地下室の独白と救済
元々ココはクズの成れの果ての場所だとは思っていたが、ここまで酷いとは。我ながら呆れる。
手足につながれた枷は冷たく重い。
くすんだ赤の光を放つと、目の前に赤い柄の槍を浮かばせる。とんがった槍頭を自分に向けると、俺をこの豚箱のようなところに括りつけている鎖に向かって飛ばす。
しかし、カランと音を立て槍は地面に落ちた。やはり、この鎖は簡単に壊れないようだ。全敗だ。
モーリスが俺を殺してから数日しか経っていないが、やはり体を構築するあそこは嫌いだ。
暗く何も見えないと思うと辺りが急に赤黒く染まり体内がまるで燃やされているかと思うほど熱くなり、四肢が引き裂かれるほどの激痛が何時間も、何日も、何年かと思うほど続く。
……あぁ、くそ、思い出しただけで吐き気がしてきた。
しかしまぁ、死なない体というのも辛いもんだな。
魂が体から離れないように縛り付け、体が老化していかないように、肉体を一度殺し神様の手で器を創る。創られた器は歳をとらず、そのままの状態で維持される。
俺は血で赤黒く染まってしまった、白だったはずのキトンを眺める。黒のマントも俺の血だと思われるものが少量だが付着していた。
恐らく俺の腹部につけられた傷や、それ以外の傷もまるで元から無かったかのように消えているのだろう。
魂を留めておく器が限界をこえたらもう一度創りなおす。……神様もよく考えたもんだよ。
背中を冷たい壁に付けると、俺は深いため息をついた。
鉄のドアの奥から、何かが階段をゆっくりと降りてくる音が聞こえる。
どうせモーリスなのだろう。
鉄のドアが開く前に俺は目をつぶった。なんだか、目を開けているのすら辛く感じてしまったから。
重たいドアが開く音がすると、ゆっくりとした歩調で俺の目の前に立つ。
そこまでは普段と同じだった。
布の擦れる音がする。おそらくしゃがみこんだのだろう。
「……ノマール」
聞きなれない声(いや、聞きなれないと言ったら違う。正しく言うと久しく聞いてなかった声)がしたと思うと、俺の肩を掴みゆさりはじめた。
思わず目を開けるとそこには、モーリスとは違う綺麗な青色で釣り上がった目が俺の目とあった。
思わず体を仰け反らせると、頭を思いっきり壁にぶつけてしまった。
「っで!!」
「……元気そうで何よりね」
「じゃなかった、ミア!なんでここに?」
ミアの毛は俺とは違って、艶やかで明らかに手入れが整っている毛並みだ。
ミアは、いつもの無愛想のまま俺の体についている汚れをはらうと、おもむろに立ち上がり、手を伸ばした。
すると激しい風が俺をすり抜けたと思うと体を浮き、壁から爆発音が響いた。
爆風に飛ばされ、俺は受け身をとることも出来ないまま部屋の端まで飛ばされ、体を強く地面に叩きつけられた。
塵が風と共に俺の体にぶつかる。
ようやく風が収まると、咳き込んでから俺に背中を向けて立っているミアに向かって叫んだ。
「おい!いきなりなんだよ!!」
ミアは冷たい視線を俺に向けると、有無を言わさず口調で言葉を発する。
「説明は後、付いてきて」
「は?俺はココから動けな……」
「さっきので鎖はとれたでしょ」
思わず自分の手足を見ると、枷はついたままだったが、鎖は途中で千切れていて身動きが取れそうだ。
そこまで頭が回らなかった。いや、何にせよミアは風魔法が得意だが俺のように氷魔法じゃ石の壁は壊せそうにもないな。
ミアは俺に近づくと、俺の腕をとり立ち上がらせる。
「とりあえず、コッチにきて」
「あ……おい、こっちは久しぶりに歩くんだからもうちょい待てよ」
俺から数メートルもすでに離れているミアは、ヨタヨタと歩く俺を見てため息をついた。
「しょうがないわね」
小走りで俺に近づくと難なく俺を小脇に抱えた。
そして、走り出した。
「お、おい、流石に体格差的に無理がある。無理だ。ちょ……地面にスレスレなんだけど!」
「うるさいわね、今のアンタは軽いし私は力には自信があるの。
ていうか、黙って」
軽いって……そりゃ長いことまともに食ってねぇけど……。
でも、女に抱えられるほど屈辱なものはない気がするんだが。
涼しそうな顔しちゃってさ、汗かいてんじゃねぇかよ。まぁ、だからと言って歩ける気もしないけどな。
申し訳ねぇが、今回ばっかしはコイツに任せるか。




