頼み事
木漏れ日がチラチラと白の塗装がはげかけている教会を綺麗に照らす。
周りは薄緑色の木で周りが覆われており、ココが中心都市、アーノルトだと言う事を忘れてしまいそうなほどだ。
大きな教会を見上げてから俺は扉をノックした。
しかし、返事が来ない。
もう一度ノックをしたその時扉が勢いよく開き、目の前にいた俺は扉が顔のスレスレを通って開いた。
「っぶねえ……」
「すいません。
何の用事ですか?」
サラリと謝るが、その顔からは本心から謝っているようには見えない。
しかし、まぁ。
このポンチョにこのマフラー。
どこかで見たような……。
「何ですか?
人の顔をジロジロと見るのはやめてください」
「え?
あっ、わりぃ…」
気づかないうちに、ジロジロと見てしまっていたようだ。
目の前の少女は眉を潜めて怪訝そうな表情を見せる。
「ところで、ノーランドいる?」
「ノーランドさんですか?
昨日と同じ部屋にいますよ」
淡々とした口調からは、感情が読み取れない。
ジェラルドは、少女の真横を迷わず通る。
俺はそれにおいてかれないように、急ぎ足で横を通り過ぎた。その時、少女の薄緑色の瞳が大きく揺れた。
少女から少し離れた場所で、思わず立ち止まり後ろを振り返った。
しかし、少女の小さな背中からは何も読み取る事が出来なかった。
「何してるの?」
階段を上り始めたジェラルドが、呆れるような声で俺に問いかける。
「いや……なんでも」
部屋の中には高そうな家具が幾つか置いてある。しかし、どれも生活に必要な物だけであり、不要そうな物は何一つ置いてはいない。
机の上に両腕をのせて、手を組んでいる目の前の男がノーランド、と言うらしい。
緑の毛色に、細い目はどこを見ているのかわからない。耳の先は内側に折れ曲がっている。
スーダンを着ているため、神父なのだろう。
「玄関にベルでも付けておいた方がいいんじゃないの?
あまりにも、返事が遅いと思うけど」
来てそう文句を言えるジェラルドの無神経さにはほとほと呆れる。
「いやいや、すいませんね。
そのうち、つけておきますね」
ノーランドは呆れた様子も見せずにニコニコと笑った。
お互いの話し方や、雰囲気からして昔ながらの知り合いなのだろう。和やかな雰囲気が漂っている。
「そうそう、ノーランドに頼みがあったんだよ」
「頼み、ですか?」
「うん。
ちょいとね、天界まで連れてって欲しいんだよね」
ジェラルドは天井を見上げるのと同時に指を差す。そして、すぐに顔を元の位置に戻すとノーランドをジッと見た。
ノーランドは、考えるように机を見つめる。
しばらくしてから、顔をフッとこちらにあげるとニコリと微笑んだ。
「無茶いいますね……。
まぁ、了解です。任せて下さいよ」
「ほ……ほんとに良いのか?」
思わずそう口に出すと、ノーランドは俺の方に視線を向け、もちろん、と言って頷いた。
「ただーー。
準備に時間がかかりそうなので……明日の夕方に来てもらえませんか?」
「わかった。よろしくね」
そう言うとジェラルドは立ち上がりドアに向かって歩き始めた。
置いて行かれそうになった俺は慌てて立ち上がると、ジェラルドの後を走るように追い、部屋から出て行った。
教会から出て数分歩いた林の中で俺はジェラルドに話しかけた。
「なぁ、お前ってノーランドと知り合いなのか?」
「まぁね、彼も一応……天使の一人だよ」
「え?
じゃあ、なんでここに?」
「僕はあまり分からないんだけど、人が好きだとか昔言ってたような気もする……」
変わり者だよ、と呟くと大きく息を吐き出した。
俺らからしたらお前ら、天使の方が何百倍も変わっているけどな、という言葉を心の中で吐きすてると、俺の二、三歩前を歩くジェラルドの後ろをついて歩いた。




