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自責の念

こんなのはただの俺の想像でしか無いが、天使と言うのは純白のイメージがある。

……まぁ、俺の近くに居る奴は別として。

太陽の光を反射して、キラキラと柔らかく光る白い羽根。

人とは違うのだと、改めて実感させられる冷たすぎる目。

迷うこと無くその刃を振り下ろす。

俺は手持ち無沙汰に剣を振り回し、一つ欠伸をした。

それもそのはず、本来ならばジェラルドに混じりあの天使……シモンを倒すために俺も向かうべきなのだが。

まぁ情けない事に、戦いに不慣れな俺は二人の間に入る事も出来ず佇んでいた。

次第に俺の視線は周りの景観へと移っていく。

真っ青で何も無い空。太陽が近いのに熱く無いのは神様とやらの力なのだろうか。

二人の奥には大きな石が積まれた塔。

所々にある隙間は窓なのだろう。人一人ぐらい簡単に通れる大きさだ。

俺の知っている昔話だと、こういう塔の中には大抵地下があって、そこで夜な夜な儀式をやるとかなんとか……。

下らない事を考えていると、正面からの衝撃でその場に背中から倒れ込む。

受け身すら取れず、肺の中の空気と声が同時に口から飛び出した。


「っなにすんだよ!」


俺の胸あたりに突っ伏している頭に怒鳴りつける。

この白い耳からして、おそらくジェラルドだろう。

返事を待っていたが、ジェラルドの口から俺に対しての皮肉すら出てこない。

不思議に思い、ジェラルドを乗せたまま上半身を起こそうと首を持ち上げた時、暖かくドロリとした気持ちの悪い液体が手に流れ落ちた。

遅れて鼻についた生臭い匂い。

反射的に上半身を勢いよく起こすと、俺の上で苦しそうに息をするジェラルドの左肩から胸にかけて大きな傷が出来ていた。

その傷からは大量の血が流れ落ちている。


「お、おいっ!大丈夫か!?」


俺の問いかけに応える事無く、ただ苦しそうに息を吸っている。

頬を嫌な汗が伝っていく。汗はじんわりと広がっていき、背中を湿らせた。

ジェラルドの体をさすりながら、呼び続けるが返事は一向に無い。

それを続けていると、ゆらりと暗い影が俺とジェラルドを包んだ。

顔をあげると、そこには真っ白で柔らかそうな毛に不釣り合いな赤黒い色を付けたシモンが立っていた。

冷たい目が俺を睨みつけるように見ている。


「仕返しはしてこないにょら?」


シモンの言葉で、俺の体が小さく震えているのに気づいた。

だが、血のついた天使様から目を離すことが出来ずただ、呆然と見つめていた。


「まぁ、そうにょらよね。自分から戦った事なんて一度も無かったにょら。何かあったら、汚れ役を買って出てくれた人が近くにいたにょらからね」


ゆっくりと俺に近づくシモンは悪い子を叱るような口調で話を続ける。


「誰も守れないくせに聖人きどって、心配はするし、上辺だけの約束も交わす。

ほんと、馬鹿みたいにょらね」


無表情だったシモンの口元がぐにゃりと、三日月型に歪む。

頭の中で誰かが呟く。

その呟きは、一人から二人に、二人から大勢に変わって口々に俺を責めていく。

知らない顔。知ってる顔。様々な人が、様々な表情で睨みつける。


(お前みたいな弟がいるから俺は嫌でも働かなきゃいけなかったんだ)


求め続けた懐かしい声は怒りを露にしている。


(なんで、僕が君のために死にそうにならなきゃんだよ)


血にまみれたあいつは、悔しそうな声で呟く


(貴方がお姉ちゃんを殺したんだ!!)


ポンチョを来たあの子は泣きながらナイフをコチラに向けている。


(ねぇ……)


沢山の声の中で澄んだ声が響いた。

周りの声が耳から遠のいていくのがわかる。


「ねぇ、君は」


血に濡れた赤黒くなったワンピースに、薄いベールを被っている彼女は、俺を睨みつけた。

彼女の口元から、胸から血が溢れ出ていく。


(ウソつきウソつきウソつきウソつきウソつきっっ!!)


「君の事を信じて待っていた彼女を殺した、その罪は自らの死で償うにょら!」


(アンタなんて……死ねばいいのに!!)


視界が暗転した直後大きな金属音が鼓膜を突き破る。

その音で我にかえると、周りは先程までの明るい景色に戻った。

俺の頬に暖かい液体がこぼれ落ちる。そして、俺の少し上から荒い呼吸音。

シモンが振りかざした斧は、先程まで虫の息だったジェラルドの剣によって食い止められていた。


「っ!」


「君達うるさいんだよ。もう少し休ませてくれないかな?」


「ジェラルドっ!?」


シモンは小さく舌打ちをすると、斧から手を離した。

瞬間、斧は青白い電気を放つと共に瞬時に消えて、シモンの手元に戻った。


「……やっぱ、僕じゃ力量不足にょら」


「そーねー、良く分かってんじゃない」


シモンの呟きに応えるように、俺達の背後から高い声が響いた。

後ろを振り向くとそこには、太陽の光に被さるようにして飛んでいる一人の天使が、大きな剣のような物を持っていた。

逆光で顔が上手く見えない。目を凝らしていると、天使はフワリと俺達の傍に降り立った。

茶色と白の三毛の色をした女性が大剣を担いでいて、青と白のグラデーションがかかったクラニスは耳の女性の瞳と似たような色で凄く似合っている。

いたずらっ子のような笑みを浮かべると、楽しげに口を開いた。


「あらら、ジェラルドったら、ボロボロじゃない。体鈍ってんじゃない?」


心配している素振りすら見せずに、三毛の女性はケラケラと笑った。

ジェラルドは鼻で笑うと、珍しく余裕が無いのか口角を少しあげた。


「君みたいに趣味の悪い遊びはしてないさ」


「趣味の悪い?勘違いされる事言わないでよ、ただ人が悲しむのが好きなだけで、自ら手は下してないわよ」


少し頬を膨らませるが、その二人の雰囲気は久しい友達と小さな言い合いをしているだけのようだ。

二人の様子に気を取られていると、いつの間にか三毛の女性のそばにシモンが困ったような笑顔で立っていた。


「相変わらず仲がいいにょらね」


「やめてくんない?この性格ブス女と仲いいとか」


「はぁ?堕天使が何偉そうに天使様に楯突いてんの?」


言っている言葉とは、正反対に楽しそうな表情を浮かべている三毛の女性は一体何なのだろうか。

ジェラルドを一瞥してから、コチラに瞳を向けると、一段と嬉しそうに口角をあげた。


「アンタ、ほんとフレッドにそっくりなのね。兄弟なだけあるわ」


懐かしい名前に俺は思わず体を三毛の女性に向けた。

俺の関心が一気にそっちに向いた事に気づくと、意地悪そうに笑った。


「フフ、絶対アンタには教えてあげなーい」


「ミア楽しそうにょらね」


「アンタも中々よ」


互いに顔を見合わせると、コチラに武器を向けた。

二人の羽根が太陽の光を浴びてキラキラと美しく輝いていた。


「私の名前はミア。

邪魔者のアンタ達に地獄を見せてあげるわっ!」




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