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魔女と憤怒の帰還

いよいよ1部最終章です。

皆さまどうか最後までお付き合いください。

 見渡す限りの青


 空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐ。しかし、決して暑すぎるということはなくどちらかと言えば涼しいくらいだ。時折、優しく吹くそよ風は何とも心地いい。


 ここは大海原のど真ん中、ぷかぷか、ゆらゆらと波間に漂うのは一隻の船だ。しっかりした作りの帆船は風を受け、目的地へ向かう。


 その目的地とはもちろん、海を挟んだリリムさんの故郷、『ウィチェリー帝国』。

 そして始まる戦争の舞台でもある。


 そんな俺だが今、現在、何故か丁重にもてなされていることに内心怯えている最中です。


「マコト様、こちら100年物のお酒でございます」


「マコト様?力加減はいかがでしょうか?」


「マコト様、他にご用はございませんか?」


 最初は客室に備えられていたリクライニングシートに寝っ転がっていたはずが気づけば高級な酒に食べ物、手足のマッサージなどいたせりつくせり状態。


 そんな感じから逃げ出すべく、甲板へ出れば異形の形をした悪魔達が俺を尊敬の眼差しで見て来る。


 何か手伝おうかと聞けば恐縮し、わたわたし始めるのだ。まるで子会社にその系列の社長でも来たみたいである。


「マコト、ここにいたの?」


「リリムさん」


「居心地はいかが?」


「………落ち着かないです」


「仕方ないわ。ようやく見つかった大罪の最後の1人、そしてそれが皇女たる私のパートナーだもの。特別扱いは当然よ」


 リリムさんはどうやら帝国に俺のことを伝えたらしく、船乗り達は興味津々で俺を眺めているのだ。


 その眼差しはむず痒く、恥ずかしいったらありゃしない。


「他のみんなも準備を整えたら来てくれるのよね」


「その筈です」


 ルナールさんは昔なじみといくつかアーティファクトを揃えてから向かうらしい。


 霞は『戦争における食料問題』という観点に目をつけたようで自分の子ども達を総動員して準備をしているようだ。


 クレアさんはディアン陛下から許可は得られたようだが本人がかつて魔人達を何人も殺しているため、魔族からの敵意が凄く、いまだに合流していない。


 そしてロゼさんだが………エルデがディアブレリーの指揮官として戦争に出るようで王家の血を引くロゼさんも建前上出なくてはいけないが


『家の都合なんて知らないわよ! 私は友達を助けるためにあっちにつくから!』


 男らしい啖呵をきってそのまま行方をくらまし、俺たちと合流、今は船酔いでダウンしている。


「馬鹿ね、ロゼもクレアもジゼルもルナールも。私を見逃せば悪にはならなかったのに」


「戦争に善悪説いてたら永遠に終わりませんよ。結局、戦争をする方もされた方も悪いんですから。勝っても負けても後が大変ですよ」


「そうね、でも私はなんだか負ける気がしない。もしかしたら、側にマコトがーー」


 俺たち2人は横並びに潮風を浴びながらそんな会話をしていれば客室へと繋がる扉が開かれて、青い顔をしたロゼさんが出て来た。


「………気持ち悪い」


「何やってるんですか!ロゼさん! 大人しくしてないと!」


「駄目よ………私の勘が告げているわ。このまま2人っきりにしておくと………気持ち悪いい」


「あーもう! わかりましたから大人しくベッドに戻りますよ! 」


「ふぇぇ………ぐらぐらする〜」


 もはや真っ青を通り越して真っ白な顔のロゼさんに肩を貸し、よたよたと俺たちは船室内に戻っていく。


「………ふーん」


 そんな様子がどこか気に入らないリリムはどこか拗ねたように見送るのだった。




 *




 船を港につけ、降りてみればそこはもう一面の銀世界だった。


 粉雪が羽のように舞い散る中、足首まで余裕で埋まるほどの雪中を歩くのはいささか大変そうだ。


「マコト、ロゼ、こっちに来て」


 だがそれを読んでいたのか、または久々の国への凱旋のためにかリリムさんは水晶のように光を吸収して輝く乗り物に入っていく。


 作りが似ているため馬車かと思ったが引っ張っているのは可愛いアザラシみたいな動物達、手を振れば手を振り返してくれた。


 どうやら馬車というよりはそりに屋根やら何やらをつけたような感じだ。そして乗り込めば中は程よい温かさを感じて、ほっと息をつく。


「ルナールから貰ったアーティファクトは無くさないように」


「はーい」


 雪の結晶をモチーフにしたアーティファクトを首にかけたロゼさんは船酔いが治まり、元気に手を挙げた。


 一方で俺はそのアーティファクトを首にはかけてはいない。


「どう?マコト、魔族の力に目覚めた感想は?」


「………本当に寒さが適温に感じる」


 前回、魔王との対談を得て自分のうちに潜む者との決着を終えた俺は翌日から体に変化が訪れた。


 分かりやすい例をあげるなら人にとっては生活出来ないような極寒の世界でもちょっと寒いくらいで済むなど以前より体が強靭になったなどだ。


「ならよし。それで父との訓練はどうかしら?」


「組手をすれば5割くらいで勝てるようになりました!」


 そしてこの日までおよそ1ヶ月間、時間の感覚すら狂いそうな夢の世界でひたすら魔王からの特訓という名の扱きを受けていた。


 クレアさんはあれでも加減していたんだな〜としみじみ思いながら、悪夢の如き訓練の果て、無事に乗り越えたのだ。


 おかげで最近は眠れなくなったが。


「魔王に5割なら十分よ! もしかしたらマコト君はこの世界でもかなりの実力者じゃないの? 今ならクレアさんにだって勝てるんじゃない?」


「いやいや流石に無理ですって」


「謙虚も過ぎれば毒。そこまで言うなら戦争前に少し、自信を持ってもらう」


 何故かリリムさんのその言葉に俺の脳内やべーセンサーが反応するも取れる手段など無いに等しく、最悪の予想を働かせていれば急に止まる。


「着いたわ、ここが私の故郷。雪の国『ウィチェリー帝国』」


 乗り物から顔を出してみれば純白の扉が開かれ、そこから見えた中の町並みはまさに雪の国と呼ばれるにふさわしい美しさだ。


 降る雪の白さに負けないほど儚さを兼ね備えながら、寂寥感を与えずに優しさを感じさせる建造物にふわりと灯る明かりが絶妙だ。


 そしてそれらの建造物の先に見えるのは中世のヨーロッパの城のような堅固な石造りの建物。それこそが帝城らしく俺たちの乗り物はそこへ向かって進んでいく。


 そして少し道が開き、大通りに面した瞬間、大歓声が沸き起こった。


「リリム皇女様のご帰還!! 帝国の者達よ! 」


「マコト、窓を開けて」


 リリムさんの言う通りに窓を開ければなんと大通りの端から城まで帝国の国民達が歓喜の声を上げながらこちらへ向けて手を振っている。


「リリム様、万歳! 帝国万歳!」


 国民達は皆が同じようにリリムさんを讃えるような言葉を謳い、空気すら震わせ、雪の国とは真反対の熱気を伴っていた。


 そしてそれへと慈愛を持って手を振り、笑顔を見せるのはリリムさんだ。部屋は汚く、甘いものに目がないとはいえ、今の姿はまごうこと無き、国を治める者の姿だった。


「見て! あれが『憤怒』じゃないかしら!?」


「あれが新たな『憤怒』か! 自信に満ち溢れているな!」


「これで九大罪は揃った! 戦争にこの国は負けはせん! この戦争は我らの勝利だ!!」


 何故だか過剰評価されているような気がしなくもないので窓から見えないように顔を引けばリリムさんに腕を絡ませられ、2人で並んで顔を出す形になる。


 そしてそれを見て再び盛り上がる魔族の皆様達。

 そして背後から刺さる何より冷たいロゼさんの視線。

 そして何処か緩みきったリリムさんの笑顔。


 それら全てを受け止めながら、俺は前を向く。


 魔王に託されたこの国を守る為に。




 *




「お初にお目にかかります、皇帝代理 リリス・ブラウ・ウィチェリーで御座います。リリム、大きくなりましたね」


「はい、お母様。また再び会えるとは私は思っていませんでした」


「私もです。リリム、今夜は貴方の話が聞きたいわ。貴方の好きなお菓子を食べながらね?」


 通された部屋は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、装飾のない簡素な部屋だった。


 そのテーブルの上座の位置に、背筋を伸ばし、清涼さを感じさせる女性――皇帝代理リリス様がいた。


 彼女の背後には二人、見るからに“できる”とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男女が控えている。


 魔眼で見れば

 名前 マモン

 武器 短刀→ダーク

 所属 九大罪

 ステータス 魔法 A 甲斐性 C 体力 B 頭脳 B 特殊 A

 パートナー アスモウス

 種族 魔族

 追記 強欲

 親愛度 アスモウス 80


 名前 アスモウス

 能力 中毒→腐食

 所属 九大罪

 ステータス 魔法 B 家事 B 体力 B 頭脳 C 特殊 A

 パートナー マモン

 種族 魔族

 追記 色欲


 俺たちが部屋に入り次第、鋭い眼光を浴びせながら暗く深いプレッシャーを放つ。


 流石は九大罪と言えるほどの大悪魔、けっこう死線をくぐり抜けてきたロゼさんが小さく悲鳴を挙げた。


 けれど俺が臆せずに平然と立っているとこを見て何故か面白そうに笑いながらプレッシャーを抑えた。


「お辞めなさい、マモン。リリムのパートナーを壊すつもりですか?」


「にしし、そんなわけないじゃん。ただ、どんな腰抜けが来たかなと思って試しただけ」


「もうっ!マモンしゃん! リリムしゃまが困ってらっしゃるじゃないでしゅかー!!」


 マモンと呼ばれた少年は長く伸ばした藍色の髪によって目が隠れており、不気味な笑い方をしている。


 逆にアスモウスと呼ばれた方は幼女といっても過言ではない背丈に空色の髪を三つ編みカチューシャで纏め、舌足らずな甘ったるい声でマモンを宥めていた。


「マコト、彼がマモン。私のパートナーになりたがってた馬鹿。そして彼女がアスモウス、私の服を見繕ってくれた人」


「ああ、道理でリリムさんの服が少女っぽいのが多かったわけだ」


 その間も言い争っていた2人だったがリリス様の咳払いによって2人はピタリと動きを止めて、姿勢を正す。


「身内が失礼を。よく来てくださいました。『憤怒』よ。リリムから話を聞いております。貴方は我が夫の力を受け継いだ者だと」


 《変われ、マコト》


「え、ちょ」


 リリス様の言葉を聞いた途端に俺の意識は入れ替わり、顕現したのは魔王サタン。


 リリス様に後ろの2人もいきなり目の前の男から醸し出す王の気配に変わったことに気づいたようだ。


「まさか………サタンですか!」


「如何にも、リリス。オレがいない間の国の管理、ご苦労だった」


「ああ………サタン。私、頑張りましたよ。ですが私は、この国をーー」


 泣き出すリリスの涙を指で掬い、ゆっくり抱きしめた。


「何も言うな、リリスよ。お前はお前なりにこの国を守って来た。悪いのはオレだ。すまなかった」


 そして魔王は後ろの2人を確かめるように眺め


「2人とも大儀であった」


 腹心の部下である2人に労いの言葉をかけたのだった。


 そこまで言い終えると俺の体に主導権が戻り、どこか残念そうなそぶりを見せながらも3人はまた平常に戻った。


「ねぇリリムさん。なんとかして魔王の魂を別の体に移せたりできないかな」


「魂を操れる心武器があればいい」


「ええ、本当に………ではなくて、マコトよ。貴方の素性も把握しています。ですから私たちに確かめさせて下さい」


 刹那、部屋中に冷気が迸る。


「貴方がどちらを味方するのか」


 そしてその発生源はリリス様。

 一歩でも動けば凍りつくような極限の世界で俺はありのままを述べる。


「俺は魔王に託されました。この国を、魔族を、そしてリリムさんを」


 あの魔王がいなければ俺はこの世界に来ることも生まれることすらできなかっただろう。


「だから俺はこちら側に立ちます。それが生まれることが出来なかった俺があの人に出来る唯一の事だから」


 とてもじゃないが返しきれない恩を少しずつ返していこう。魔王に救われたこの命を無駄にしないためにも。


「あの人にーー魔王に誓えますか?」


「勿論」


 ふっと冷気が消えていき、微弱に振動していたロゼさんの動きが元に戻る。


 そしてリリスさんは雪解けのような微笑みを浮かべた。


「貴方の立場は私が保証しましょう。ようこそ、我らの同胞よ。これにて九大罪、全員が揃った。今すぐ、会議を始めましょう、リリムついて来なさい」


「ええ、お母様。ロゼ、貴方は………マコトと一緒にいて」


「あれ?俺は?」


 リリムさんの言葉から察するに俺は彼女の側にいなくて良いみたいだが何処へ行けばいいんだろう?


 首を傾げていれば後ろからポンと肩を叩かれて、振り向いた先には意地悪そうな笑顔と申し訳なさそうな顔の護衛2人がいた。


「にしし、今から行われる会議は大臣達だから、俺たちは必要ない」


「でしゅから大罪達は新人の歓迎会を開きましゅ!」


「へー歓迎会だって! よかったじゃない! マコト君!」


 そう楽観的に言うロゼさんだったが俺の本能が本気で不味いと警報を奏でている。本能通りに逃げ出そうとしようにも目の前の2人は逃がしてくれそうにもない。


「ち、因みにその歓迎会の発案者は?」


「「リリム様 (しゃま)」」


「ウワァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 あの乗り物の時に感じた悪寒はこれか!

 くそっ、俺はこんなところにいられるか! 俺は国に帰らせてもらう!


「にしし、一名様ご案内〜」


「大丈夫でしゅよ、ちょっと戦って、血とか肉とか魂が飛び交うだけでしゅから!」


「全然大丈夫じゃない!」


「頑張ってねー」


 まさに地獄へと連れていかれそうな俺はロゼさんに助けを求めるがロゼさんは普通に目をそらし、連れていかれる俺を哀れみの声で送り届けるのだった。

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