少年
青と白の毛が風と共にゆっくりとなびく。
太陽の光に照らされその翼は神々しく輝いている。
しかしその神々しさとは正反対に、重々しく、切れ味の良さそうな体に合わない、大きな斧が威嚇をするように、こちらを向いている。
殺意と共に。
隣に居るジェラルドは、眉間に皺を寄せ、あからさまに嫌そうな顔を浮かべる。
「僕は忠告したにょらよ」
男にしては、少しトーンの高い声を放つ。
いや、見た目が男っぽいだけで……。
そこまで考えて、今はそれどころでは無いことに気づく。
それに、服装が男だ。
女性のような形をしていない。
思考が結局そっちに行ってしまい、頭を横に振る。
「……何のはな」
「どうせ、死なないんだ。
なら、僕は本気で行かせてもらうよ。早く終わらせたいしね」
「……」
俺の呟きはジェラルドの声によって遮られてしまう。
俺を取り残し、二人の間に静かな空気が流れる。
ジェラルドの足元の草がカサリと動いた瞬間。
天使はジェラルドに飛びかかる。
思わず俺は、ジェラルドのマントの襟を掴みこちら側に引き倒す。
うぇっ、と情けない声を上げてジェラルドが地面と挨拶をする。
いきなり引き倒して申し訳ないと思うが、俺だって状況を知りたいんだ。
天使は呆気にとられた顔をして、顔から地面に倒れたジェラルドをポカンと見つめている。
俺が質問をしようと、口を開いたその時。
俺の腹には重たい拳が入る。
一瞬何が起きたかわからず、自分の口から出たものも悲鳴なのか、唸り声なのかもわからなかった。
先ほどのジェラルドと同様にその場に倒れ込む。
あまりの痛さにうずくまっていると、頭上からは恐ろしいほどの殺気。
「君は馬鹿だとは思っていたけど、ここまでくると、馬鹿を通り越してゴミ以下だよね。埃と一緒に掃き溜めの中で暮らしてれば?」
怒りを含んだ声でまくしたてる。
みぞおちあたりを殴られたからか、吐きそうだし、何より息が出来ない。
地面を握る。
ジェラルドの後方から、困惑の声が聞こえるが何を言っているのか、聞いている暇は無い。
「聞いてる?」
いやいや、待てよ。
あれだよ?俺、みぞおち殴られたばかりなんだけど。
ちょっと、気遣っていただけません?
しかし、俺の気持ちなんか無視して、ジェラルドは俺の返事を求める。
だいぶ良くなったお腹を抑えつつ、立ち上がるとジェラルドに顔を近づけた。
「ふざけんなよ!過呼吸になりかけたんだぞ? !ゴルァ!」
鼻先が、くっつきそうな程近づきすごむが、ジェラルドには無効化のようだ。
冷静な瞳の奥にはほんの少しの怒りが宿っている。
無表情を取り繕ったまま、口を開く。
「戦おうとした所で、いきなり引き倒すのやめてくんない?」
「あぁ、悪かった!ごめんなさいね!でも、殴るこたぁ無くね!?」
「ごめん」
あまりにもサラリと受け流される。
ジェラルドの怒りは先ほどの罵倒でスッキリしたのか、軽く謝ると俺にそっぽ向いて天使の方に目線をやる。
あのなぁ……。
心にフツフツと湧き上がる不満と怒りを抑えつつ俺は、振り上げかけた拳を握る。
ジェラルドの視線の先には天使が座っていた。斧を持っている手の周りに電気が蠢く。
電気が弾けるとどうじに、斧がスッと消える。
天使の手はダラリと垂れ、敵意はもうなくなっている。
顔には呆れと、困惑、その二つが混ざった表情。
「あ、のさ。喧嘩終わった?」
俺とジェラルドを交互に見てから、口を開いた。
少し警戒した表情を浮かべているが、先ほどまでの殺意は、感じられなかった。
お腹をさすりながら、俺は天使の元へ近づく。
天使は黒い目を少し焦ったように、揺らす。
「あのさ、お前なんなの?」
「え?」
「いきなり、武器を向けられても困るんだけど」
俺の問いかけの返事は申し訳なさを含んだ苦笑いだった。
だが、そんな顔を向けられても俺にこの状況を理解できないし、何の回答にもならない。
天使の代わりに、ジェラルドが冷静な顔で俺の隣に立つと説明を始めた。
「簡単に言うとね、天界の奴ら、僕達を殺す気まんまんらしいんだよ」
サラリと告げられたそれは、俺が驚くには充分過ぎた。
思わずポカンと口をあけ、天使を見つめる。
照れくさそうに笑う天使。
照れるポイントは、どこにあったのだろうか。
天使は人とは分かり合えそうにもないな。
「え、いやいや。じゃあ……俺を介抱してくれたあの天使……」
「あぁ、ガリナ?アレは天使の中では比較的変わり者らしいけどね」
あの天使が変わり者……。
しかも、軽くアレ扱いしてるし。
俺は、息を一つ落とした。
目の前の天使はニコリとした可愛らしい笑顔(少年らしいという意味であって、決して変な意味ではない)を浮かべ礼儀正しくお辞儀をした。
「申し遅れました、僕の名前はシモンです。
得意魔法の方はーー」
そこまで言い、シモンは言葉を濁らせた。
一瞬悩んだ顔をしたが、それはすぐに先ほどまでの笑顔に戻る。
「実戦した方が、手っ取り早いにょら」
シモンの口からは敬語は消え失せ、今では最初の頃に見せた殺意を少しも隠さず放つ。
いくら明るい天界でも、シモンの周りだけにどす黒く、歪んだオーラを漂わせていた。
手には大きな斧。
俺よりも少し小さな体で良く持てるものだ。
そんな事を考えながら、話し合いで解決しそうにもないことに気付き、背中から銀で出来た剣を抜き出す。




