっぱり、マコトが憤怒だったんじゃない。お母さん、何の相談もされなくて泣いちゃうわ!」


「相変わらずお元気そうでなによりですね………」


 疲れたような俺の言葉に皆が同意するように頷く。まだ出会って間もないがこの瞬間だけは皆の心が一致した気がする。


「メーア、新たな虚飾は? 姿が見えないけど?」


「いやいや、冗談きついですよ〜後ろみて下さい」


 リリムさんが後ろを振り返れば、そこには瑠璃色の髪をおさげにした軍服に身を包んだ物腰が柔らかそうな女性が立っていた。


「お久しぶりです! リリム皇女殿下! 再び貴方に支える事ができて光栄です!」


「私もよ。サマエル」


 敬礼をする模範的な優等生だろう彼女にリリムは答えると、互いに笑顔になって、


「久しぶりね、私の親友。皆に自己紹介して」


「は、はい! 皆さま、初めまして! 私はサマエル! 怠惰 ベルと嫉妬 レヴィの娘でありリリム皇女殿下の親友という名誉な位置を得ている者です!何でか知らないですが虚飾に選ばれました! 不束者ですがよろしくお願いします! 」


「にしし、あのステロペよりかは役に立ちそうじゃーー」


「マモン、死人をとぼすのはやめなさい」


 リリムの威圧を込めた言葉にマモンは肩をすくめて大人しく、席に座った。


「さて、いつ戦争が起きてもおかしくないところまで来たわ。先に皆に謝っておくわ。私のせいで皆を危険に巻き込んでしまってごめんなさい」


「別に構いませんよ、リリム様。私達は貴方が私達のために我慢なされる方が辛いのですから」


「別に構わないでしゅよ。元来、私たちはいつ戦争を起こしてもいいように準備を重ねて来ましたから!」


「ほらほら〜リリム様は気にしなくていいんだって! よし、じゃあ切り替えていきましょう! パンパカパーン! 旦那から届いた兵力差〜」


 なにかの魔法がかけられているのか空を自由に舞う紙が俺たちの前へと降りてくる。それを受け取った俺はざっと目を通す。


 兵力差はこちら側が1万、相手側が3万の軍勢。しかし、注意点として本来の兵は約半分、残りはエルデが作り出した人形との事。


 となればエルデを抑えて能力を解除するのが先決、そうすれば相手との差は五千、自分達に有利である海上戦、雪上戦ならば十分に勝利が可能と書かれている。


 その下には抑えるべき、主力達の名前が記されている。


 まずはコンジュレイの英雄、『クティノス』。『武装の英雄』と呼ばれ、鍛治師の知識を用いた『錬成』と『錬金』の力で武器を作り出し、操る男。


 続いて獣人の王子、『ゾーン』。こいつは単純な脳筋と書かれており、『増強』と『頑強』の心武器を振るう。


 そして獣王『レグルス』ありとあらゆるものを『成長』させ、『退化』させる能力者であり、主に植物を操る。


 次に人族サイド、まずはエルデ、転生者であり、殺し屋の経験もあるかなりの実力者。しかし、本人は戦争にやる気がないため、自分とパートナーの身の安全を保障するなら捕虜になってもいいと記されている。


 そして学園の子供達から志願したもの達、親父は止めたようだが王からの命令と自分が出ない以上の兵力として止められなかったようだ。


 そこにはもちろん、英雄の子供達も含まれている。


 親父が出られないのは魔族の妻との関係で裏切られるよりかは手元に置いていた方がいいとの判断のようだ。


 現にメーアさんとの契約は切られたらしい。


 そして『人の到達点』と呼ばれた人族最凶の男、『ジン』。稀にいる天性の才能だけで人の到達できる地位を得た男。


 パートナーは不明、能力及び心武器も不明。


 そして戦争開始は3日後の予定。


「目は通した? なら誰が誰を担当する? 」


「私達はレグルスとゾーンを抑えよう」


「はい、貴方。サマエルはリリム様のお側にいて守ってあげて」


「はい! 分かりました!」


 ベルとレビィはコンジュレイの王族を押さえ、サマエルはリリムさんに預けられるようだ。


「フゥーハッハッハッ! ならば我がかつての同僚を抑えようではないか! 」


 ルシアさんは英雄を抑えるようだ。


「にしし、なら俺たちは英雄の子供達を押さえてみるよ」


「頑張ってみましゅがあまり期待はしないでぐだしゃい!」


「ダイアナがまだ来ていないがまあ何とかなるじゃろ」


 パートナー不在の暴食ベルゼはドーナツ片手にそう述べる。


「なら、マコトはエルデを抑えて。可能なら誘拐して来て。彼が手元にいれば戦争を被害なく終わらせて、私達の地位向上もできる」


「了解です」


「なら私はジンだね〜、いや〜旦那がいなくてどこまで出来るかな〜」


「現場の指揮はバアル達『サモン72部隊』に任せるから貴方達は好きに行動しなさい。ただし、全員生きて帰ってくること」


 リリムさんの最後の言葉に各々が頷く。それを確認したリリムさんは召使が持ってきたワインを受け取り、グラスに注ぐ。


 そして席を立ったリリムさんは俺たちの前に用意されたグラスへワインを注いでいく。


「ベル、期待してる」


「お任せを」


「レビィ、無茶はしないで」


「はい、リリム様」


「サマエル、貴方は私の側にいて?」


「はい! 分かりました!」


「ベルゼ、力を貸して」


「もちろんじゃよ」


「マモン、頑張って」


「にしし、後でご褒美くれるならね」


「アスモウス、いつもありがとう」


「えへへ、照れ臭いでしゅよ」


「メーア、ごめんなさい」


「大丈夫ですよ、覚悟はできてます」


「ルシア、無闇に命を散らすことは許さない」


「ああ、この罪は俺のものだ」


「マコトーー私と一緒にいてくれる?」


「当たり前じゃないですか」


 俺にリリムさんは微笑んでグラスに血のようなワインが注がれる。そしてリリムさんは自分のグラスを手に取ると皆の前で掲げた。


「ーー3日後、勝つわよ! 皆んな!」


「おお――!!」


 と、景気のいい返事が返ってくる。

 そうやって力強い言葉が出せるなら、きっと大丈夫だ。


 人と獣人に立ち向かうは地獄の悪魔の名を冠する最強の大罪達。これだけの戦力があればきっと負けることはーーない!




 *




 会議の後は九大罪で夕食をとり、地形を把握したりなどをしていればすっかり夜になってしまっていた。


 窓から覗く夜空は澄んだ空気のおかげで星の光がここまで届く。


「あ、マコト」


「リリムさん? お仕事は終わったんですか?」


「ええ、基本的にはベルが用意してくれた資料を頭に叩き込むだけ。マコトは何してたの?」


「ちょっと地形把握と天候確認を踏まえた当日の狙撃点を決めていました」


「丸っ切り狙撃手じゃない」


 リリムさんはそこまで言ってから、何故か落ち着かないように髪を指先にくるくる巻きながら、あたりを見回す。


「………? 何か不安なら部屋まで送りましょうか?」


「え、ええ! そうね、お願いするわ」


 何故か安心したように息を吐いたリリムさんの隣に立ち、小さな体のリリムさんの歩幅に合わせて歩く。


 その間、ぽつぽつと語られる雑談を相槌を打ちつつ最上階にあるリリムさんの部屋の前に着く。


「じゃあリリムさん、また明日」


「ま、待ちなさい」


 無事に送り届け、俺も用意された部屋に帰ろうとすればリリムさんが俺の袖を小さく引っ張る。


「マコト………この後は暇、かしら?」


「この後は帰って、空間の中に行ってロゼさん達と顔を合わせるだけですが?」


「そう、ね………なら、貴方の時間、私に頂戴」




 拝啓…俺ことマコトは、今、リリムさんの部屋におります


 リリムさん曰く、有名すぎて聞いた事もない家具職人のソファーに座り、頭を抱えて。


「どうしてこうなった…」


 リリムさんが告げた言葉に俺は激しくうろたえ、最初は固辞しようとした、が…


『この表面紳士! まだ早いとか関係ない! 女が腹くくって誘ってるのに………恥かかさないで』


 と、強制連行されてしまったのだ。当のリリムさんは今シャワーを浴びている…年上の幼女………いや、魔女? にして…初めて上がる部屋…


「お、大人の階段の~ぼ~る」


 何故か、頭に残るリズムの歌を口ずさんでしまうのであった。既に大人の階段、登っているというのに。


「いや、だいぶ頭イかれてるな、俺。大丈夫、落ち着け〜きっと編入生関連の話だ。煩悩良くない、欲望消え失せろ」


『戦争前に子をなしておくのは強ち間違いではないぞ、マコトよ』


「アンタは黙ってくれるかなぁ!? 今、ちょっといっぱいいっぱいなんだよ! 後、仮にそういう雰囲気になったとしてもアンタに見られてるとなるとそんなこと出来るか!」


『何、オレは気にせんぞ』


「こっちが気にするんだよ!」


 意識の外から飛来した後見人視点の魔王と言い合っていると奥の扉が開き、バスローブを纏った悪魔の姿のリリムさんがいた。


 頭の中の魔王はじゃ、と言ってまた意識に溶けた。


「お待たせ、父と話してた?」


「あ、まあ」


「どうせ、父の事だからこれから起こることに一切干渉しないって話でしょ?」


 間違ってはいない。ただ当たってもいない。


「あの〜リリムさん? 俺を部屋に呼んだ理由は?」


「………それ、聞く?」


「いや、ほら、戦争間近なのにそういうのってほら」


「関係ない、私は貴方と2人で話したかったから貴方を呼んだ」


 リリムさんの悪魔化した姿は目に毒だ。

 雪のような純白の肌が星の光によって輝き、僅かな明かりだけが照らす部屋の中で妖しく見せる。


 きっと本人も狙ってやっているだろう。

 現に誑かす悪魔めいた顔で俺の隣に座り、俺の肩に頭をのせる。


「戦争前に貴方に言っておきたいことがある」


「はい………何ですか?」


 次に彼女の口から出る言葉は予測できる。俺はそれを受けるしかないのだ。魔王に託された以上、そして我儘な俺の気持ちに従って。


「貴方………世界を壊したいと思ったことはある?」


「俺もリリムさんが………何ですって?」


「いやだから、世界を壊したいと思ったことはある?」


 途端に上っていた血が下がっていく。どこかで魔王がええ………とか言ってる気もする。とりあえず気を取り直し、何故リリムさんはそんな事を言うのか。


「何度も言うけど私はこの世界が嫌いよ。父が守ろうとした世界に父は殺された。いくら父が諭そうと貴方が諭そうと私の中からそれは消えない」


 リリムさんの声から、気力が無い事を感じる。


「ねえ、マコト? 世界崩壊を願う女が世界を救済できると思う?」


 リリムさんの顔には自身への呆れが生じている。


「ねえマコトどうやったら、この世界を愛せるかな?」


 彼女への言葉はきっとこの先にある大事な決断に影響を及ぼすだろう。俺はそれを左右するような言葉をかけることはできない。


 だが彼女の支えになる言葉ならかけてあげられる。


「俺は世界を愛するとか壮大なことは考えられません。俺が考えるのはいつだって身近な人達、家族に友人、そして恋人。その人たちとこれから先も笑っていたいから俺は戦います」


 綺麗事かもしれないがその綺麗事に俺の日々は守られてきた。平穏と危機の日々の繰り返しを超えてその先に皆と一緒に進みたいのだ。


 リリムさんはその言葉を何度も反芻するように頷き、少し瞑目するとちょっとだけ、目元がほころんだ。


「綺麗事ね………だけどいつだって理想は綺麗事だものね。なら、私もそうする。私が敬愛した父のため、私を信頼する国のため、私の友達のため、そしてーー」


 そこまで言って、リリムさんは俺の頬に手を添えて、リリムさんの方へ顔を向けさせた。

 冷たいはずの彼女への手はとても温かかった。


「ーー大好きな貴方のために私も世界を守りましょう。例え、世界が私を拒んでも貴方へ私は愛の唄を歌うわ」


「なら俺は大好きな貴女のために貴女の盾になりましょう。例え、世界が全て敵に回ろうとも俺は貴女を守ります」


 世界の悪を受けてきた傷だらけのその身にそれでも好きと言えたなら、俺の全部に意味があるとそう願いたい。


「マコト、今日は寝かさないで? 貴方の温もりを感じていたい」


「………分かりました。俺の熱、全部伝えますよ」


 窓から溢れる明かりは閉じられたカーテンによって締められ、映る影には孤独を愛で埋めた悪魔がいるだけだった。

実はこの作品のメインヒロインはリリムだったりします。


ロゼ? 俺は1度も彼女をメインヒロインだと言った覚えはありません



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