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魔弾の王は憤怒する

 連れてこられたのは酒池肉林のご馳走やお酒、見た目麗しい女性達が踊るパーティ会場ーーなどではなくおそらくは訓練場だろう。


 大理石でできた畳の上、周りには戦意に覇気をたぎらせた魔族の皆様、そして前に立つのは4人の男女。


 2人は先程のマモンとアスモウス、そしてもう2人はあからさまに周りとは格が違う実力者、確実に九大罪であろう。


「死んで死んで死んで死んでーー大好きだから死んでください、私の嫉妬に抱かれたまま」


「死なぬ死なぬ死なぬ死なぬーー其方への愛を返すためにも私は生きなくてはならぬ。怠惰であろうとそれだけは怠けてはいけないのだ」


 だが女性は手に持ったナイフを何度も突き刺し、男はそれに耐えながら女性と腕を組んでいる。側から見れば異常な関係なのに当事者達は晴れ晴れとした表情だ。


 女性は淡蒼色の髪に優美な目鼻立ち、たおやかな仕草、外見からはお淑やかな女性にしか見えない。


 男性は同じ淡蒼の髪に細身だが筋肉質、冷ややかな表情から冷たそうな人だと感じる。


 2人の正体を魔眼で見れば

 名前 ベル

 武器 ブーメラン→チャクラム

 所属 九大罪

 ステータス 魔法 B 甲斐性 S 体力 A 頭脳 C 特殊 A

 パートナー レビィ

 種族 魔族

 追記 怠惰

 親愛度 レビィ 80


 名前 レビィ

 能力 増殖→減少

 所属 九大罪

 ステータス 魔法 B 家事 S 体力 C 頭脳 C 特殊 A

 パートナー ベル

 種族 魔族

 追記 嫉妬


 やっぱり九大罪だったよ……なんとなくリリムさんの狙いが読めてきた。


「さて自己紹介はいらないな? 既に魔眼で私達の情報は分かっているだろう? ならば速やかに決闘を行う」


「あら、貴方なかなかの勇姿ですね」


「いえいえ、そんなことはありませんよ」


「はい、ベルには勝てないので所詮は虫よりマシくらいです」


「なんか惚気のダシにされた! てか、やっぱりか! 実力試しの決闘か! これ!」


 間違いなく、リリムさんの企みだろう。魔王に師事を受けた俺がどこまでやれるのかを確認するための試験だと思う。


 しかし、よりによって九大罪なんだ。死んじゃうぞ、俺。


「………拒否権は?」


「にしし、あるわけないじゃん」


「………死なないようには加減しましゅね!」


 逃げ場なし、戦うしか生き残る道はなさそうだ。


 心武器を取り出し、自分を奮い立たせるために名乗りをあげる。


「双銃の希望 マコト・カラスマ」


「九大罪 怠惰担当 ベル」


「九大罪 嫉妬担当 レビィ」


「九大罪 強欲担当 マモン」


「九大罪 色欲担当 アスモウス」


 ベルの手によって空高く、銀貨が舞う。

 銀貨は雪の中に溶けーー僅かに聞こえた金属音を合図に互いに踏み込み合う!


「にしし、針千本の人形にしてやるよ」


 開始早々、銀の軌跡を残したナイフを銃弾で真っ向から迎え撃つ。その間にも俺の首を狙ってチャクラムが迫る。


 すぐさま移動でそこから逃れ、棒立ちのベルを狙うが何故か俺の視線はアスモウスへ向き、銃口もそれに従ってずれてしまう。


「色欲、人は性的な欲からは逃げられましぇんよ? 貴方は絶対、私を見てしまいましゅから!」


「ならアンタから倒させてもらうよ!」


 アスモウスの美しく成長した体を見て、悪魔化したと理解し、瞬時に判断、銃口をアスモウスへ向ける。


 弾丸を空間を通じて移動させ、アスモウスの四方を囲うように展開するも先程の仕返しとばかりにナイフの切っ先が弾丸を削り飛ばす。


「にしし、甘いよ」


 声が聞こえた先にはナイフを持ったマモンが距離を詰めていた。横殴りに振られた腕を銃で受け止め、そのままがら空きの胴体に改造の前蹴りを撃ち込む。


「更に駄目押しだ!」


 掴んだ腕を引き寄せてゼロ距離から腹部に捕縛用の改造弾を撃ち込む。だがマモンの動きは止まらず、掌で回転したナイフが俺の肩に突き刺さる。


 そこから腐食していく俺の肩を銃弾で削り飛ばし、無数の弾丸を浴びせるも弾丸全ては霧散し、舌を出して嘲笑うマモンの手に収まっていた。


 肩の傷を改造で塞ぎ、髪が伸び、牙が見えるマモンを見ればどうやら悪魔化しているようだ。こいつら、容赦ねえな。


 悪魔化した2人から距離を取ろうとした矢先、背後からの殺気に頭を下げれば音を超えるほどの足刀が頭髪を消し飛ばす。


 そんな俺の懐に、意識の隙間を突くようにしていつの間にか踏み込んできたレヴィは震脚によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、絶大な威力の拳撃を放った。


 俺は、咄嗟に、銃と左腕を盾にした。体と着弾寸前の拳との間に銃を割り込ませる。その試みはギリギリのところで間に合い、レヴィの鋼鉄の拳をせき止めた。


 だが威力までは抑えきれず、肉体同士ではない音を立てて俺は吹き飛ぶ。


 空中で体勢を立て直し、銃口をレヴィに向けるもその瞬間、おびただしい数のチャクラムが掃射され、銀の演舞が俺の視界を覆う。


 俺は、それらを空を走るようにかわし、交差する僅かなチャクラムの隙間を側宙するように通りぬけた。そして、仁王立ちのベルに向かってグレネードを発射する。


 ベルはその威力を知っているのか、チャクラムを的確にヒットさせ、弾を縦に割く。だがそのせいで巻き起こる爆炎が一瞬視界をゼロにする。


 その間にベルの背後を取った俺は改造弾を撃つが引き金を引くより早く、いつの間にか近づいてきたレヴィの腕に掴まれ、銃ごと腕を上げられ、迫る拳に防御が間に合わず、またもや吹き飛ばされた。


 更には空から降ってきたナイフによって身体の動きを固定され、身動きひとつ取れない状態でマモンに組み伏せられた。


「あのさ〜つまんないんだけど? 悪魔化してみなよ、怒りにさ、身を焼いてみなよ」


 詰まらなそうにナイフを弄ぶマモンから逃げようと移動するがそれよりも早く、腕ごと地面にナイフで貫かれた。


 体内が壊死していくのを防ぐためにも銃口を手首に向け撃とうとするもそれすら止められる。


「にしし、悪いけど暫くは痛みに耐えてもらうよ? じわじわと体を壊される恐怖から逃げたかったらさっさと怒りなよ。ほら、さあ!」


「調子に乗ってんじゃねえ………悪魔化なんか使わなくても………」


「これ、なーんだ」


 なんとか体の底から力を振り絞り、銃口を自分に向けようにもマモンの力によって動くことは出来ず、壊死する腕の感覚はもはやない。


 そうやって苦しんでいる俺にマモンは悪魔のような笑顔を見せると血で書かれた手紙を俺に突きつけた。


 それも()()()()()()()()


「リリムしゃまに言われました。貴方を怒らせろと。でしゅので貴方のパートナー1人をちょっと痛い目に合しぇました!」


「あの女性はとてもいい方でした。ええ、最後には貴方の名前を呼んでーーベル様のご飯になりました」


 ひらりと舞う紙に書かれた丸文字はとても見覚えのある文字で、今、ここにはいないはずの同じ地球出身の大事な後輩の女の子の字だった。


『せんぱいーー愛してます』




「ーーそれ以上、口を開くな」




 瞬間、マモンのふざけた顔面が弾け飛んだ。




 *




「お待たせ! 漸く到着したぞ! 私の愛しの先輩はどこだ!!」


「あら、予想より早かったわね。どうやって来たの?ジゼル?」


「ルナールとラクーンに送って貰ったんだ! それより早く先輩に会いたいんだが! 先輩成分を補給しないと私は倒れるぞ! いいのか?」


 同時刻、会議途中に港に来た不審な船を出迎えたリリムはそこに山積みにされていた食料運びの指揮を執っていた。


 もちろん、乗っていたのはジゼルこと霞、ルナールと無理矢理連れて来られたラクーンである。不審な船はラクーンのアーティファクトだ。


「まずは食料よ、どう対処したの?」


「あれなら、私たちの『空間』で子供達と一緒に育てている。イワンとやらの研究成果のおかげだな」


 ジゼルが考えたのはマコトの空間に作物を持ち込み、育て上げ、できた作物を使って料理を作る作戦だ。


 運良く、イワン、アルルのヘクセレイの薬草研究の結果、植物の成長を格段に向上させる薬品の開発に成功。しかし、副作用として味や匂いが悪くなるのだが


「味が悪い? 馬鹿を言え! 私の料理殺法を舐めるなよ! WS総出で、及第点の料理にまで仕上げてやる!」


 マコトの空間にはジゼルの招集に従い、WSの従業員達が勢揃いしているのだ。ラクーンの手によってシステムキッチン擬きまで完備している。


 これならば戦闘面において、役立たない自分でも先輩の力になれると信じているから。

 実際、リリム的には食料の費用が半分以下に収まり大歓喜である。


「ありがとう。てっきり貴方は私が嫌いだと思ってた」


「まあ、嫌いだが。だけど同じ男を好きになった以上は協力しなきゃ愛想つかされるからな」


「べ、別に私はマコトが好きとか、嫌いとか………」


 指くるくる、足もじもじ、顔は仄かに赤い。

 分かり易すぎる。ジゼルはなんとなくローキックしたくなった。


「後、先に言っておくが戦争する前に先輩と愛を交わした方がいいぞ? 『私、この戦いが終わったら告白するの』なんて言った人間が生きてた試しがないからな」


「………大丈夫、お父様と同じ轍は踏まない」


「魔王様はどんな死亡フラグを立てたんだ」


 ジゼルの呆れた言葉に父を馬鹿にされてむすっとしたリリムは雪玉をぶつけ、マコトのいる闘技場を教えた。


「ありがと………そうだ、聞きたかったんだが、以前、私に書かせたあの手紙は何だったんだ?」


「何でもないわ」


「人と話すときは目を見て話そうか。先輩?」


 追及をほどほどにし、ジゼルは手作り弁当を持って轟音奏でる闘技場へ足を運ぶのだった。




 *




「マモン!」


 マモンが殴られる寸前に捉えたのは()()()()()()()マコトの姿。


 自由になったもう1人の俺がマモンの顔面を殴り飛ばし、吹き飛んだ隙に全てのナイフを取り除いた。


 沸々と怒りがこみ上げてくるが俺が怒っているのは霞を傷つけたからとかではない。というか、これはフェイクだろう。


 俺が一番、キレているのは関係ないものを巻き込もうとしたこと。俺を怒らせたかったら俺に対して、屈辱感を与えるとかあっただろうに。


「そうは思わないか? 俺」


「そうだな! オレ! こいつらをぶっ殺してさっさと霞に会いに行くぞ!」


「俺の片割れは相変わらず物騒だな」


 悪魔の権能は個人によって違いがある。

 魔王たるサタンは重力を司る力だったが俺の場合は『憤怒』を『倍増』させる力だった。


 簡潔に言えば怒りが続く限り、俺はあらゆるものを倍にする。この片割れは俺の怒りの塊であり、発言が若干魔王寄りなのは夢の指導の賜物だ。


 そして先程までの攻防を繰り返して分かった。彼らの権能は魔王から教わったものと同じだと。


『強欲』心武器を含めた武器、アーティファクトを一瞬で奪い、自分のものとして扱う。


『嫉妬』自分よりも能力値が高い場合、相手の能力値を下げ、降下した分を自分の能力値に追加する。


『色欲』自分に注目させる。更に副次効果として美しさを保つための再生能力がある。


『怠惰』エネルギーを貯めることができる力。


「ここからが本番だ」


「よし、行くぞ!」


 ちなみに分身体も心武器をを扱える。なので黒の銃の方を渡し、本体の俺は白の銃を持っている。


 今、思えば俺が2つの心武器を扱えたのは魔王の心が俺に宿っていたからなんだな。


「ああ………悪魔化したのですね。なら、殺さなきゃ。倒さなきゃ」


 少し、思いを馳せた瞬間に床を砕き、踏み込んできたレヴィの拳を十時に固めた腕でブロック、そのまま後ろに吹き飛ばされる。


 後ろには既に顔面を腫らしたマモンがナイフを両手いっぱいに抱えており、苛立ちからか狂気的に笑いながら俺を待っている。


 だがそうは上手くいかない。


「俺!」


「キャーッチ! からの〜」


「ヒールキックだ!」


 吹き飛んだ俺をもう1人のオレが手を取り、そのまま回転した勢いで改造+無視+倍増によって強化された踵をお見舞いする。


 防御が間に合わず、骨がひしゃげる音を立てて、レヴィは吹き飛び、回転したもう1人の俺が黒の銃でマモンの体を改造、当たった部分が部品が外れたように落下する。


「後で治してやるから大人しくしてろ!」


 そして2人揃ってアスモウスに近づき、咄嗟に氷の魔法を唱えたものの前衛の俺がそれを破壊し、俺の背中を使って飛んだもう1人のオレがアスモウスの脳天に拳を叩き込み、強制的に沈黙させる。


 そこへベルが飛来、溜め込んでいたエネルギーの少量を爆発させたのだろう。先程までとは威力も精度も桁違いだ。


「1ついいか、お前は何のためにこの国に味方する?」


「俺を救った魔王のためと1人で戦い続ける彼女の側にいるためだ!」


「そうか、ならば話は終わりだ」


 ベルは無数の魔法とチャクラムを放ち戦闘再開を行動で示す。


 チャクラムの一枚一枚が俺に迫ろうかという威力を持ち、放たれる魔法は全て限りなく最上級に近いレベルである。よく見れば、ベルの体全体が水色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がっていた。


「オレ! レヴィを抑えてろ! 俺はベルをやる!」


「任せろ! なら、受け取れ!」


 投げ返された銃を持ち直し、その圧倒的な物量からなる怒涛の攻撃に息を呑みながら、魔眼を駆使してチャクラムと魔法を相殺し、射線上の全てを打ち砕いて直進しベルを狙う。


 しかし、光を纏うベルの動きもまた、先程までとは比べ物にならなかった。確かにベルを撃ち抜いたと思われた瞬間、彼の姿は霞のように消え去り、数メートルも離れた場所に現れたのだ。


 自らが放つ弾幕の中を勢いで進撃するベルの姿は、余りの速度に残像が発生し、常にその姿を二重三重にブレさせる。


 魔眼がなかったらとうにやられてる!


 残像を残して、俺の背後に回り込んだベルを銃だけ後ろに回して引き金を引き、それで稼いだ僅かな時間を追撃に費やす。


 ベルもチャクラムを持ったまま弾丸を角度を変えて、弾き、その力を入れたまま垂直に振り下ろす。


 咄嗟に二丁拳銃で防ぎ銃弾でチャクラムを跳ねあげ、足元に弾丸を打ち込み、痛みで動きを止めてそのまま蹴り飛ばし、弾丸を床に向けて三発打つ。


 体制を整えたベルの体に弾丸が移動し、貫く。そしてそのまま端正な顔を足の甲で捉えて吹き飛ばす。


「ゲームオーバーだ」


 そして追撃の弾丸を打ち込み、大理石の床を頑丈な鎖にして動きを縛ったところで俺は膝をつく。


「ああ、疲れた! 悪魔化はキツイから使いたくなかったんだよ!」


 息を整えて何とか立って観客席にいたロゼさんに視線を向ければ


「わぁ、これ美味しい!」


「あまり食べすぎないでくれ。これは先輩の為に作って来たんだからな」


 こちらを見向きもせず、霞が持って来ていたお菓子を食べているロゼさんにじっとりとした視線を浴びせれば漸く気づいたようで笑って誤魔化そうとした。


「見てましたか?」


「勿論じゃない! ちゃんと見てたわよ! ほら、マコト君がナイフで縛り上げられたじゃない!」


「………その後は?」


「こう………バババーン! ズバーンってマコト君の必殺技が炸裂して………かっこよかったよ?」


「最初しか見てないじゃん! むしろ後半が大事なのに見てないじゃん! 褒めて誤魔化そうとすんな!」


「し、仕方ないでしょ! ジゼルさんが美味しいお菓子を持ってくるのがいけないのよ!」


「私のせいだと言うのか! やるか! いま、ここで!」


 2人でポカポカと可愛らしい擬音がなるような喧嘩を開始、俺はその拍子に飛んで来たお菓子をキャッチし、食べ始める。


「あ、あのさ〜痴話喧嘩はやめて俺たちを元に戻してはくれないかな〜」


 そんな中でマモンの呟きがやけに明瞭に木霊したのだった。

次回は月曜の18時から投稿します

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