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カーテシー

二十歳にしては、俺は比較的動ける方だと思う。あくまで、予測だが。

一日中歩き回る日もあるし、ほとんど走り続ける日だってある。そう考えるとやっぱり俺は動ける方だ。

しかし、こればっかりは流石にくるものがある。

それもそうだ。

二日ほど(いや、正確な日数や時間は数えていないがおそらくその日数だろう)先の見えない階段を登り続けて来たんだ。

どんなに超人でもきっと、動けなくなるだろう。……知らないけど。

とにかく、俺がこの冷たい石畳の上で大の字になって寝ていることは決して恥じる事なんかじゃーー。


「ねぇ、まだ動けないの?」


俺を除く真っ黒な瞳を避けるように俺は目をつぶった。

しかし、黒い瞳の持ち主はそれを許すことをせず片手で俺の瞼をこじ開ける。

無理やりこじ開けられた目は光だけを写し、景色はぼやけて見えてしまう。

仕方がなく俺は両目を開けると、黒い瞳の持ち主ーージェラルドは俺から体を離した。


「……うるせぇな、しょうがないだろ」


「どうせ、また頭の中で言い訳でもしてるんでしょ?」


図星をつかれた俺はジェラルドに返事をせず体を起こす。

それに関して、特に何も思わないのか俺に目を向けることもなく、嫌悪感を出すこともなく、ただ生い茂る木々を眺めていた。

あまりの疲労で周りを見渡していなかったが、いざ見てみると、深い森の奥かのように木が空を覆い隠していて、陽の光が見えない状態だ。

……いや、そういえばここは天界なんだっけ。

陽の光は無いのか?

……やめよう。


「あ、起きました?」


「え?」


聞きなれない声が頭の上から降ってくる。思わず顔を伸ばし横たわったまま目を後ろに向けると、これまた見た事のない美人な女性が微笑みを浮かべながら立っていた。

薄いオレンジ色の毛色をした丸い目の持ち主が不思議そうに瞬きを二つする。


「足。もう痛くないでしょ?」


優しい声の持ち主に尋ねられた事で、俺は自分の足がそこまで痛くない事に気がついた。

どういう訳か俺がここの石畳に横たわって二時間半…いや、一時間だろうか。

気がつくと足の物凄い疲労感はなくなってい

た。

この空白の時間に一体何が……。

そんな事を考えていると、俺を覗き込むキラキラとした丸い瞳が三日月形に変わった。


「びっくりしました?

でも、私の方がびっくりしたんですよ?」


ケラケラと女性は笑う。

俺は疲労の抜けた体を起こすと、女性の方へと体をむけあぐらをかいた。

状況把握がいまだにできてない俺は、可愛らしい笑顔を見せる女性に怪訝そうな視線しか送ることができなかった。


「だっていきなり下界(した)の人がココにくるなんて……しかもジェラルドまで来るとは、考えも出来ないですよね」


それだけ言うと再びケラケラと声を出して笑った。


「ちょっ…と、待って。

何、世にも珍しい医療技術を持ってる人かなにか?」


額を抑えながら俺は目の前の美人な女性を指さした。

薄黒い瞳をした女性は長いまつげを二、三回ほどはためかせる。

一瞬不思議そうな表情を見せたが、俺の質問の意図がわかったのか、再び口が弧を描いた。


「初めまして。天界の住人の、ガリナと申します。得意魔法は医療系です」


かしこまった口調で白を貴重とし、裾が薄い黄緑色のキトンの端を両手でつまみ軽く持ち上げる。

薄黒い瞳は真っ直ぐ俺の目を見つめていて、どこか妖艶な雰囲気を漂せる。

思わず口内に溜まった唾液を飲み込むと、小さく音が鳴った。

見とれていると、いきなり俺の背中がいきなり押され石畳の地面にご挨拶をしてしまった。


「こ……の、糞野郎!!」


「ばーーか」


起き上がり、ヒリヒリと痛む顔を後ろに向けると舌をべろりと伸ばしたジェラルドが呆れたように、めんどくさそうに言った。

後ろを向いている俺の頬か掴まれたと思うと、無理やりガリナの方へと顔を向けられる。俺の目の前にはガリナの顔が。

頬を掴んでいた左手を離し、俺の鼻あたりに指をつける。

暖かさが広がると同時にガリナは俺から離れニコリと笑顔を浮かべた。

地面に挨拶をした事でヒリヒリと痛んでいたはずの俺の顔は、ガリナに触れられた事でさっぱりとなくなっていた。


「え?あ?」


「ね?言ったでしょ、私の得意魔法」


「す……すげぇ!

ありがとな!」


どういたしまして、と言うとガリナは立ち上がった。

俺もつられて立ち上がる。

そして、軽くなった体を確かめるように俺は一、二回ほどその場でジャンプをすると後ろを振り向いた。

俺よりも少し離れた場所で拗ねたように(気のせいだろうが、俺にはそう見える)こちらを見つめるジェラルドに声をかける。


「んじゃまぁ、行こうぜ」


「はぁ……遅いんだよ」


「まぁまぁ、いいじゃねぇか」


俺はジェラルドの隣に並ぶと、タイミングよく、ジェラルドが足を踏み出した。

最後に後ろを振り向き、手当をしてくれたガリナに俺は大きく手を振った。


「ありがとな!」


「……お気を付けて」


少し眉をよせて悲しそうにガリナは笑った。




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