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追放皇女の異世界戦記  作者: 浅井川亘


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第六十話:禁忌の解放と、顕現せし神帝機

ルーンベイト連合の正規軍二千機による、圧倒的な物量戦。

その無慈悲な暴力は、前線で奮闘する戦乙女たちだけでなく、彼女たちの帰るべき場所——傭兵団の母艦『エインヘリアル』にも、ついにその牙を剥き始めていた。

ズドドドドォォォォンッ!!

「きゃああっ!?」

「右舷第三装甲、被弾! 魔力シールドの出力が急激に低下しています!」

エインヘリアルのブリッジが激しく揺れ、オペレーターの悲鳴が響き渡る。

戦場を埋め尽くすOD色の量産機『ベスター』の群れの後方から、連合軍の巡洋艦部隊が一斉に主砲の砲門を開き、エインヘリアルへ向けて長距離からの艦砲射撃を開始したのだ。

『……ローゼリア! 敵艦隊の火力が、こちらの防衛線を越えて届き始めた! このままシールドを削られ続ければ、母艦が保たないぞ!』

通信モニター越しに、ブリュンヒルデ団長が血を流しながら叫ぶ。先程の衝撃で、ブリッジのコンソールが爆発したらしい。

「団長! フィーネ! くそっ……!」

漆黒の『ノワール』のコクピットで、ローゼリアは強く歯を噛み締めた。

周囲には、未だ千機以上の敵機がイナゴのように群がっている。これらを一機ずつ斬り捨てていては、母艦が沈むのが先か、リアンヌたち戦乙女の体力が限界を迎えるのが先か、という最悪のジリ貧状態だった。

(……マジで最悪だ! これ以上、俺の大切な居場所エインヘリアルと、大好きな推し(リアンヌ)たちを傷つけられてたまるかよ!)

ローゼリアの脳裏に、一つの『最悪にして最強の選択肢』が過ぎる。

母艦エインヘリアルの最深部、特別格納庫に封印されている巨大な機体。六百年前の神話の時代から持ち帰った、全高十八メートルのバケモノ——神帝機『レヴィアタン』である。

(出来ればアレだけは使いたくなかった……! レヴィアタンの火力はあまりにも桁違いすぎる。敵を無差別に焼き尽くす広域殲滅兵装なんて使えば、乱戦状態の今、味方の帝国警備隊やリアンヌたちまで巻き込んで宇宙の塵にしかねない……!)

だからこそ、ローゼリアは自身の魔力と操縦技術のみで戦える『ノワール』で出撃したのだ。

しかし、状況はもはや彼女の躊躇いを許さなかった。

ズドォォォォンッ!!

再びエインヘリアルに敵の砲撃が直撃し、巨大な白と金の船体が大きく傾く。

同時に、前線で味方を庇い続けていたリアンヌの『スローネ』の純白の盾から、限界を知らせるガラスの割れるような破砕音が響いた。

『——くぅっ……! まだ、です……! 私は白銀の騎士……我が姫君の、盾……ッ!』

「リアンヌ!!」

装甲から火花を散らしながらも、一歩も退こうとしない相棒の姿。

その瞬間、ローゼリアの中で、何かが完全に弾け飛んだ。

「……バハムート!!」

『はい、マスター。お待ちしておりました』

ローゼリアの怒号に、AIバハムートが無機質ながらも、どこか歓喜を孕んだ声で即答する。

「『レヴィアタン』の動力炉エーテル・リアクターを起動せよ! 封印プロテクトを全解除! 妾が直々に、あの鬱陶しいハエどもを根こそぎ消し炭にしてやる!!」

『御意。神帝機レヴィアタン、メインシステム・オンライン。いつでも出撃可能です。……フフッ、ようやく私の真の力を振るう時が来ましたね』

ローゼリアはノワールのスラスターを全開にし、敵を強引に吹き飛ばしながら通信回線を最大出力で開いた。

「全機に告ぐ! これより妾は機体を乗り換える! リアンヌ、ランドグリーズ、ロスヴァイセ、オルトリンデ! そして帝国の警備隊ども! 今すぐ攻撃を中止し、母艦エインヘリアルの真後ろまで全力で退避して防御陣形をとれ!!」

『ローゼリア!? 機体を乗り換えるって、まさかアレを……!?』

『姫君、しかし私たちがここを退けば、母艦が——!』

「いいから下がれリアンヌ!! 一秒でも早く妾の射線から消えるのじゃ!!」

ローゼリアの悲痛なまでの、そして絶対的な王の命令に、戦乙女たちと帝国警備隊は即座に機体を反転させた。

ノワールもまた、猛スピードでエインヘリアルのカタパルトデッキへと強行着艦する。

『ヒャハハハ! 見ろ、傭兵どもが逃げていくぞ!』

『母艦を盾にして引き籠る気か! 追え! 一機残らずスクラップにしてやれ!』

味方機が母艦の背後へと隠れるように撤退していくのを見て、ルーンベイト連合の軍勢は勝利を確信し、歓喜の声を上げながら一斉にエインヘリアルへと殺到してきた。

その数、およそ千五百。宇宙を埋め尽くすOD色の壁が、エインヘリアルを完全に飲み込もうとした、その時。

——ゴァァァァァァァァァンッッ!!!!

突如として、宇宙空間に『音』が響き渡った。

真空であるはずの宇宙で音が伝わるはずがない。それは、あまりにも強大すぎる魔力の波動が、空間そのものを震わせ、パイロットたちの脳内に直接『恐怖』を刻み込んだ音だった。

『な、なんだ!? レーダーが真っ赤だぞ!?』

『エインヘリアルのハッチから……何か、出てくる……!』

連合兵たちが息を呑む中。

エインヘリアルの巨大な専用ハッチが開き、そこから『神話』が姿を現した。

全高十八メートル。通常の量産型マギアナイトの倍以上の巨躯。

深い蒼と黒を基調とした、悪魔とも竜ともつかない禍々しくも神々しい装甲。背部には、星の光すらも歪めるほどの莫大な魔力エネルギーが、八枚の巨大な光の翼となって展開されていた。

神帝機『レヴィアタン』。

かつて銀河を恐怖で支配した、文字通りの『破壊神』である。

『フハハハハハッ!!』

その巨大な機体のコクピットから、先程までの焦りを完全に捨て去った、冷酷無比なローゼリアの笑い声が全宙域に響き渡った。

『警告はしたはずじゃぞ、愚者ども。お主らは、決して触れてはならない逆鱗に触れた!』

『な、なんだあのバカデカい機体は!?』

『的が大きくなっただけだ! 集中砲火しろ! あの装甲ごと撃ち貫け!』

連合の指揮官が叫び、千五百機のベスターと巡洋艦群が一斉にレヴィアタンへ向けて砲撃を開始する。

雨霰と降り注ぐ、致死のレーザーとミサイル群。

しかし、レヴィアタンは回避行動すらとらなかった。

着弾の瞬間、レヴィアタンの周囲空間が陽炎のように歪み、すべての攻撃が『機体に触れる前に』文字通り蒸発して消滅したのだ。

『なっ……!? 空間魔力断層バリアだと!? 我々の艦砲射撃すらノーダメージだというのか!?』

『馬鹿な、あれほどの巨体を覆うバリアを常時展開するなど、どれだけのエネルギーが……!』

絶望に染まる連合軍の通信を聞きながら、ローゼリアは氷のように冷たい瞳で操縦桿を握った。

(味方は完全にエインヘリアルの後ろに隠れたな……。よし、バハムート。照準ターゲット、正面の敵全機)

『ロックオン完了。……対象、千五百二十四。広域殲滅兵装、安全装置リミッター解除』

レヴィアタンの巨大な両腕が、ゆっくりと前方に掲げられる。

その掌の間に、圧縮された極小の『疑似ブラックホール』のような暗黒の球体が生成され、周囲の光を激しく吸い込み始めた。

『妾の大切な居場所を傷つけた罪、その命をもって贖うが良い』

ローゼリアの声は、もはや人間のそれではなく、死を宣告する神の代行者のようであった。

『——灰燼に帰せ。【終焉の息吹オメガ・ブラスター】』

次の瞬間。

レヴィアタンの掌から放たれた極太の暗黒の閃光が、宇宙空間を文字通り『薙ぎ払った』。

音もなく、爆発すら起きない。

ただ、その暗黒の光の奔流に触れたルーンベイト連合の機体、巡洋艦、放たれたミサイル——そのすべてが、装甲が溶ける間すら与えられず、分子レベルで分解され、無差別に『消滅』していく。

『あ——』

『ひぃ——』

悲鳴を上げる時間すら、彼らには残されていなかった。

圧倒的な、次元の違う無慈悲な殲滅劇。

光の奔流が通り過ぎた後、先程まで千五百機以上の大軍勢で埋め尽くされていたはずの宇宙空間には、ただポッカリと、不自然なほどの『完全な虚無(なにもない空間)』だけが広がっていた。

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