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36, 森を後にして

ああ、なんて混沌とした光景。

御者台に腰かけ、赤い目をこするカナリー・ジェルク。その隣には、いつの間に仲良くなったのか、キーリカ・ランが呆れたような面持ちで座っていた。二人とも、まだこちらには気づいていないようだ。

それにしても、私は関係ないわよ、と御者ソムドにもらったのだろうココナッツを食べるエスメラルダさんのそっけない態度はいっそ清々しい。ソムドはその隣で、困ったような笑みを浮かべている。

ああそして、目の前に鬼の形相で立ちふさがるルシアーノ・ケイト。私たち友達だよね、とそんな言葉をかけたら烈火のごとく叱られるに違いない。


うん、違いない。



エリシア・シュレイルは、とりあえず場を和ますために言ってみた。


「えーと、ただいま戻りました」


その声に、はっとキーリカが振り返った。エリーの背に負われた少年の姿を認め、駆け寄ってくる。


「エト!」


ああよかった、エトくんで大正解だったようです。


ソムドも近くにやってきたので、エリーはエトの容態を確認してほしいと頼んだ。キーリカは何か言いたげに見上げてきたが、ルシアーノとエリーの顔を交互に見やって彼女なりに状況を理解したのだろう、エトを抱きかかえたソムドに付いていった。カナリーはその周りを、心配そうな面持ちでうろうろしている。

これにて一件落着――


「……さて、エリー。おれとちょっとお話ししようか」


ルシアーノさん、目が笑っていません。

エリーはその言葉を、かろうじて飲み込んだ。












~~~


少し、時間をさかのぼる。

エリーがナリカ・ウルカの森で、啼魔猫(コーリング・キャット)に襲われそうになったところを、黒く美しいものに助けられたあとのこと。



黒く美しいものは、首だけ振り返った格好からくるりと体ごと向きを変えて、ぐるぐると嬉しげに喉を鳴らし、大地を揺らしながら、たった数歩の距離を詰めエリーに近づいた。魔物の肉塊は、エリーが恍惚と自らを見つめている隙に、茂みの向こう側に蹴っ飛ばしていた。


ぐるる、と嬉しげに喉を鳴らし、美しいものはエリーに顔を寄せた。黒く艶やかな鱗に覆われたその頭部には緩く曲線を描いた長い突起――角のようなものが生えていて、鋭利な爪と同じ、銀色に鈍く光を放っている。蜥蜴には二足と四足と二種の区別があるが、その美しいものは完全に前者の形を取っていて、今はエリーの視線と合わせるために、後脚よりも幾分か細い前肢も地面に着いていた。


「ふあ…」


カッコいい。その一語に尽きる。これぞ世界の宝、キング・オブ・蜥蜴。間違いなく、それは以前、森で少女と共に自分を救ってくれた存在に違いない。しかしこれほど近くで(まみ)えたのは初めてのことで、エリーは今にも、魂が感嘆のため息とともに、体から抜け出てしまいそうな心地がしていた。


ぐるる…


美しいものは低く鳴いて、紅玉のような瞳でエリーを見つめる。エリーは頬をカアッと赤らめ、「あの、その」ともじもじしている。

美しいものは、ご機嫌そうに尻尾を左右に揺らし、校舎裏に呼び出された少年のように、期待感に満ち満ちた様子だったが、相変わらず「あの、その」と行動に移せないエリーに焦れたのか、その分厚い舌でエリーの頬を舐め上げた。


「ひゃっ」


エリーが短い悲鳴を上げ、押された衝撃で後ろに倒れかけた。ぎゅっと目をつむり、――その瞬間、美しいものの頭に、スコンと音を立てて木切れが命中する――予想した痛みの代わりに、何か柔らかいものに包まれて、エリーはぽかんと口を開けた。


「へ?」


脳裏に疑問符を浮かべたまま、ついと視線を動かすと、見覚えのある顔が視界に現れた。


「エリたん、大丈夫?」


黄白色の髪に、透明感のある白い肌、赤い唇。人形のような容姿と、モノクロの装い。灰色のフレアスカートは、風もないのにはためいている。奇怪な苔むした森の景色とその姿に、違和感がぬぐえなかった。


「シシィ、さん?」


見知らぬ森で助けてもらった時以来ですね――という気の利いた言葉は出ない。なんでここに、と言わんばかり、エリーは困惑顔を呈する。あれ、それじゃあもしかして、とある推測が閃く。


「きゃー、エリたん久しぶり、かわいい~! すきー!」


とぎゅうぎゅう抱きしめてくるこの美女がここにいるのならば、もしや――と、木切れが飛んできた方を見やった。


「えーっと、フィルさん?」


案の定、爽やかな笑みを浮かべた青年がいた。柔らかそうな茶の髪に、穏やかな色を灯した緑の瞳。気味の悪い森が一瞬、若葉色に輝く草原に見えて、エリーはごしごしと目をこすった。改めてみれば、やはりそこは奇怪な森だ。怪訝そうにエリーを見つめる彼の腕には、ぐったりとした子供が抱かれている。

青年――フィルは「久しぶり」と目を細めた後、子供の顔がエリーに見えるように抱きなおした。

年齢は五歳くらいだろうか。さらさらの亜麻色の髪は、キーリカ・ランのそれを彷彿とさせる。そうであってほしいという期待もあるが、おそらく探していた少年――エトに違いない。かすり傷はいくつか見受けられたが、大事なさそうでホッと胸をなでおろし、エリーはこれまでの経緯を簡単に説明した。



「そう。大変だったね」


フィルはそう言うと、ふとエリーの手にある引っかき傷に視線を止めた。とたん顰められた眉の動きを見て、エリーはとっさに話題を変える。


「え、えっと、お二人がここにいらっしゃるということは、もしや」


その先は言わずと知れたらしい。

「あー…」とフィルは苦り切った顔で頷き、エリーの肩越し、後方に視線を移す。エリーもそれに倣えば、――そこには、むっつりと不機嫌そうな雰囲気を纏った美しいものが座り込んでいた。じとりと注視してくる紅玉の瞳。まさか……。


「………れ、レンノさん?」


躊躇いがちに呼んだところで初めの内は身じろぎすらせず、ただじっと睨みつけてくるだけだったが、三度ほど繰り返して呼べば、ようやく美しいものはのっそりと立ち上がった。たいへん不機嫌である。その表情からはそんな感情が読み取れた。


「レンノったら、何拗ねてるんだか」


フィルの苦笑に、美しいものは不機嫌そうに唸る。バシンと尻尾を地面に叩きつけ、土ぼこりが立った瞬間、ボフンと音を立てて人型となった。怒声を上げながらフィルに詰め寄るその姿は、予想を裏切らない。


「フィルおまえ、よくもオレさまにあんなもの投げつけやがったな…!」


黒いズボンに黒のジャケット。黒の髪色と赤い瞳は確かに、美しいものと同じ色合いだった。理解がどうにも追いつかないが、“イコールレンノさん”と当てはめて正解らしい。


フィルは腰に手を当て、ふぅと盛大な溜息を落とす。


「断りもなくエリーを舐めたりするからだよ。ただでさえ大きな体なんだから、行動するときは色々と考えないと。エリーが倒れていたらどうするつもりだったの? シシィが受け止めたからよかったものの…」


ぶつぶつと小言を言い始めたフィルに、「んだと?!」とレンノが噛みつく。懐かしくもどこかほほえましい二人の様子を見て、エリーはうっすらと笑みを浮かべた。さきほどの世界の至宝との邂逅は、もしや夢だったのかな、という現実逃避めいた笑みだ。ふふ、と声が漏れたところで、ぐいと両頬をつかまれ――目の前にシシィの上気した満面の笑みが飛び込んでくる。


「ああ! なんてかわいい笑み! おねがいエリたん! わたくしにもフフってして! それからぎゅっとして、ちゅっとして! あぁどうしましょう! やっぱりわたくしがするわ! んんーっ、ぎゅーっ!」

「う、ぐぇ…」


大興奮な様子のシシィに羽交い絞めにされ、息苦しさにあえぐ。もしや今、現実逃避ではなく現世から遠ざかる危機に陥っているのではないか。軽く白目を剥きつつ、エリーは冷静に思う。


「か・ら・の、ほっぺに、」

「させるかアホ女! いい加減エリーから離れろ!」


レンノの叫び声とともに、エリーの体から絞り上げるような拘束力が退いた。よろよろとその場に座り込む。そろりと見上げると、冷笑と浮かべたシシィと、苛立ちも露わなレンノがにらみ合っていた。


「エリー、大丈夫? とりあえず、あまり時間もないことだし、色々と説明したいことがあるんだけど」


心配そうな声色が降ってきた。ふと見上げると、フィルが困ったような顔で覗き込んでいる。


「色々と、説明?」

「うん、レンノのこととか、僕たちのこととか」


――確かにそうだ。あまりにも非現実的なことが重なりすぎて、そういうものかなと納得しそうになっていた。あぶない、あぶない。きょとんとした表情を引っ込めて得心が行ったように頷きつつ、内心ため息をつく。


そもそもなぜ三人がここにいるのか。偶然居合わせたというのは、無理があるだろう。レンノが現れた陣のようなものも気になる。というより彼は何者? 蜥蜴になることができる人? まさか自分の妄想だったりして…? 


「あーえっと、エリー? とにかく落ち着こう」


フィルは抱いていたエト少年を柔らかな草地に寝かせると、そう口を開いた。地面に横たわった古木の上に腰かけ、エリーに隣に座るように促す。エリーが座り、残る二人にちらと視線をやって、口火を切った。


「まず、僕らはあまり長くこの場に留まることはできない。だから手短に説明するよ。理解が追い付かないこともあるだろうけれど、それはひとまず置いておいて、そういうものだと受け取ってほしいんだ。ここまでは大丈夫?」

「は、はい。わかりました」


真剣な声色に、エリーは無意識に姿勢を正す。その様子にフィルはくすりと笑みを漏らした。


「薄々気づいているかもしれないけど、エリーには莫大な魔力(マナ)が宿っているんだ。人一人がそう簡単に制御できる力じゃない。だから、あの森に行くまで、その力は完全に封じられていた。天空(シエロ)で、初めて魔物に対峙した時のことを覚えているね。あのとき、危機に陥ったエリーは、無意識にその力を使ってしまったんだ。具体的に言うと、召喚してしまったんだ。――守り手たる、僕らを」


「…………」


だめだ。この時点で色々と聞きたいことがありすぎる。

エリーは引きつりそうになる表情を必死に抑え込めた。


莫大な魔力(マナ)? 腕を伸ばして「これくらいですの」ではなかったのか。いや、それがトマなりの“莫大”だとしたら嘘ではないが、受ける印象が違いすぎる。莫大って何だろう。しかもそう簡単に制御できる力じゃないと。封じられていたと。なにそれ怖い。いや、使ってしまった(・・・・・・・)とか…。使った自分が悪いんだろうけれど、そんなあらすじ程度の説明に留めていい現実なんだろうか。そうして召喚してしまった(・・・・・・・・)らしい、守り手とやらがフィルさんたちで――蜥蜴の平和を守っているわけではないことは流石に分かった。流れから察して、封印の守り手だろう。ものすごく重大な事実を告白されたような気がする。気を失っていいだろうか。


「僕らは封印の要であって、そもそもこちら(・・・)に降りて力を行使する立場にない。だけどあの時は、エリーが危機感を覚えて、その力を無意識に使ってしまったんだ。もちろん、エリーがその意志をもって力の行使をするのは問題ないんだけど、無意識というのが厄介でね。まあ、だから僕らは切り札ともいえるんだけど…。封印のことはどう言っても仕方がないね。何より大切なのは、エリーが生きていることなんだから」


フィルの慰めに、エリーはぎこちなくほほ笑んだ。力を使わなければ今頃自分はここにいなかったのだから、致し方なかったのだろう。そう納得するほかない。

現状、封印とやらは完全なものじゃなくなっており、自分一人の生命の危機でいちいちビクついていたら、そのうちそれ以上の災厄に見舞われる。それがどんなものかは想像さえできないが、なんとしても避けなければならないことなのだろう。これからどうするべきか、少しわかった気がする。危険を避けるのは勿論だが、護身の術も身につけなければならない。


「……私の中にあるその力は、恐ろしいものなんですか?」

「使い方によってはね。何しろ、強大なものだから。エリーの身の内にあることは、知られちゃいけないんだ。誰にもね」


知られてはいけない。その言葉が重くのしかかる。


「ただ、もうすでにエリーが魔力(マナ)持ちだということは知られているから、エリーが制御可能な分を使うのは特に問題ないと思うよ」


エリーの現状を鑑みて察したのだろう、フィルはにっこりと笑ってそう付け足した。


「術…ですか」


そうだ。術。何か護身の……逃げ足を速くする術ならどうだろう。今回の件ならば、エトくんを抱いてさっと森を走り抜けて逃亡する術があれば、自分一人でも対処できそうだ。それっぽい何かがあれば、ルシアーノさんに教えてもらおう。


「そうですね。ちょうど師匠もいることですし、何かしら頑張ってみます」


こぶしを握り締めたエリーに、フィルは「ほどほどにね」と返した。どうも危なっかしく思えたらしい。


「とりあえず、僕らに会ったことは内緒ね。通りすがりの人に助けてもらった。んー、それだとちょっと無理があるかなあ。でもそれくらいしか思いつかないし…。まあ、エリーなら何とかなるよね」

「え」

「大丈夫よ、エリたんなら!」

「ゴリ押ししろ。それしかないな」


隠せといった割には、そのあたり適当なんだな。エリーはそう思ったが、反論する気も起らず、とりあえず頷いておいた。







~~~


そんな流れがあり、ルシアーノには「通りすがりの人に助けてもらった」と説明してみた。


「通りすがりの人…。通りすがりの人ねぇ…」


あからさまに疑われている。だが、予想の範囲内だ。打つ手はないので、ゴリ押しするほかない。エリーのあまりの必死さに、先に折れたのはルシアーノの方だった。


「ま、いいよ。とりあえず無事だったし。弟も見つけたことで、一件落着にしておいてあげるよ」

「あ、ありがとうございます…!」


ほっとして涙目になったエリーを見、ルシアーノは盛大な溜息を落とす。もう一言二言説教を垂れるつもりだったが、その気が挫かれたらしい。心の底から安堵したエリーだった。




その日はそのまま、当初の予定通り、近くの村――エシ村に滞在する運びとなった。キーリカに話を聞けば、彼女は村長の孫だという。ぜひうちに泊まってほしいと彼女が言うので、少なくとも今夜の宿については何の心配もいらないだろう。村へと向かう蜥蜴の手綱は、礼もかねてキーリカが取ることになった。ルシアーノはやや渋ったものの、エリーのほうをちらちらと見やるキーリカの様子に何か察したのか、結局了承した。


「ねぇ、エリー。キーリカとなら御者台に二人並んで座れるんじゃない?」


御者台からの景色に憧れていたことはすでに知られていたらしい。ソムドと並ぶほどの幅はないが、キーリカならば可能だろう。なるほど、ちょっと薄暗いのが難点だが、またとない機会である。いつになく迅速に判断して、エリーは嬉しそうに提案に乗った。



「……ねぇ、その、何してるの?」


エリーとキーリカ、二人並んで御者台に座り、エスメラルダが歩き出して数分、うっとりとそのつややかな鱗に見とれていたエリーに、キーリカは躊躇いながらそう尋ねた。


「一言で説明するのは非常に難しいですね。あえて言えば、真後ろから見たエスメラルダさんの気高く清らかな身体を、あますことなくこの魂に刻み込んでいた、とでもいいましょうか」

「は?」

「ああ、今が晴れ晴れとした青空の広がる昼間だったら! 眩しいほどの陽光に照らされた艶やかな鱗の輝きに目を奪われ、愛らしい鳴き声に耳を傾け、美しい大地と空、そしてエスメラルダさんの共演に心躍らせることができたのに…。ああ、でも夕暮れの中のエスメラルダさんも素敵…!」


エリーはひとり、うんうんと満足げにうなずいた。エスメラルダはちょっと嬉しそうに何度か高く鳴いた。キーリカから反応はない。彼女をおいて一人興奮してしまったらしいと気が付いて、エリーはようやく冷静さを取り戻した。蜥蜴の話が万人受けしないのはさすがにわかっていた。


「え、ええと、ごめんなさい。蜥蜴のことになると、人よりちょっと周りが見えなくなるというか…」


おろおろと言い訳するエリーに、キーリカがぶっと噴き出した。


「ちょっとっていうか…ふふ、変なの。蜥蜴、そんなに好きなのに、運転できないんだ? 乗るのは?」

「どちらもだめです。人に止められるくらい深刻で…」

「え…それはかなりひどいのね…」

「だから、キーリカさんには憧れちゃいます。御者台からの景色って、想像していたよりずっといいですね。ここならエスメラルダさんとも近いし、いつでも話ができて、ずっと見ていられます」


エリーは真顔でそう言った。キーリカは口元を引きつらせた。


「いや、たぶんずっと見てたらだめよ。前見て、前。進行方向。もしや、それが原因なんじゃ…」


どうやら彼女なりに、エリーの現状を察したらしい。その横顔は、なんだかひどく残念そうだった。


「と、とにかく、ソムドさんって人もいるし、あ、あたしだって運転できるし…その、いいんじゃない?」


そんな言葉に、エリーは驚いて目を丸くした。“できなければ半人前”と主張していた彼女が、一体どういう心境の変化だろうか。よほど自分の状況は悲惨だと思われたのかもそれない。それはそれで悲しいお知らせだ。


「その、言いたかったのはそれだけじゃなくて、ええと…ごめんなさい。それと、ありがと。エトのこと、助けてくれて」


視線はまっすぐ前方に向けたまま、キーリカはそう言った。その耳と頬はほんのり赤く染まっている。エリーはきょとんとして、すぐに嬉しそうにほほ笑んだ。結局のところ、エトを助けたのは自分ではないし、自分の行動が礼を言われるに値するとは思わない。ただ、その結果が彼女を安心させることにつながったのならば。


「どういたしまして。それと、ありがとうございます」


そう言わずにはいられなかった。












~~~


翌日の早朝――まだ辺りはうっすらと暗いベールに包まれている時間、ルシアーノ・ケイトは森にいた。彼以外は、おそらく村長宅でぐっすりと眠っているだろう。


「さて、と。このあたりかな…」


魔力(マナ)の残滓を辿ることは、その力が強ければ強いほど容易だ。迷うことなくたどり着いたその場所には、ある程度予想してはいても、ぎょっとせずにはいられない光景が広がっていた。


「……啼魔猫(コーリング・キャット)が真っ二つ…ね」


ふわりと、彼の肩のあたりに契約精霊ノルヴァが浮遊し、猫の死体を覗き込むと、主人を振り返り、何か言った。


「うん、まあ、そうするほかないね。――頼むよ」


頷きを返し、ノルヴァはその場から消えた。しばらくして、ルシアーノも猫の死体に背を向け、元来た道を戻り始めた。


森編、これで一区切りつきました。

読了ありがとうございました!

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