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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第六十八話:裏切りの積荷と、迫る鋼鉄の包囲網

「ふん、他愛もない! 所詮は烏合の衆よな!」

漆黒の専用機『タナトス』が、宇宙空間を滑るように駆け抜ける。

右手に握られた巨大な大鎌デスサイズが、魔力による空間切断をオフにした「ただの物理的な刃」として振るわれているにも関わらず、海賊『ブラッド・ファング』の機体は次々と両断され、宇宙の屑と化していった。

『姫君の背後は、この私が!』

純白の機体『ブラン』を駆るリアンヌもまた、美しい演舞のような槍捌きで、海賊どもを的確に串刺しにしていく。

三百機いたはずの海賊部隊は、開戦からわずか十分でその半数を失い、パニックに陥っていた。

『ひ、ひぃぃっ! 話が違うぞ! なんでこんなバケモノが護衛に……!』

『撤退だ! 逃げろォッ!』

残虐で知られるブラッド・ファングの海賊たちは、戦乙女の圧倒的な力に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

「……ふむ。随分と呆気ない幕切れじゃな。大口を叩いていた割には、骨のない連中じゃ」

ローゼリアは、逃げゆく海賊船の背中を見送りながら、タナトスの大鎌を肩に担ぎ直した。

『……ええ。ですが姫君、少し妙です。奴らの動き、本気で積荷を奪いに来たというよりは、まるで時間稼ぎの「陽動」のようにも見えました』

リアンヌが警戒を解かずに周囲の宙域をスキャンする。

その直後だった。

母艦エインヘリアルのブリッジから、ブリュンヒルデの切羽詰まった声が響き渡った。

『ローゼリア、リアンヌ! 輸送船団の前方に、大規模な空間跳躍ワープ反応! ……これは、海賊の増援じゃない! 正規軍の艦隊だ!!』

「な、なんじゃと!?」

ローゼリアが前方へカメラを向けると、空間が激しく歪み、無数の閃光と共に巨大な大艦隊が姿を現した。

濃紺と金を基調とした、重厚で洗練されたデザインの戦艦群。そして、それに随伴する数百機におよぶ精鋭マギアナイト部隊。

『あの紋章……第三星区の強国、ボルス国の正規軍だ! なぜこんな辺境の暗礁宙域に!?』

ブリュンヒルデが驚愕の声を上げる。

さらに、ボルス国軍の先頭に陣取る、一際重装甲の灰色の機体群を見て、彼女は血の気を引かせた。

『……くそっ! あれは同業の傭兵団『鉄銀てつぎん』だ! 近接格闘と重装甲に特化した、業界でもトップクラスの連中だぞ!』

(鉄銀!? なんだそのいかにも「武骨なライバル傭兵団」みたいな名前は! ていうか、なんで正規軍と一緒に俺たちを包囲してんの!?)

ローゼリアが内心で盛大にツッコミを入れていると、全オープン回線に、低くドスの効いた男の声が響き渡った。

『——傭兵団「戦乙女エインヘリアル」に告ぐ! 我々はボルス国王室の依頼を受けた、傭兵団「鉄銀」の団長、ガルフだ!』

灰色の隊長機が、巨大な戦斧を構えながら前に出る。

『お前たちは完全に包囲されている! 抵抗をやめ、直ちに武装を解除しろ! そして、お前たちが誘拐した「我がボルス国の王太子殿下、および王太子妃殿下」を無傷で引き渡せ!!』

「…………は?」

ローゼリアは、タナトスのコクピットで間の抜けた声を漏らした。

「王太子? 妃殿下? 誘拐じゃと……? 何を馬鹿なことを言っておる! 妾たちが護衛しているのは、希少鉱石のアエテルニウムじゃぞ!」

ローゼリアの反論に、ガルフは鼻で笑うような声を出した。

『とぼけるな! 貴様らが護衛している第三輸送船のVIPブロックに、誘拐された両殿下が監禁されているという確かな情報タレコミが入っているんだ! まさか天下の「戦乙女」が、王族誘拐という下劣な犯罪に手を染めるとはな!』

『情報だと……!? 待て、ローゼリア、リアンヌ! 第三輸送船の依頼人ベノムから通信が入った!』

ブリュンヒルデが叫ぶと同時に、モニターにあの胡散臭い男、ベノムの顔が映し出された。

「ヒッ、ヒヒ……。戦乙女の皆様、どうやらお別れの時間が来たようです」

ベノムは、紫色のスーツの襟を正しながら、ねっとりとした笑みを浮かべていた。

「どういうことだ、ベノム! 王太子誘拐とは何の話だ! 貴様、我々を騙したのか!」

ブリュンヒルデが怒号を飛ばす。

「人聞きの悪い。私は正当な『護衛』を依頼したのですよ。……もっとも、運んでいたのは鉱石ではなく、我が同志たちがボルス国から拉致してきた『最高級の人質ロイヤル』でしたがね。ヒッヒヒ!」

ベノムの機械眼が、邪悪な光を放つ。

「先ほどの海賊は、ボルス国軍の足止めのために私が雇ったダミー。そして、貴女方『戦乙女』は、我々が安全な宙域へ逃げ延びるための『最強の盾』であり……そして、すべての罪を被る『身代わり』というわけです」

「貴様……ッ! 最初から妾たちをトカゲの尻尾にするつもりで依頼しおったな!!」

ローゼリアが激怒し、タナトスの大鎌を強く握りしめる。

「そういうことです。王太子殿下たちは輸送船に残しておきます。せいぜい、激怒しているボルス国軍と『鉄銀』の連中を相手に、仲良く殺し合ってください。……では、私はこれにて」

映像の背後で、第三輸送船の船底から、ステルス機能を備えた小型の脱出艇が射出されるのが見えた。ベノムは最初から、戦乙女が正規軍と衝突している隙に、単身で逃亡する算段だったのだ。

通信は一方的に切断された。

(や、やられたぁぁぁッ!! ベタな裏切り展開! しかも、俺たちが『誘拐犯の主犯格』として正規軍に追われる最悪のシチュエーションじゃねぇか!!)

「おのれ、薄汚い小悪党め……! 姫君を謀った大罪、万死に値するッ!」

リアンヌが激昂し、ブランの長槍に魔力を迸らせる。

しかし、状況は彼女たちの怒りを待ってはくれなかった。

『問答は無用だ、戦乙女! 大人しく投降しないというなら、力ずくで両殿下を奪還させてもらう! 鉄銀部隊、突撃!!』

ガルフの号令と共に、ボルス国軍と傭兵団『鉄銀』の重装甲マギアナイト部隊が、一斉にスラスターを吹かして襲い掛かってきた。

彼らの目的は人質の救出であるため、輸送船への直接砲撃は避けているが、その分、ローゼリアとリアンヌに対する殺意は尋常ではない。

「くそっ! 団長、どうする! ベノムの脱出艇を追うか!?」

『駄目だ、ステルスで完全にロストした! それより、目の前の連中をどうにかしろ! 交戦状態に入った以上、奴らは我々の言い分など聞きはしないぞ!』

ブリュンヒルデが、胃を押さえながら悲痛な叫びを上げる。

「ちぃっ……! 仕方あるまい、リアンヌ! 降りかかる火の粉は払うまでじゃ! 迎撃するぞ!」

『はいっ!』

ローゼリアとリアンヌは、再び背中合わせに陣形を組み、迫り来る『鉄銀』の部隊を迎え撃つ。

しかし、ローゼリアはタナトスの操縦桿を握りながら、ギリッと歯を食いしばった。

(マジで最悪だ! 敵はこっちを誘拐犯だと思い込んでる『正義の味方』側だし、しかも背後の輸送船には『本物の王太子夫婦』が乗ってる! 流れ弾が当たって王族が死んだら、それこそ帝国とボルス国で国際問題(ガチの戦争)になっちまう!!)

「ローゼリア! 絶対に輸送船に攻撃を当てるなよ! お前のその大鎌も、空間切断チートは絶対に使用禁止だ! ただの物理攻撃で峰打ちしろ!!」

ブリュンヒルデからの無慈悲な『手加減(縛りプレイ)』の指令が飛ぶ。

「分かっておるわ! ええい、面倒な!! ランドグリーズとロスヴァイセの出撃を急がせろ! 妾とリアンヌだけでは、輸送船を庇いながらこの数を無力化するのは骨が折れるわ!」

『オルトリンデの狙撃も、輸送船にカスる可能性があるから使えん! クソッ、なんて厄介な依頼を受けちまったんだ……私の胃に穴を開ける気か!』

ボルス国軍と『鉄銀』の猛攻が、手加減を強いられた戦乙女たちに襲い掛かる。

悪辣な陰謀によって「誘拐犯」へと仕立て上げられた傭兵団エインヘリアルは、背後の『王族』を護りながら、怒れる国家権力とトップ傭兵団を相手に、かつてないほど窮屈で過酷な防衛戦を強いられることとなったのである。

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