第六十四話:止まらない開発(狂気)と、戦乙女たちの過剰武装
特化型殲滅機体『タナトス』の完成。
それが、狂気の始まりに過ぎなかったことを、傭兵団『戦乙女』の団長ブリュンヒルデは、数日後に嫌というほど思い知らされることとなる。
「……おい、お前ら。一体何をしているんだ」
エインヘリアルの特別ドックの扉を開けたブリュンヒルデは、右手に胃薬の瓶を握りしめたまま、その場に立ち尽くした。
ドックの中では、火花と眩い魔力の光が飛び交い、徹夜明けでテンションが完全にバグっているフィーネと、端末の中で不気味に明滅するバハムートが、不敵な笑い声を上げていた。
「おお、団長! いいところに来たな! いやぁ、タナトスとブランを造った時の古代技術の解析データがさ、まだまだ応用が利きそうでよ!」
『ええ。私の中に蓄積された神話の叡智と、現代の変態的……失礼、独創的な発想を持つフィーネの技術が組み合わされば、このような汎用化など造作もないことです』
二人の背後には、長女ランドグリーズの『グリムゲルデ』、次女ロスヴァイセの『ヘルムヴィーゲ』、三女オルトリンデの『ジークルーネ』が並べられ、それぞれに見たこともない凶悪な『新武装』が換装されていた。
「バハムート、お前……! ローゼリアの専用機と、リアンヌの機体を造るだけだと言っていたじゃないか!」
『マスターの機体が神話級に引き上げられた以上、随伴する小間使い(戦乙女)どもが現代のポンコツのままでは、戦場での連携に支障をきたします。ゆえに、全機の火力をベースアップした次第ですが?』
「事後報告で小隊まるごと戦略兵器にアップグレードする奴があるか!!」
ブリュンヒルデの悲鳴をよそに、自身の新しい武装をテストしていた三姉妹が、歓喜の声を上げた。
「おいおいおい! なんだよこのハルバード!! 振っただけで空間が歪んでるじゃねぇか!」
ランドグリーズが、新たにグリムゲルデに装備された漆黒の巨大斧『重力崩壊斧』を振り回して大興奮している。
「古代の重力制御機構を応用してな。インパクトの瞬間に刃の質量を『戦艦クラス』まで引き上げる仕様だ。どんな分厚い装甲だろうと、紙クズみたいにペシャンコにできるぜ!」
「最高だ! これで乱戦の時に、敵をまとめてミンチにできるな!」
「……驚きました。この新しいミサイルポッド、弾頭が『空間跳躍』する仕組みですね?」
ロスヴァイセが、ヘルムヴィーゲの肩に増設された『次元断層ミサイル(ファントム・スウォーム)』の照準システムを確認しながら、冷たい笑みを深める。
『いかにも。撃ち出されたミサイルは一度亜空間に潜り、対象の死角——背後や装甲の隙間へ直接ワープして着弾します。広域制圧の効率が、従来の600%向上しました』
「素晴らしいですわ。これで、逃げ回るネズミどもを『どこからともなく』撃ち落とせますね」
「……この狙撃砲、スコープを覗くだけで、遮蔽物の裏はおろか、対象の『数秒先の未来位置』まで演算して表示されるのですが……?」
オルトリンデが、ジークルーネに与えられた『事象干渉型長距離狙撃砲』を撫でながら、丸眼鏡の奥の瞳を輝かせた。
「バハムートの演算処理をスコープに直結させたんだ。しかもビームは空間を貫通するから、射線上に星のデブリがあろうと味方の艦隊がいようと、敵の頭だけをノータイムで撃ち抜けるぜ!」
「……フフッ。狙撃手にとって、これ以上の芸術品はありませんね。最高です」
物騒極まりない兵器談義に花を咲かせる姉妹と開発陣。
もはや、一個の傭兵団が保有していい火力の次元を完全に逸脱している。
「……もうだめだ。こんな連中が星界をウロついてみろ、全銀河の軍隊が震え上がって、逆に討伐隊が組まれるぞ……」
ブリュンヒルデが胃薬を直接口に流し込んでいると、ドックの入り口から、ローゼリアとリアンヌが姿を現した。
「なんじゃ騒々しい。……って、おお!? ランドグリーズたちの機体まで改造したのか!」
ローゼリアが目を丸くする。
「お姫様、いいところに来た! 実はリアンヌ様の『ブラン』にも、もう一つだけとびきりの追加武装を用意してあるんだ!」
フィーネがコンソールを操作すると、純白の機体『ブラン』の背部ユニットがガチャリと音を立てて展開した。
瞬間、ブランの背中から、魔力で構成された『六枚の巨大な光の翼』が、神々しく、そして美しく広がり、ドック内を白銀の光で照らし出したのだ。
「これは……! フィーネ殿、この光は一体!?」
リアンヌが驚きの声を上げる。
『名称は「熾天使の光翼」。マスターをいかなる脅威からも守り抜くため、広域魔力障壁を視覚化したものです。この翼でマスターの機体を覆えば、星系を吹き飛ばす超新星爆発すら無傷でやり過ごせる、「絶対不可侵の盾」となります』
バハムートが誇らしげに解説する。
「なっ……」
ローゼリアは、その圧倒的に美しく、神々しい『ブラン』の姿に完全に釘付けになっていた。
(て、天使じゃ……!! 白銀の騎士(リアンヌ様)の背中に、光の六枚羽!? しかも俺を庇うための絶対防御!? ああああああっ!! 尊い!! 尊すぎて眼球が爆発しそうじゃ!! フィーネちゃん、バハムート様、お前らマジで最高の仕事しやがって!! 神!! 優勝!! 一生ついていくわ!!!)
内心で語彙力を完全に喪失し、限界オタクとしての致死量を超える「萌え」を浴びたローゼリアの鼻から、ツーッと赤い液体が流れ落ちる。
「……姫君!? お怪我ですか!? 鼻血が……!」
「な、なんでもない! ちょっとばかり、お主の新しい姿が……その、美しすぎて、魔力が暴走しただけじゃ!」
ローゼリアは慌てて鼻血を拭い、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「ローゼリア……! ああ、なんという……! このような神々しい力までお授けくださるとは! 私は……私は、さらにあなたへの忠誠を……ッ!」
リアンヌもまた、感極まってポロポロと涙を流し、ローゼリアの前に片膝をついて祈りを捧げている。
「お、おう! 存分に妾を守るがよいぞ、我が白銀の騎士よ!」
主君と騎士が、光輝く六枚羽の機体を背景に、美しい(そしてどこかおかしな)絆を深め合っている。
そんな光景を眺めながら、ブリュンヒルデはついに限界を迎え、壁に手をついて崩れ落ちた。
「……兵器開発の歯止めが利かない。AIは神話だし、整備士はマッドサイエンティストだし、姉妹はトリガーハッピーだし、副団長は狂信者だし、トップの姫様は(色んな意味で)変態だ……」
ブリュンヒルデの乾いた呟きは、ドックに響く戦乙女たちの歓喜の声にかき消されていった。
かくして、ただでさえ最強だった傭兵団『戦乙女』は、狂気の合作によって「個の力で銀河を落とせる」レベルの過剰武装集団へと、決定的な進化を遂げてしまったのである。




