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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第七十七話:酔いどれエースの迷走と、砂浜のロンド

「えへへぇ〜。りあんぬしゃま、いい匂いするぅ〜。すっごい柔らかい〜。ここが天国かぁ〜」

第7星区が誇る最高級リゾート惑星『アクアリア』のプライベートビーチ。

傾きかけた西日がエメラルドグリーンの海を黄金色に染め始める中、傭兵団『戦乙女ヴァルキュリア』が陣取る休憩スペースでは、この世の終わり(あるいは限界オタクの到達点)のような光景が繰り広げられていた。

アルコール度数70%を誇る超強力な地元特産ラム酒『アクアリアン・ブラッド』を、甘いフルーツジュースと勘違いして一気飲みしてしまった黒き死神、ローゼリア。

彼女の顔面は茹でダコのように真っ赤に染まり、焦点の合わないトロンとした瞳には、日頃の「気高き主君」としての威厳など微塵も残されていなかった。

ローゼリアは、純白のビキニ姿のリアンヌの腰にコアラのようにしがみつき、その豊満でマシュマロのように柔らかな『白銀の双丘』に、これでもかと顔を埋めてぐりぐりと頬を擦り付けている。

「ひ、姫君……っ! ああっ、そこは、その……っ! 皆が見ておりますから、どうかお顔を上げて……っ!」

リアンヌは顔から火が出るほど赤くなり、オロオロと視線を彷徨わせていた。

主君からこれほどまでに甘えられ、密着されることは、彼女の忠誠心(と隠しきれない愛情)を満たすには十分すぎるほどの出来事である。しかし、いくらなんでも場所が公衆の面前(身内しかいないとはいえ)であり、しかもローゼリアの手が時折、リアンヌの引き締まった腹筋や腰のラインをいやらしく(本人は無意識に推しの造形を確かめているだけなのだが)撫で回すものだから、リアンヌの理性は既にメルトダウン寸前であった。

「だぁめぇ〜。りあんぬしゃまは妾の推しなんじゃもん。誰にも渡さん〜。ああ、SSRのリアンヌ様……課金しなきゃ……ガチャ回さなきゃ……」

「が、がちゃ……? エスエスアール……? ひ、姫君、何を仰っているのか分かりませんが、私の身も心も、とうの昔からすべてあなたのものですから……っ!」

意味不明な限界オタクのうわ言(専門用語)を、絶対の忠誠心というフィルターで強引に解釈し、感極まってローゼリアを抱きしめ返すリアンヌ。

百合の花が乱れ咲くような、しかし片方は完全に泥酔しているというカオスな空間。

「……はぁ。もうダメだこの傭兵団。うちの看板である『最強のエースパイロット』がポンコツのアル中(下戸)だなんて、帝国軍に知られたら明日には依頼が全部キャンセルされるぞ」

特大の胃薬をボリボリとラムネのように噛み砕きながら、ブリュンヒルデ団長はサングラスの奥で深いため息をついた。

いくらローゼリアが神話の力を持ち、銀河最強の死神として恐れられていようと、傭兵団のトップ(団長)はブリュンヒルデであり、ローゼリアはあくまで一介の(規格外すぎるが)エースパイロットに過ぎない。その稼ぎ頭がこの体たらくでは、胃に穴が空くのも無理はなかった。

「あははははっ! いいじゃん団長、平和でさ! お姫様、完全に理性が飛んでるぜ!」

ランドグリーズが、腹を抱えて砂浜を転げ回っている。

「……ええ、極めて貴重なデータです。あの無敵のエースの弱点が、度数70のラム酒一杯だとは。これでいつでも彼女の主導権を握れますね」

オルトリンデは、自前のカメラ付きドローンを三機ほど展開し、ローゼリアのデレデレな醜態を多角的に、かつ超高画質で記録レコードし続けていた。

そんな姉妹たちの笑い声が、泥酔したローゼリアの耳に届いたのか。

ローゼリアは、リアンヌの胸の谷間から「むぎゅっ」と顔を引き抜くと、真っ赤な顔でむすっと唇を尖らせた。

「……むぅ。お前ら、妾のことを笑っておるな……?」

「そりゃ笑うだろ。さっきから『推しが尊い』だの『アクスタにして飾りたい』だの、わけわかんねぇこと口走ってリアンヌにすりすりしてんだからよ」

ランドグリーズのツッコミに、ローゼリアはカッと目を見開いた。

「わ、妾は酔ってなどおらん!! ちょっと、そう、ちょっと魔力炉の出力が不安定になっただけじゃ!」

ローゼリアは、自身の威厳を取り戻すべく、リアンヌから離れて砂浜にスッと立ち上がろうとした。

——しかし。

「おっとっとっと……!」

立ち上がった瞬間、彼女の足はまるで生まれたての子鹿のようにガクガクと震え、クロスステップを踏むように盛大にもつれた。

右足が左足の甲に乗り上げ、そのまま自重を支えきれずに前傾姿勢に崩れ落ちる。

「わわっ、姫君! 危ないッ!」

リアンヌが慌てて手を伸ばし、地面に顔面から突っ込む寸前のローゼリアを抱き留めた。

「ふ、ふふん……! 見たか、この高度なフェイントを! 敵の攻撃を避けるための、妾オリジナルの回避ステップじゃ!」

「……ええ、素晴らしいステップです。見事に自分自身の足に引っかかって自滅する、前代未聞のフェイントですね」

ロスヴァイセが、冷たいカクテルを啜りながら容赦のないツッコミを入れる。

「う、うるさいっ! 妾の運動神経を舐めるな! さっきのスイカ割りは砂が滑っただけじゃ! 今度こそ、妾の完璧でクールでスタイリッシュなスポーツ万能っぷりを、リアンヌ様に見せつけてやるのじゃ!」

完全にアルコールが脳内麻薬と化し、自身を「無敵のスポーツ万能ヒロイン」だと錯覚し始めたローゼリアは、フラフラと覚束ない足取りで、ランドグリーズたちが遊んでいた道具が置かれている場所へと向かった。

(ふはははっ! 酔拳という言葉があるように、酒を飲めばむしろ身体の力が抜けて、究極の運動神経が発揮されるというものじゃ! ここで超絶美技を披露し、リアンヌ様のハートを完全に射抜いてやるわ!)

脳内の妄想だけは銀河を征服できそうな勢いのローゼリアが目をつけたのは、色鮮やかな『フライングディスク(フリスビー)』であった。

「これじゃ! これを投げる! ランドグリーズ、あっちへ行け! 妾の『神話級・超絶カーブスロー』を受け止めてみよ!」

「お、おう? わかったけどよ……お姫様、まともに立ててすらいないじゃねぇか」

ランドグリーズが苦笑しながら、二十メートルほど離れた砂浜に立つ。

「案ずるな! さあ、行くぞ!」

ローゼリアは、フリスビーを右手にしっかりと握りしめた。

しかし、彼女は絶望的なまでの運動音痴ポンコツである。そこに「泥酔」という極悪なデバフが掛かれば、結果がどうなるかなど火を見るよりも明らかだった。

ローゼリアは、カッコよく円盤を投げるため、プロの選手のように身体を大きく捻ってテイクバックの姿勢をとった。

——が、その瞬間。アルコールによって平衡感覚を完全に失っていた彼女の三半規管が、悲鳴を上げた。

「……あら? 世界が、回って……」

捻った身体の反動を足腰で受け止めることができず、ローゼリアはフリスビーを持ったまま、その場でフィギュアスケートの如く『クルルルルッ!』と三回転半(540度)の高速スピンを披露してしまったのだ。

「えっ? お姫様、なんで投げずにその場で回ってんだ!?」

ランドグリーズが驚きの声を上げる。

「と、止まらぬぅぅぅっ! 目が、目がぁぁぁっ!」

きりもみ回転をしながら、ローゼリアはパニックになってフリスビーを手放した。

遠心力によって手から離れたフリスビーは、ランドグリーズの方向へ飛ぶわけもなく、真上——ローゼリアの頭上数十メートルの上空へと垂直に打ち上げられた。

「あ、投げた!」

「いや姉さん、真上です」

そして、回転の勢いで目を回し、そのまま「あべばっ」と情けない声を上げて仰向けにぶっ倒れるローゼリア。

その数十秒後。

重力に従って落下してきたプラスチック製のフリスビーが、倒れて星を見上げているローゼリアの額のド真ん中に——。

カコォォォォンッ!!

と、見事なまでにクリーンヒットした。

「…………いったぁぁぁぁぁぁいっ!!!」

「ぷっ……あはははははっ!! なんだよ今の!! 自分で投げて自分で自分にヘッドショット決めるとか、どんな高度なギャグだよ!!」

ランドグリーズが腹を抱えて砂浜をバンバンと叩く。

「ひ、姫君ィィィィッ!! 救護班! すぐに医療ポッドを手配しろ!! 姫君のお顔に傷がァァッ!!」

リアンヌは半狂乱になってローゼリアに駆け寄り、フリスビーを遠くへ投げ捨てて、赤くなったローゼリアの額に涙目でキスをして痛みを和らげようとしている。

「うぅぅ……ち、違うんじゃ! 今のは風が……そう、アクアリアの気流が乱れていたせいで……!」

「無風でしたよ、お姫様。見事な自爆でした。録画データ、永久保存版に指定しました」

オルトリンデが、眼鏡を光らせながら無慈悲な事実を突きつける。

(く、くそぉぉぉっ! なんでじゃ! 脳内では完璧なフォームでフリスビーが虹色の軌道を描いて飛んでいく予定だったのに! 妾の身体が、妾の思い通りに動かん! これが……酒の魔力か!)

いや、酒を飲んでいなくても運動神経はゼロなのだが、今のローゼリアはすべての責任をアルコールのせいにするという、駄目な大人の典型的な思考回路に陥っていた。

「ま、まだじゃ! 妾の真の実力はこんなものではない! 次じゃ、次を持ってこい!」

リアンヌの腕の中から抜け出したローゼリアは、涙目で周囲を見渡し、次なる「自分でもできそうなもの」を探した。

そして彼女の目に止まったのは、波打ち際でロスヴァイセが優雅にワックスを塗っていた、一枚の『サーフボード』であった。

「そ、それじゃ! 妾は波乗りが得意なんじゃ! 神話の時代から、龍の背に乗って宇宙の波を乗りこなしてきた妾にとって、サーフィンなど赤子の手をひねるようなものじゃ!」

「……お姫様。龍の背に乗るのと波に乗るのは、物理法則が全く異なりますが」

ロスヴァイセの冷静なツッコミを無視し、ローゼリアはサーフボードをひったくると、あろうことか『波打ち際から遠く離れた、乾いた砂浜の上』にボードを置いた。

「さあ、見よリアンヌ様! 妾の完璧でクールな、死神のサーフィン(陸上)を!!」

「え? ローゼリア、海に入らずにどうやって……?」

不思議そうに見つめるリアンヌを他所に、ローゼリアはボードの上にエイヤッと飛び乗った。

「ふはははっ! 妾の魔力でボードを浮かせれば、砂の上だろうが宇宙空間だろうが波乗りし放題じゃ! 【反重力フロート】!!」

なんと、ローゼリアは泥酔した状態のまま、自身の莫大な魔力を使ってサーフボードの下に反重力場を発生させ、ボードごと砂浜から数十センチ空中に浮き上がらせたのだ。

「おおっ!? まさかの魔力によるホバーボード化!?」

ランドグリーズが目を丸くする。

「ふふん! どうじゃ! これで妾も波乗り(オフトレ)の達人……うおっ!?」

しかし、ここで彼女は致命的なミスを犯していた。

浮力は発生させたものの、推進力と『姿勢制御』の計算を、酔っ払った脳みそで完全に忘れていたのだ。

ボードは摩擦ゼロの状態で空中に浮き上がった瞬間、ツルッ、と石鹸を踏んだかのようにローゼリアの足元から勢いよく滑り出した。

足場を失ったローゼリアは、漫画のキャラクターのように空中で数秒間ジタバタと手足を動かし。

「あ、あわわわわわわわッ!?」

そのまま、空中で見事な後方宙返り(バックフリップ)をキメながら——。

ズドシャァァァァァァァァンッ!!!!

オルトリンデが精魂込めて作り上げていた『超精密な砂の城(アクアリア城の実測スケールモデル)』のド真ん中へと、顔面から一直線にダイブしたのである。

「あ……私の、制作時間3時間の傑作が……」

オルトリンデが、粉々に崩れ去った砂の城を見て、ポツリと呟いた。

「…………」

「…………」

砂山の中から、ローゼリアの二本の足だけがピーンと突き出し、ピクピクと痙攣している。

「……ぷっ。ひーっ! 腹痛てぇぇぇっ! なんであんなに見事に自分から罠にハマりに行くんだよ!!」

ランドグリーズはついに呼吸困難に陥り、砂浜を転げ回っている。

「ロ、ローゼリアァァァァッ!! 今助けます!!」

リアンヌが再び半狂乱になって砂山にダイブし、砂まみれになったローゼリアをスポーン! と大根のように引き抜いた。

「ごふっ、けほっ、けほっ……! す、砂が、口に……!」

「ああ、お可哀想に……! 私の胸で、いくらでも休んでください!」

リアンヌは、涙目でローゼリアの顔の砂を払い、そのまま自分の豊満な胸へと顔を押し付けて強く抱きしめた。

「むぎゅぅぅぅっ……」

(……あ、やばい。またしても推しの胸にダイレクトアタック。運動音痴、バンザイ。もう妾、一生スポーツなんてしなくていい。この胸の中で一生を終えたい……)

酒の勢いも相まって、ローゼリアの思考は完全にピンク色(限界オタクの極み)に染まり切っていた。

しかし、アルコールによる高揚感は、ここで彼女に「さらなる暴挙」を思いつかせてしまった。

(そうじゃ! 海辺のデートと言えば……アレじゃ! 少女漫画や恋愛ドラマで必ず出てくる、あの王道のシチュエーション! 今の妾とリアンヌ様なら、絶対に最高の絵になるはず!)

ローゼリアは、むくっとリアンヌの胸から顔を上げ、トロンとした瞳でリアンヌを見つめ上げた。

「り、リアンヌ様……」

「はい、ローゼリア。なんでしょうか?」

「あ、あははははっ……! 待てぇ〜、捕まえてごらん〜っ!」

ローゼリアは突然、裏声のような妙に高い声(ヒロインを意識した声)を出しながら、リアンヌから離れて波打ち際へ向かって走り出した。

いわゆる、『海辺の追いかけっこ』である。

「えっ!? ローゼリア!? どこへ行くのですか!?」

突然の奇行に戸惑うリアンヌ。

「あはははっ! ほらほら〜、早く捕まえないと、波にさらわれちゃうぞ〜っ!」

(ふはははっ! これじゃ! これぞ海辺の青春! 後ろからリアンヌ様が『待ってください姫君〜!』と追いかけてきて、波打ち際でキャッキャウフフと抱き合う! 完璧なシナリオじゃ!!)

しかし。

何度も言うが、ローゼリアは泥酔している上に、絶望的な運動音痴である。

砂浜を走るという行為は、アスリートであっても足を取られる難しい運動だ。それを、生まれたての子鹿のようなステップで走る泥酔者がやれば、どうなるか。

「あはははっ、ほらほ……あべっ!?」

走り出してわずか三歩。

ローゼリアの右足が、自分の左足の踵に見事にクリーンヒット。

足が完全に絡まった彼女は、もはや受け身をとることもできず、斜面になっている波打ち際に向かって、ゴロゴロゴロゴロ……ッ!! と、まるで転がるタンブルウィード(回転草)のように転がり始めた。

「わわわわわわわッ!?」

「ひ、姫君ィィィィッ!! 待ってください! 今お助けしますッ!!」

リアンヌが血相を変えて後を追うが、転がるローゼリアの速度は異常に速かった。

ゴロゴロゴロゴロゴロ……バッシャァァァァァァァァァァンッ!!!!

「ぶくぶくぶくっ……!!」

ローゼリアは、勢いよく回転したまま浅瀬の海へと突っ込み、顔面から豪快に水飛沫を上げて沈没した。

「ロォォォォゼリアァァァァッ!!」

リアンヌは躊躇なく海へとダイブし(水深は膝下くらいしかないのだが)、水没してジタバタと溺れかけているローゼリアを、凄まじい勢いで抱き起こした。

「ぷはぁっ!! げほっ、ごほっ……! じ、死ぬかと思った……!」

頭から海水をかぶり、漆黒のフリル水着も髪もビショビショになったローゼリア。

その彼女を抱きしめるリアンヌもまた、純白のビキニと銀髪が濡れそぼり、水も滴るような色気を放っていた。

「ローゼリア……! 無事で、無事でよかった……! 突然走り出すから、心臓が止まるかと思いました……!」

リアンヌは、濡れた髪が顔に張り付くのも気にせず、ローゼリアの無事を喜んで涙をポロポロと流し、ぎゅっと強く抱きしめた。

濡れた肌と肌が密着し、お互いの体温がダイレクトに伝わってくる。

「……あ、あ、ああ……」

その瞬間、ローゼリアの脳内で、アルコールと尊さの致死量が完全に臨界点を突破した。

目の前には、自分を心配して涙を流す、水に濡れたSSR(最高レアリティ)のリアンヌ様。

夕日に照らされ、彼女の白い肌と水滴がキラキラとダイヤモンドのように輝いている。

(尊い……尊すぎる……!! なんだこの神作画……! 運営(神)、ありがとう……! このスチル、絶対に保存しなきゃ……!)

完全に限界オタクの思考の海に沈んだローゼリアは、焦点の合わない目でリアンヌの頬に手を伸ばし、蕩けたような声で呟いた。

「りあんぬしゃま……しゅき……。アクスタ……30個買うから……サインして……。あと、りあんぬしゃまの、お風呂のお湯……ペットボトルに詰めて売って……全財産出すから……」

「へっ? あ、あくすた? お風呂のお湯……?」

意味不明な要求に、リアンヌは目を丸くした。

しかし、白銀の騎士の脳内変換機能は、今日も通常運転(異常)であった。

「そ、そこまで私を……! 私のすべてを、お求めになるというのですね……っ! わかりました! 姫君が望むなら、私のお風呂のお湯など、樽に詰めて毎晩献上いたします!!」

「えへへぇ〜。やったぁ〜。りあんぬしゃま、いい匂い〜……」

ローゼリアは、至福の笑顔を浮かべたまま、リアンヌの豊満な胸の中でスヤァ……と、完全に意識を手放して眠りに落ちた。

「ひ、姫君? ローゼリア? ……ああ、なんて愛らしい寝顔……。私が、お部屋までお運びしますね」

リアンヌは、濡れたローゼリアをお姫様抱っこし、愛おしそうに微笑みながらホテルへと歩き出した。

その光景を、ビーチの遠くから見ていたブリュンヒルデ団長は、本日十錠目の胃薬を飲み込みながら、深く、深いため息をついた。

「……あの二人、もう結婚させた方がいいんじゃないか?」

「同感です。……さて、この動画、後でいくらでお姫様に売りつけましょうか」

オルトリンデが、手元の端末で『ローゼリア自爆・奇行・風呂の湯要求コンピレーション動画』を保存しながら、黒い笑みを浮かべていた。

翌朝。

ホテルの最高級スイートルームのベッドの上で。

強烈な二日酔いと、頭痛で目を覚ましたローゼリアは、傍らで「お目覚めですか、ローゼリア。お白湯をご用意しました」と優しく微笑むリアンヌの姿を見て、ホッと息を吐いた。

しかし、その直後。

部屋の大型モニターが突然起動し、オルトリンデの冷徹な声と共に、昨日の『自分自身にフリスビーをぶつけて倒れる姿』『サーフボードで砂の城にバックドロップする姿』『三歩で転んで海に落ちる姿』そして極めつけの『リアンヌの風呂の湯をペットボトルで要求するデレデレの姿』が、超高画質のマルチアングルで大音量と共に再生され始めた。

「——い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!! 違う! これはディープフェイクじゃ!! 妾のダークでクールな威厳がぁぁぁぁっ!! 消せ! 消してくれェェェェッ!!」

アクアリアの美しい朝の空に、黒き死神の絶望に満ちた叫び声が、いつまでも虚しく響き渡るのであった。

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