第六十三話:狂気の合作と、戦慄する団長
リアンヌの愛機『ブラン』がロールアウトしてから、およそ一ヶ月後。
ルーンベイト連合との戦争(という名の蹂躙劇)を経て、一時的に平和を取り戻した銀河で、傭兵団『戦乙女』は束の間の休息を満喫していた。
いや、正確には「一部の者」を除いて、である。
「——さあ、お披露目だぜ! 刮目して見やがれ、うちのお姫様専用の、正真正銘のバケモノ機体のお出ましだ!」
エインヘリアルの最深部、特別ドック。
目の下にどす黒いクマを作り、髪をボサボサにしながらも、異様なテンションでハイライトの消えた瞳をギラギラと輝かせる整備班長フィーネ。
彼女が巨大なコンソールを叩くと、ドックの中央に掛けられていた耐爆シートが重々しい音と共に取り払われた。
『フッ……。現代のサルにしては、よく私の高度な要求設計についてきましたね、フィーネ。お陰で、マスターに相応しい至高の「神話の再現」が完了しましたよ』
ローゼリアのタブレット端末から、神話のAI『バハムート』がひときわ傲慢に、しかしどこか満足げな声で同調する。
「うおおっ!? なんだ、バハムート! お前、フィーネとすっかり意気投合しておるではないか!」
ローゼリアは、普段は現代人を「サル」と呼んで見下しているバハムートが、フィーネと謎の『技術者同士の熱い友情』を築いていることに驚愕していた。
どうやらこの一ヶ月、ローゼリアの新しい日常用の機体を造るため、神話のAIと現代の天才メカニックは寝食(AIに食はないが)を忘れて開発に没頭していたらしい。
「ふふふ……。バハムートの野郎の持ってる古代技術のデータ、マジでエグくてさ。私の持てる現代の錬金術と極限まで擦り合わせて、ついに完成させちまったのさ」
フィーネが誇らしげに指差した先。
光に照らし出されたその機体を見て、ローゼリアは息を呑んだ。
全高は標準的なマギアナイトと同じ十八メートル前後。
しかし、その装甲は宇宙の暗闇よりもなお深い、艶やかな漆黒。背部には、蝙蝠の翼にも悪魔の外套にも見える、特殊な魔力流体装甲が折り畳まれている。
そして右腕に握られているのは、機体の身の丈をゆうに超える、禍々しい漆黒の大鎌であった。
「……名付けて、特化型殲滅機体『タナトス』だ」
(うおおおおおっ!! なにこれめっちゃカッコいい!! 死神(俺)に大鎌とか、中二病のド真ん中をぶち抜いてきやがる!! フィーネちゃんマジで天才かよ!!)
内心でスタンディングオベーションを送りながら、ローゼリアは必死に顔のニヤけを抑え、あくまで「王者の風格」を保って静かに頷いた。
「ほう……。見た目は悪くない。しかし、性能はどうなんじゃ? 古代機体の『ノワール』と同等とまではいかなくとも、それに肉薄する程度の力は……」
「同等? 肉薄?」
フィーネは、カッと目を見開き、狂気じみた笑みを浮かべた。
「お姫様。私とバハムートの天才コンビを舐めないでほしいね。こいつはノワールと同等なんかじゃない。——『ノワールよりもヤバい』んだよ」
「……は?」
そこに、今まで黙って機体のスペック表を端末で確認していたブリュンヒルデ団長が、突如として青ざめた顔で声を上げた。
「……おい、フィーネ。バハムート。この仕様書はなんだ」
ブリュンヒルデの声は、怒りを通り越して、純粋な『恐怖』に震えていた。
「ジェネレーター出力『測定不能』。……まあ、これはローゼリアの魔力を直接動力にするなら分かる。だが、この『空間跳躍スラスター』とはなんだ? マギアナイトのサイズで、推進剤を使わずに空間を削り取って瞬間移動するだと……?」
『ええ。マスターの魔力を動力源に、古代の空間歪曲理論を組み込みました。理論上、視認できる範囲ならゼロタイムで背後を取れます』
バハムートがサラリと答える。
「……被弾時のダメージは『魔力による自動修復』で瞬時に復元? ……主兵装の『断次元サイズ(大鎌)』は、物理的な装甲どころか、対象の『空間ごと』切断する……?」
ブリュンヒルデの額から、タラリと冷や汗が流れ落ちた。
「お前ら、頭おかしいんじゃないのか……?」
歴戦の傭兵団を束ねる女傑ブリュンヒルデが、完全に『ドン引き』していた。
彼女は、まるで触れてはならない宇宙の真理を見てしまったかのように、震える指でフィーネとバハムートを指差した。
「そんな歩く戦略兵器を、普段の傭兵稼業で使う気か!? ただでさえ『リヴァイアサン』という銀河を滅ぼしかねないバケモノを抱え込んで胃が痛いというのに、通常サイズで古代機体以上のバケモノを新造する馬鹿がどこにいる!!」
「いやぁ、技術者のロマンってやつ? やれると分かったら、限界までやってみたくなるじゃん!」
『フッ。団長殿は凡人ゆえに理解できないのでしょう。我がマスターには、最強の鉾こそが相応しい』
ケラケラと笑うフィーネと、どこ吹く風のバハムート。
その二人の狂気に満ちたコラボレーションを前に、ブリュンヒルデはついに頭を抱え、その場にしゃがみ込んでしまった。
「……もう嫌だ。この傭兵団、バケモノと狂人しかいない。連邦軍の監査が来たらどうやって言い訳すればいいんだ……。胃薬……誰か胃薬をくれ……」
(だ、団長ーっ! 頑張って! あなたが唯一のツッコミ役(常識人)なんじゃーっ!)
ローゼリアは内心でブリュンヒルデに激しく同情しつつも、目の前にある最強の機体『タナトス』の誘惑には到底抗えなかった。
「素晴らしいぞ、フィーネ、バハムート! これで心置きなく、リアンヌの背中を守りながら暴れ回ることができる!」
「ええ、ローゼリア。あなたの新しいお姿、とても美しく、そして恐ろしいです。……やはり、私の主君には世界で一番強い機体が似合いますね」
リアンヌもまた、新しい機体を見上げてうっとりと微笑んでいる。
彼女にとって、主君が強大な力を得ることは無上の喜びなのだ。
「うむ! リアンヌの『ブラン』と共に、この『タナトス』で全銀河に戦乙女の名を轟かせてやろうぞ!」
「はい、どこまでもあなたにお供いたします、我が姫君!」
主従が美しく(そして物騒な)決意を固め合う背後で、ブリュンヒルデの乾いた笑い声だけがドックに響いていた。
「はは……ははは……。もう好きにしろ。星系を三つ四つ消し飛ばすまでは、何も言わん……」
天才と神話が手を結び、生み出されてしまった特大のオーパーツ。
新たな『黒き死神』の愛機タナトスは、早く実戦でその狂った性能を試させてくれとばかりに、妖しく漆黒の刃を輝かせているのであった。




