第七十三話:二人きりの買い物と、白銀の最新装甲
青く澄み渡る空と、太陽の光を反射して煌めくエメラルドグリーンの海。
第7星区の誇る最高級リゾート惑星『アクアリア』の軌道上にエインヘリアルを停泊させた戦乙女たちは、シャトルで地上の海上都市へと降り立っていた。
他のメンバーたちがそれぞれスパやカジノへと散っていく中、ローゼリアとリアンヌの二人は、海沿いに建ち並ぶ巨大な高級ショッピングモールの一角——水着の専門店へと足を運んでいた。
「ローゼリア。本当に私まで、このような派手な布地を着なければならないのでしょうか……?」
周囲に並ぶ色とりどりで露出度の高い水着の数々を見て、私服姿のリアンヌが少し困ったように眉を下げた。
「当然じゃ。バカンスにおいて水着とは、戦場における装甲と同じ。無防備な姿で海という名の戦場に出るなど、騎士としてあるまじき行為じゃぞ」
「そ、それはそうですが……」
リアンヌはローゼリアの少し強引な理論に苦笑しつつも、素直に頷いた。
(くぅぅぅっ……!! 二人きりの時だけ『姫君』という敬称を外し、名前で呼んでくれるこの特別感!! マジで最高すぎる!! これだけで白飯三杯は余裕でいけるぞ!!)
内心では限界オタクとしての歓喜の雄叫びを上げながらも、ローゼリアは『冷静なプロフェッショナル』としての誓いを胸に、表情筋を完璧にコントロールして気高い笑みを浮かべていた。
「案ずるな。妾が直々に、お主の魅力を最大限に引き出しつつ、実用性(?)も兼ね備えた最高の装甲を見繕ってやろう」
ローゼリアは店内を滑るように移動し、熟練のソムリエのごとき手つきで次々と水着をピックアップしていく。
騎士としての引き締まった腹筋を美しく見せるためのスポーティなビキニ。優雅さを際立たせる純白のパレオ付き。そして、少し大人びた黒のホルターネック。
「さあ、まずはこの三着じゃ。フィッティングルームへ行くぞ」
「は、はい……。ローゼリアがそこまで仰るなら」
言われるがままに試着室へと押し込まれるリアンヌ。
待つこと数分。カーテンがシャラリと開き、着替えを終えたリアンヌが恥ずかしそうに姿を現した。
「……ど、どうでしょうか、ローゼリア。少し、布の面積が少なすぎる気がするのですが……」
彼女が身に纏っていたのは、純白をベースに白銀の意匠があしらわれた、上品かつ大胆なビキニスタイルの水着であった。
普段の分厚い騎士の装甲の下に隠されていた、無駄な肉が一切ないしなやかな肢体。雪のように白い肌と、うっすらと割れた美しい腹筋。そして、腰に巻かれた薄手のパレオが、彼女の歩みとともにふわりと揺れる。
「…………っ!!」
(キタァァァァァァァッ!! 女神!! ここに白銀の女神が降臨したぞォォォッ!! 前回の水着姿も良かったけど、今回はさらに洗練されたデザイン! 腹筋のラインが芸術的すぎる!!)
ローゼリアの鼻の奥で、ツンとした危険な痛みが走る。
危うく鼻血が噴出しそうになったが、ローゼリアはギリギリのところで深く息を吸い込み、限界オタクの精神を丹田へと沈めた。
(落ち着け! 妾は冷静なプロフェッショナル! ここで鼻血を出して倒れたら、ただの変態セクハラ主君になってしまう! 優雅に、かつ的確なレビューを述べるのだ!)
ローゼリアは腕を組み、まるで一流の美術品を鑑定するかのように、真剣な眼差しでリアンヌを見つめた。
「……うむ。素晴らしいぞ、リアンヌ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。純白と白銀のカラーリングは、お主の愛機『ブラン』を彷彿とさせる。布地の少なさは機動力の向上に直結し、水圧抵抗を極限まで減らす完璧な設計じゃ。……お主のその鍛え上げられた美しい身体に、これ以上似合うものはない」
「ローゼリア……」
主君からの真っ直ぐで(ちょっとズレた)ベタ褒めに、リアンヌは顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。
「あなたがそう仰ってくださるなら、私はこの水着で、どこまでもあなたをお守りしてみせます」
「うむ、頼もしいぞ! よし、これでお主の装備は決まりじゃな。店員、これを包んでくれ!」
完璧な理性を保ったまま任務(水着選び)を完遂し、内心でガッツポーズを決めるローゼリア。
しかし、これで終わりではなかった。
「……お待ちください、ローゼリア。私のものばかりで、あなたの水着がまだ決まっていません」
「えっ? いや、妾は適当なもので……」
「いけません。あなたはこの銀河で最も気高く美しい、私の主君なのです。海辺に出る以上、それに相応しいお姿でなければ」
今度はリアンヌが目を輝かせ、店内のハンガーを物色し始めた。
そして彼女が「これです!」と満面の笑みで持ってきたのは——漆黒の生地に、深紅のリボンとたっぷりのフリルがあしらわれた、ひどく可愛らしい(そして少し子供っぽい)デザインのビキニであった。
「さあ、ローゼリア。今度はあなたが着替える番ですよ」
「ま、待て! さすがにフリルが多すぎないか!? 妾はダークでクールな死神なんじゃぞ!?」
「ええ、とてもダークでクールで……そして最高に可愛らしい死神です。さあ、早く!」
有無を言わさぬリアンヌの笑顔と圧に負け、ローゼリアは渋々フィッティングルームへと押し込まれた。
数分後。
「……笑うなよ、絶対に笑うなよ」
真っ赤な顔をしてカーテンから出てきたローゼリアを見て、リアンヌは両手を口元に当て、ふわりと花が咲くような笑みを浮かべた。
「……ええ。とてもよくお似合いです、ローゼリア。まるで、海に舞い降りた黒い妖精のよう」
「よ、妖精って言うな! 威厳が欠片もないではないか!」
照れ隠しにツンとそっぽを向くローゼリアだったが、リアンヌが自分のために一生懸命選んでくれた水着を着るというのは、オタク心としてはこれ以上ないほど嬉しい事象でもあった。
(まあ、リアンヌ様が喜んでるなら……いっか!)
「ふん……まあ、お主がどうしてもと言うなら、これを着てやらんこともないぞ」
「ふふっ、ありがとうございます。海に出るのが、ますます楽しみになりましたね、ローゼリア」
二人きりの穏やかな時間。
お互いの名前を呼び合い、主従でありながらもそれ以上の深い絆で結ばれた二人は、新調した最強の装甲(水着)を手に、煌めく海へと続くリゾートのゲートを潜っていくのであった。




